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恵み巡る。佐賀県太良町で自然の環を繋げていく梅津さんの牡蠣のはなし

花が芽吹き始め、暖かくなってくると外に出たくなる季節。山に足をはこび、森を、街を、そしてその向こうの海を眺める、そんな機会も増えるはず。今日はそんな季節に山と海のつながりに想いを馳せる、梅津聡さんの牡蠣のおはなしをお届けします。

牡蠣の大きさや味を自由に操ることができる「牡蠣養殖デザイナー」

梅津聡さんは佐賀県太良町で牡蠣の養殖を行なう株式会社海男の代表。日本中、いや世界中を探しても梅津さんのように牡蠣を知りつくし、牡蠣の大きさや味を自由に操ることができる人はいないといわれているほど、巧みな養殖技術を持つ「牡蠣養殖デザイナー」。

でも牡蠣を作り始めたのはじつは9年ほど前。その前は家業の土木事業を営みながら、日本全国の海に潜水士としてもぐったり、港湾工事をしたりしていたそう。2009年から漁師さんの課題解決のために観察を始め、2010年には全国11ヵ所で種苗採取試験を開始。2012年から養殖試験を開始し、その2年後の2014年には本格的な養殖を始めるというスピード感にも驚くが、そこからわずか10年足らずで世界有数の技術力を身に着ける探求心にますます興味を持ってしまう。

そんな梅津さんはいま、牡蠣養殖を通じて海の水質を改善していく構想を描いて奮闘している。有明海だけなく、周囲の川も、山も、さらに世界中をよりよい環境にしていきたい。自然の循環を繋ぎ直し、よりよい姿にしていこうと思考錯誤する梅津さんは熱く、真摯に自分の出来ることに向き合っている。

漁師さんの助けになりたいと牡蠣養殖を始める

梅津さんが牡蠣養殖を始めたきっかけは、漁師さんの助けになりたいという気持ちだった。

港湾工事は海の安全を守るためにも、漁師さんたちに快適に使ってもらうためにも必要なこと。でも、なぜか漁師さんたちと気持ちがすれ違ってしまう。その原因がどこにあるのかを考えたとき、高齢化はもちろん、彼らの経済的な不安定さや閉塞感にも目を向けるようになった。

そもそも日本は四方を海に囲まれ、よい漁場に恵まれてきた。そのため古くから「獲る漁業」が中心。しかし近年、気候変動や海水の酸化による酸素濃度の低下や人的要因もあり、日本近海の漁獲量は減少してきているのだとか。

そこで梅津さんは、漁師さんの助けになろうと「育てる漁業」、なかでも日本全国で離職により養殖場が余っている、二枚貝の養殖に目をつけた。といっても、それまで養殖業はやったことがない梅津さん。だれかが教えてくれるわけでもなく、港湾工事で培った海の環境保全に関する知識と、YouTubeで海外の養殖方法を見て独学で勉強し、あとはひたすら実験の日々を繰り返した。はじめは得た知識をすべて漁師さんに還元できればと考えていたが、紆余曲折を経て自身で養殖・出荷をする道へ。

殻の色から身の味わい、食感。
すべが違う15種類以上の牡蠣を養殖

梅津さんが作る牡蠣は丸くて小ぶり。てのひらにのせると、ころんと転がる。でも牡蠣といえば、口いっぱいにほおばるようなおおきなサイズを見ることが多い。「牡蠣は一口で食べるもの。なので女性でも舌の上で味わうことのできるサイズがベストだと考えています」。なるほど、たしかに味がぎゅっと詰まっていて、なにより、種類によって味が全然違う。

梅津さんがこれまでつくってきた品種は15種類以上。その一つひとつが殻の色が違ったり、身の味わいや食感も違う。これだけの種類を作り分けているのは、日本中でもここだけ。なかでも、地元・有明海産の種にこだわりたいと梅津さんは言う。

「地元の有明の海をよりよい場所にしたい。この海の環境に合う牡蠣をつくりたい。その思いで有明海にもともと住んでいた種を中心に牡蠣をつくっています。牡蠣ならばなんでもいいというわけではなく、自分がこの場所で幼い頃から食べてきたものを未来につなぐためにつくりたいんです」

春の有明海のただなかに目を向けると、ぷかぷかとイカダが浮かんでいる。その下にはカゴに入った牡蠣たちが。

日本では、ホタテの殻に牡蠣の種をつけた物をロープに挟み込み、吊るしておこなうカルチ式という養殖方法が一般的。でも、梅津さんはカゴの中に牡蠣を入れるシングルシード式だ。これは近年日本近海で問題になっている、ナルトビエイという二枚貝を好んで食べるエイの食害から牡蠣を守るため。さらに、このカゴの高さを変えることで牡蠣の味わいや大きさを調整するのだそう。牡蠣は海のなかの深い場所ではエサが食べやすく、殻が大きくなる。でもそれだけだとおいしい牡蠣はできない。

「浅いところに吊ると牡蠣にストレスがかかって身が甘くなります。また貝殻が動けば、その分貝柱の旨みも増える。その牡蠣をどう仕上げたいかを考えながら、出荷までに何度もカゴの高さや場所を変えて調整します」

