「だから、私は山へ行く」#18 KIKIさん
ランドネ 編集部
- 2022年09月26日
山と出会い、「いい意味で諦められるようになった」と話すKIKIさん。モデルとして、写真家として、文筆家として、そしてひとりの人間として……。さまざまな関わり方で自然と向き合う彼女が、山を愛する理由について。
この道の先を歩いてみたい
そんな好奇心に導かれて
この道の先にあるもの
すっと力の抜けた佇まいと、やわらかな眼差し。夏の光降る木々のなかに立つその姿には、〝自然体〞という言葉がよく似合う。モデルや写真家として活躍するKIKIさん。彼女がはじめて山に登ったのは、2006年の夏のことだった。
「友人に誘われて八ヶ岳の赤岳に登ったのが、最初の登山。そのときは、赤岳鉱泉に泊まる一泊二日の旅だったけれど、いろんなことに驚きました。東京の近くにこれほど豊かな自然があること、はじめての山小屋が想像よりもずっと快適な空間だったこと……。とくに印象的だったのは、山頂からの風景です。頂上の先にまだ道があって、その奥にいくつもの山が連なっている。その景色を見たときに『いつかこの先にも行ってみたい!』と思いました」
懐かしそうに話すKIKIさんは、「それともうひとつ」と続ける。
「これはいまも実感する登山の魅力ですが、山で友人と過ごす時間がとても好きなんです。とくべつなことを話すわけでもないけれど、長い道をいっしょに歩いて、ごはんを食べて……。そうすると、良い面も悪い面も見えてくるし、見せてしまう。その時間は、大人になるとなかなか得られない大切なものだと思うから」
気負わず、一歩を踏み出すこと
山に魅せられたKIKIさんは、さまざまな山域を旅するように。やがて仕事で山を歩く機会も増え、自然との関わり方の幅が広がったそう。
「山を通じてたくさんの方と知り合ったけれど、山岳ガイドの川名匡さんとの出会いは大きかったですね。クライミングなどの技術はもちろん、『こんな山の楽しみ方があるんだ!』ということをたくさん教えてもらいました。また、雑誌などでさまざまなアクティビティに挑戦できたことも、遊び方の幅が広がる良いきっかけ。アウトドアに限らず、私は楽しそうなことはなんでも試してみたいタイプ。自分なりに試行錯誤しながら本当に好きなものを見つけたいんです」
モデルや写真家として、山や自然について表現するとき、KIKIさんが伝えたいことのひとつが「気負わずに、一歩を踏み出してほしい」という想いだそう。その根底にはきっと、軽やかにさまざまなことに挑戦してきたKIKIさん自身の生き方がある。
山を歩いていると
心が軽くなる瞬間がある
ヒマラヤの空の下で
世界中の山々を歩いてきたKIKIさんにとって「きっともう一度行くだろう」と思える場所がある。
「標高6474メートルのメラピークは、ネパールの山々のなかでもトレッキングで行ける最高所のひとつ。2週間、毎日3〜5時間ほどの時間をかけて標高を上げていくのですが、ヒマラヤの山々を歩く時間が本当に贅沢で。歩き始めはいろいろなことを考えるけれど、だんだん疲れてくるし、自分の考えがちっぽけなものに感じられて、どこかで『もうあれこれ考えなくてもいいや』と思えてくる。その瞬間、心もふっと軽くなるような感覚になります」
山と出合い「いい意味で諦められるようになった」とKIKIさん。
「山では自然にあらがっても仕方がないし、自分にできることも限られている。〝足るを知る〞ではないけれど、思考の転換があったと思います。その感覚は都会に帰ってきてもどこかに残っていて『こんな天気の日に無理をして出かけなくてもいいか』と思えるようになった。それは私にとって心地よい変化です」
山との新しい関わり方
3歳と1歳の子をもつKIKIさん。ここ数年は昔のように高い山や海外のトレイルに行くことは少なくなった。けれど、その生活は新しい山の楽しみとの出会いでもある。
「いろんな山の歩き方があるように、子どもとだからこそできる山遊びがあると思うんです。日帰りで低山に出かけたり、そんなに歩かなくても行ける山小屋に泊まったり……。いろいろと試行錯誤しながら、自分たちが楽しめる方法を探しています」
仕事の面での新しい挑戦も。いま、KIKIさんは、奈良県南部・東部の奥大和エリアを舞台に開催される「マインドトレイル」で、天川エリアのキュレーターを務めている。
「『マインドトレイル』は、アートを通じて自然を体感する芸術祭。キュレーターを務めるのははじめてなので不安もありましたが、アート作品を探しながらトレイルを歩く感覚は山歩きとそっくり。『これならいままでの経験を活かせる』と思えました。訪れてくれた人が感覚の受け皿を広げ、自然に深く入っていく……。そんな体験を、アーティストといっしょにつくれたら幸せです」
気負わず、軽やかに。さまざまなことに挑戦し、自身にあった山との向き合い方を見つけてきたKIKIさん。その穏やかな表情は、ふたつとして同じ山がないように、ふたつとして同じ人生がないことを、教えてくれている気がした。
KIKIさん
東京都出身。モデル・女優として活躍するいっぽう、建築や山についての執筆活動や撮影なども行なう。芸術祭「MINDTRAIL 奥大和 心のなかの美術館」では天川エリアのキュレータを務める
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PROFILE
ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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