「だから、私は山へ行く」 #07 宮田有理さん
ランドネ 編集部
- 2020年06月26日
山で見つけた植物や景色などをモチーフにしたアクセサリーを制作するジュエリーブランド「YURI MIYATA」のデザイナー、宮田有理さん。街と山を行き来する有理さんに聞く、ものづくりのことと、山のこと。
いろんな“好き”が山でつながった
小さな葉の形をした真鍮のブローチや、小枝をイメージしたシルバーのピアスなど、ミニマルでどこかやさしい雰囲気をまとったジュエリーが魅力の「YURI MIYATA」。山で出会った植物などをモチーフにした作品を制作する宮田有理さんが、はじめて本格的に山を歩いたのは2011年のこと。
「妹といっしょに参加した富士登山ツアーがきっかけでした。当時は登山の経験も知識もなかったので、登山靴とリュックとレインウェアだけ専門店で揃えて、あとは普段着でした。上りは想像以上にきつかったし、ダウンなどの防寒着も持っていなかったので、ご来光を待つあいだは凍えるような寒さ……。いま思い出しても、本当に大変でしたね(笑)。それでも、ご来光がとてもきれいで、すごく感動したのを覚えています」
当時、名古屋の洋食器会社で形状デザイナーとして働いていた有理さんは「せっかく山道具を揃えたのだから」と、ほかの山へも足を伸ばすようになったという。
「御在所岳、御岳、木曽駒ヶ岳、恵那山……など、いくつかの山を歩くうちに、どんどん山歩きが好きになっていったんです。山の景色や歩いてきた道を写真に撮ること、機能的な山道具がもつプロダクトとしての魅力を知ること、草花が描き出すたくさんの“形”に出会うこと……。それは、私にとってのいろんな“好き”が、山という場所でつながるような感覚でした」
ものづくりを通じて、街と山がつながっていく
2012年〜2013年ごろには、毎週のように山へ通うようになっていたという有理さん。山で見つけた自然の“形”をモチーフにしたものづくりへの思いも、このころから少しずつ芽生えていったという。
「当時勤めていた会社では、石膏をナイフなどで削って陶磁器のフォルムを作る仕事をしていました。ティーカップのハンドルなどを削り出していくのですが、そのときに植物などをモチーフにすることがあって、ヨーロッパの唐草模様などの勉強もしていたんです。山歩きですごく感動したのは、たくさんの植物の“形”に出会えたこと。とくに、歩き始めの森にある草花の形が大好きで、かわいい植物に出会うたびに『この形、削りたい〜!』って(笑)」
転機が訪れたのが、2015年のことだった。結婚を機に会社を退職し、東京に移り住んだ有理さんは「ものづくりを続けたい」との思いからジュエリーの制作を開始する。
「最初は、自分が山に持っていくサコッシュやバックパックにつけるブローチを作りたいと思ったんです。街にいるときに『これくらいのサイズがいいかな』と考えたり、山で『あ、この植物の形いいな』と思いながら歩いたり……。ものづくりをしていると、街で考えたことと、山で見つけたものが、うまくつながっていくような気がしたんです」
最初の作品は、陣馬山で出会ったチドリノキをモチーフにしたブローチ。くっきりとした葉脈を立体的に表現したこのアイテムは、いまでも一番のお気に入り。ナイフやヤスリを使ってジュエリーのフォルムを削り出す制作工程は、洋食器とも共通点が多く、ブローチが完成したときは思わず「よしっ!」と手応えを感じたという。
こうして一つひとつ作られる「YURI MIYATA」のアイテムは、少しずつ評判となり、やがて多くのファンを生んでいく。一方で、有理さんの山との向き合い方も、時間とともに少しずつ変化していった。たとえば「とにかくたくさんの山に登りたい!」という気持ちはいつしか落ち着き、ここ数年は山で〝のんびり過ごす〞時間を大切にするように。また、昨年からは森林保全に取り組むNPOの活動にも参加する。
「いまの私の生活は、ものづくりと山歩きが同じくらいのバランスで、すごくいいリズム。だからこそ、山や森の自然環境を守るためになにかできれば、と思ったんです。定期的に森の間伐や枝打ちなどの活動に参加しているのですが、木に登って黙々と枝を切る作業が想像以上に楽しくって(笑)。それに、森林保全活動を通じて自然に目を向ける人を増やしていく、という姿勢にも共感しています。私が作るジュエリーも、街と自然をつなぐ“きっかけ”のような存在になったら、とてもうれしいな。最近はそう思うようになりました」
植物のフォルムをモチーフにした作品を多く展開する「YURIMIYATA」だが、現在は新たなシリーズの制作も進んでいる。
「谷を霧が流れていく景色だったり、視界が一瞬で真っ白に変わる瞬間だったり……。山に登ったときに感じる空気の変化や神秘的な感覚を、自分なりの形に落とし込めたら、と思って毎日楽しく制作しています。2年ほど前から取り組んでいますが、ようやく形になってきたので、この夏か秋には発表できると思います」
独自の眼差しで自然を見つめ、ジュエリーという形に定着させていく……。街と山を行き来しながら、丁寧にものづくりを続ける有理さんは、これからもきっと美しい作品を生み出していくに違いない。
宮田有理
大学でセラミックデザインを学んだのち、形状デザイナーとして名古屋の洋食器会社に勤務。結婚を機に東京に移り住み、2015 年から「YURI MIYATA」をスタート。山をモチーフにしたものづくりを続けている。yurimiyata.net
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ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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