これも梅津さん特製という鉄製のイカダの上を、息子さんと何気なく歩きながら、途方もないような作業を笑顔で語る。

「有明海の牡蠣は小ぶりなことが特徴です。やっぱりその場所で育ってきた牡蠣のほうが、環境に合わなくて失敗することが少なく、強い牡蠣ができる。いっぽうで、牡蠣は重さで出荷額が決まるから、ほかの県の大きくなりやすい種を持ってきて、はやく大きく育てるほうが効率がいいし、実際に周りもそうしている人が多いです。そもそも、シングルシード式もはじめは誰もやったことがないから、絶対にうまくいかないと言われてきました」

梅津さんのこれまでを聞きながらイカダをあとにし、ご自宅で特別に牡蠣をごちそうになった。

▲この日頂いた牡蠣は8種類。玄明・黒かき丸・おとふせ・おとふせシングル・宮雅・甘えん坊・GATA・セッカ
▲小ぶりで丸めの梅津さんの牡蠣。息子さんのさばく手もあざやか
▲この日名付けたばかりという新種の「甘えん坊」。口当たりよくやさしい味わい
▲佐賀県をとりまく2つの海、玄界灘と有明海で育てた「玄明」。佐賀名産の新タマネギソースで。さわやかな酸味と牡蠣の旨みが絶妙
▲有明海独自の品種・スミノエカキを古くから地元で呼ばれていた「セッカ」というブランド名に命名。酢味噌あぶりで。簡単だけどおいしい牡蠣の食べ方も日夜研究中

そして食卓には、これも梅津さんが作った、手のひらサイズを優に超える黒鮑も。

自分たちの日々の仕事のなかで自然にできることで環境を守る

世界中の牡蠣養殖のノウハウを学び研究するだけでなく、アワビやそのほかの養殖も思考する梅津さん。どうしてそんなに手間暇かけた養殖法を実践したり、種類を広げているのか伺った。

「生態系は繋がってるから、どれかに偏ってはいけないんです」

たとえば有明海では周辺の複数の川から豊富な泥が流れ込んでくる。ここに含まれる栄養素がプランクトンや海苔のエサになり、そのプランクトンを牡蠣が食べてフンを出す。そのフン=有機物が海のなかで分解されて新たな栄養分となり豊かな漁場を育んでいく。

「でも、どれかが多すぎるとバランスが崩れてしまう。たとえば一般的な牡蠣の養殖方法だとひとつのイカダにたくさんの牡蠣を吊るすから、そのイカダの下には自然界ではあり得ない量のフンが堆積してしまう。そうすると正常に分解されなくなって、ガスが発生し、それが赤潮の元になったりする」

なにかがいきすぎれば自然の環は崩れ、歪みが起きる。いっぽうで、人間の営みも続けていかなくてはいけない。

「だから並行していろいろなものを作ったり、自分たちの日々の仕事のなかで自然にできることで環境を守る必要がある。やっぱり特別なことをはりきってやっても続かないですよ」

いかに不自然なことをせずに、自然の環を繋げていくか。それは大量消費の営みに慣れ、速さや量が求められる現代では簡単なことではないように感じる。だからこそ、闇雲に体を使って頑張るだけでなく、「とことん頭を使う」ことを頑張る必要があると梅津さん。

「いま、ずっと考えていたあたらしい牡蠣の養殖システムがいよいよ実現できそうです。ITを使うことで毎日の作業が楽になるし、だれもが牡蠣づくりに参加できます。それだけじゃなくて、地元・佐賀の有田焼の業者さんと組んで、陶磁器づくりの廃材を使って牡蠣の苗床にしたり、海の浄化に貢献したりというのも考えています」

だれかが無理をすることなく、足元の材料や日々の営みのなかで自然と繋がる世界。それを夢のようと笑うことは簡単だけど、諦めずに考え続け、行動し続けることで実現する世界がある。

「ふたりの息子たちといっしょに段階的に漁業の世界観を変えていきたいと思っています。毎日船に乗って辛い仕事というイメージから、ジェットスキーに乗って楽しみながら仕事をしたり、IT技術をつかって離れた場所からでも仕事ができるようにたりして、自由な時間を増やしていく。そうやってできた時間をつかって、漁師が海だけでなく山を育て、自然をよくすることにも関わっていく世界を想い描いています。結局、海と山は繋がっている。自然界のバランスを整えていくことで、海にも魚や貝が増え、人間もうるおう。「獲る漁業」から、巡り巡る自然界の循環を「育てる漁業」に変えていきたいと考えています」

自然体でいることは楽をするということではなく、本質を大切にし、あるべきことを考え、実行する、その心持ちのことかもしれないと思う。山と海は繋がっていて、そのなかに人の営みがある。そんな自然の環をつなぎ、大きくしていく梅津さんの牡蠣たちは特別に豊かな味がした。

梅津聡さん

株式会社海男代表。佐賀県太良町で牡蠣の養殖業を営む。梅津さんの牡蠣を食べたい場合は、ECサイトから。現在は現地見学やツアーは受付けていないが、都内レストランや九州でイベントが開催されることもあるので、SNSやHPをぜひチェック。

●梅津さんの牡蠣の購入はこちら
https://umiotoko.shop-pro

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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