モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#09 ゴムあたまポンたろう
仲川 希良
- 2021年01月29日
頭がゴムでできた男の子の絵本、それが『ゴムあたまポンたろう』。ページをめくると突然ポーンと飛んできて、山にあたってポーン、大男のツノに当たってポーンポーン。どこにあたっても痛くないゴムの頭で世界をめぐる、ナンセンスな展開がまさに長新太な一冊です。
私が長新太にはじめて出会ったのは、小学校の図書室でした。『キャベツくん』なんてこれまたとぼけた題名の絵本で、かわいい表紙が見えるよう目立つ場所にいつも置かれていたので、きっと人気があったのでしょう。
ところがどこか生真面目すぎる子どもだった私は、起承転結がハッキリしたものや緻密な絵に惹かれがち。「お前を食べるぞ」というブタさんに、「ぼくを食べたらこうなる!」とあらゆるものをキャベツに変身させてみせるキャベツくんの突飛なお話はあまりピンと来ず、棚に戻したことを覚えています。
そんなある意味忘れられない作家だった長新太に再び出会ったのは、大人になってから。2005年に急逝されたのを偲んで絵本売り場に特設されたコーナーで、ふと『ゴムあたまポンたろう』を手に取ってみたのです。
野蛮というのは言い過ぎですが、山の向こうからポーンと現れたポンたろうのように心に飛び込んでくる訳のわからない世界に頭をガンと殴られ、ポンポン飛び回るポンたろうの旅にボウっと身を任せるうち、気づけば不思議とクスクス笑いが込み上げてきました。一冊読むとまた一冊読みたくなり、長新太が紡ぐユーモラスな世界ですっかりよい気分に。
これはあれに似ているぞ。山を歩いて歩いて、なんだか急におかしくなってくるあの瞬間。空を見上げ、山並みを眺め、心に生気が満ちるような、心が野生を取り戻すのを感じるような、あの時間。
山に登ると体が疲れるのがいいのでしょうか。頭でっかちになっていた自分が解きほぐされて、いい天気だな、山が好きだな、というただそれだけでニッコリできるようになるのです。
思えば私の場合大人になるにつれ、「理由をつけない気持ち」を大切にできるようになった気がします。追求すれば訳はあるのでしょうけど、まずは感じる。感じたままに身を浸す。そのためのちょっとした訓練が、私にとってはライブだったりアートだったり登山だったり、そして絵本だったりするのです。ポンたろうのような柔らか頭、長新太の世界で笑える柔らかい心を、もっていたいものです。
ゴムあたまポンたろう
(長 新太・著/童心社)
なんとも微妙な表情でピンクの空を飛ぶポンたろう。この表紙でもう笑ってしまう。ちなみに夫は題名を聞いただけで笑ってました。また最初に戻りたくなるラストシーンも好き。
モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの11年目。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。新著『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』(小社刊)が発売中!
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PROFILE
ランドネ / モデル/フィールドナビゲーター
仲川 希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの14年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの14年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』