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「だから、私は山へ行く」#20 田中優佳子さん

ファッションの世界で活躍し、器作家に転身した田中優佳子さん。山で見た風景や日々の暮らしを作品に落とし込む彼女が、土と向き合い、自然を愛する理由について。

「だから、私は山へ行く」
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一歩一歩進んでゆく喜びは器づくりも、
山歩きも同じだと思う

流れる釉薬が雪山を思わせる小鉢に、夕焼けの空と海を表現したお椀。『ucacoceramics』の器には、自然の風景を感じさせるような繊細なゆらぎと温かみがある。

▲雪山を思わせる小さなお椀たち。昔から料理が大好きで「自分で使う器をつくりたい」との思いから陶芸を始めたそう。

「これまで見てきた景色や自分の好きなものが、やっぱり反映されるんですよね。大好きな雪山をモチーフにした器はもちろん、健康食にハマっていたときにはアサイーボウルをつくりましたし、タロットカードに夢中だったときは八芒星のお皿がどうしてもつくりたくなって(笑)。制作の根っこにあるのは、〝自分がほしい器〞なんです」そう言ってほがらかに笑うのは、2018年から『ucacoceramics』 を主宰する田中優佳子さんだ。

▲手に取ると驚くほど軽いティーカップなども定番

アウトドアの世界へ

幼いころからものづくりが好きだった優佳子さんは、服飾の仕事をしていた母親の影響でアパレルブランドに就職。バイヤーや店舗管理のキャリアを重ねてきた。そんな優佳子さんに転機が訪れたのは34歳のとき。

「ファッションが大好きで仕事もやりがいがあったのですが、シーズンごとにアイテムが消費されていくことに疑問を感じるようになっていて。そんなときに出会ったのが、北欧アウトドアブランドのPRの求人でした。子どものころからスキーはやっていましたが、本格的なアウトドア経験はゼロ。それでも、実用性や機能性を重視するアウトドアウエアなら、流行り廃りに流されるのではなく、長く愛用してもらえるんじゃないかと思ったんです」

こうして優佳子さんは、アウトドアの世界に飛び込むことになる。「なにもかもが初めての経験で、大変だったけれどおもしろかったですね。当時の社長は『なんでも自分たちでやってみる』という人。日本での新規立ち上げということもあって、本当にゼロから開拓する感覚でした。このころの経験は、自分にとって大きな糧になっています。もともと人と話すのが得意なタイプではないのですが、繊維の勉強会に参加したり、アウトドア業界のイベントに顔を出したり……。緊張でカチコチになりながらも、アウトドアの世界のことを知ろうと夢中で動き回りました」

そんな努力を重ねる優佳子さんの周りには、少しずつアウトドア業界の仲間が増えはじめ、ブランドの認知度も高まっていった。同時に、優佳子さん自身が自然のなかで遊ぶことに魅了されていった。

アウトドアの世界に飛び込んで
街では出会えない景色を知った

▲雄大な風景だけでなく雨をまとった苔や大地に降りた霜など、小さな美しさに感動できることもアウトドアの魅力だという優佳子さん

「バックカントリースキーやクライミング、トレランなど、ひととおりのアクティビティに挑戦してみまし た。なかでも人生観を変えるくらいすばらしい経験となったのは、アウトドアライターの高橋庄太郎さんと写真家の矢島慎一さんに連れていってもらった知床半島での縦走です。当時は山歩きの経験もほとんどなく、山行中は雨が降ったり、残雪のなかでテント泊したり……。大変すぎて帰りたくなったりもしたのですが、2日目の朝方にぱぁっと晴れたときの景色が本当に美しくて。『アウトドアって楽しい!』と思えた旅でした。山を歩いていると、街では見られない大きな風景に出会えるし、忙しい日々のなかでは見落としてしまうような小さな美しさにも気づくことができる。そんな瞬間が好きです」

▲高橋庄太郎さんや矢島慎一さんと歩いた2泊3日の知床半島縦走。
▲知床縦走のあとは、カヤックで半島を回る「知床エクスペディション」にも参加した。

器作家として生きる

充実した日々を送っていた優佳子さんだが、2017年に会社の事情で担当ブランドから離れることに。「これ以上愛情をもてるブランドはほかにない」と思った優佳子さんは、退職を決断。そして、このころに受けた健康診断で乳がんが発覚する。

「やっぱりショックでしたね。『この先どうなるかわからない』と思ったとき、まっさきに頭に浮かんだのが2007年から趣味として続けていた陶芸でした。器のかたちを思い描いているときも、土に触っているときも、ろくろを回しているときも、できた器でごはんを食べているときも、本当に楽しい。『これだけはやめたくない』と思ったんです」

▲葉山の自宅や鵠沼の工房で器作りと向き合う優佳子さん

手術と治療を終えた優佳子さんは 「どうしても手放したくなかった」 陶芸と向き合う日々を送るように。ファッションアイテムのような華やかさと大地のような穏やかさをもつ 『ucacoceramics』の器はやがて、多くのファンを生んでいく。

「まだまだ、うまくいかないことばかりです。いまの目標は『ucacoceramics』を、しっかりブランドとして育てていくこと。そのためには、納得のできる器をつくってイベントやワークショップで地道に手売りしていくのがいちばんかなと思っています。そうそう。陶芸と山歩きって、似ていると思うんです。行動食を食べながら少しずつ前に進んでいく感じも、感性だけじゃなくロジカルな思考が必要なところも。工房に籠もっているときはアウトドアウエアを着ていますしね(笑)」

一歩一歩、山を歩いてゆくように。優佳子さんはきっとこれからも、彼女にしかつくれない美しいかたちをつくり続けてゆくのだ。

田中優佳子さん

京都府出身。2018年から『ucacoceramics』を主宰し、和食にも洋食にも合う普段づかいの器を制作。陶芸や金継ぎのワークショップも行なう
ucacoceramics.com

「だから、私は山へ行く」
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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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