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アウトドア好きなわたしたちができるSDGs【#4 活エネルギーアカデミー】

東の空を仰ぎ見れば、“日本の屋根”飛騨山脈が連なる岐阜県高山市。春と秋は、豪華絢爛な屋台が趣深い木造の家並みのなかを巡行する高山で、近年、自然エネルギーに関する新たな取り組みが盛り上がっています。里山再生と地域経済をナチュラルに結びつける仕組みとは──。中心人物である活エネルギーアカデミーの澤 秀俊さんに、思いを伺いました。

おじゃましたのはこちら

NPO法人 活エネルギーアカデミー “Enepo”事務局
岐阜県高山市赤保木町297
TEL. 0577-32-6044
www.enepo-takayama.com

お話を伺ったのは

澤 秀俊さん
高山市出身。同NPOの事務局を務める、一級建築士。澤秀俊設計環境/SAWA DEEの代表。地元で間伐した木材の活用とその物流システム、建材作り、さらには地域通貨Enepoの発行など“循環を生み出す建築環境”をテーマに活動。畑作りも楽しむ三児の父。

暗い森が明るくなれば里山の未来にも光が射す

――それにしても澤さんの事務所からの眺めは、気持ちいいですね!

澤 秀俊(以下、澤) ありがとうございます。窓から笠ヶ岳に乗鞍、御嶽山まで一望できるんですよ。

――活動の拠点をここにしたのは、この絶景があったから?

 もちろんそれもありますが、もともと自分は高山出身なんです。

――いつかはUターンを、という想いがあったんですね。

 じつは最初からUターン志向があったわけではなくて。大学卒業後は東京の建築事務所で働いており、都内で3・11を経験しました。東日本大震災の被災地へボランティアに行ったとき、人間が好き勝手に生きてエネルギーを消費した結果がこれか、と愕然としたんです。震災をきっかけに自然エネルギーへの意識が高まり、2011年に仲間と三人でデザイン事務所を立ち上げました。

▲この日も活エネルギーアカデミー参加者が、木の駅でチェーンソーを使い、薪作り。楽しそうな姿が印象的。薪をひと山作ると4,000Enepoが支払われる。
▲澤さんの事務所前にある赤保木の木の駅。左の小屋も参加メンバーの手作り。
▲高齢化により、先祖代々受け継がれてきた森が放置されていることも多い高山。適切な間伐をすることによって、陰鬱な森が明るく蘇る。

――3・11は、多くの若者に社会のあり方をもう一度考えさせました。

 そうですね。新たな事務所で地方との仕事が増え「地方って楽しいな」と思うようになりました。

――地方の楽しさとは?

 暮らしの近くに土と山がある。無理なく衣食住が成り立つ、という点ですね。 20代後半は「一流の建築家なら東京にいなくちゃ!」と変な意識もありましたが、次第に百姓に憧れるようになって。

――建築家から農家!

 バイアスが外れすぎちゃいました(笑)。10年ほど前には京都府綾部市の古民家へ移住し、自然農の畑で土をいじっていました。
その後、長男の里帰り出産で故郷の高山へ一時戻るタイミングがあって。当時の高山市長は「自然エネルギー利用日本一のまち」を目指しており、たまたま開催していた自然エネルギーの集中講座に参加しました。そこで、のちに活エネルギーアカデミーの理事長となる山崎昌彦さんとの出会いがあり、参加メンバーたちと高山で自然エネルギーや地域循環を大切にした活動を始めたいね、と盛り上がったんです。

▲木の駅で定期物流トラック「積まマイカー」に間伐材を載せる。2021年は13の駅で、7,835本も集材し、CO2削減量は901tを実現した。
▲林業未体験者へ向けたチェーンソー講習や、地元小学生に薪割りや炭作りを体験してもらう「子ども大学たかやまフィールドワーク」も開催。

――それが、活エネルギーアカデミー発足の原点に?

 そうですね。その後、私自身はサスティナブルな建築を手がけるベトナムの設計事務所からお声がかかり、海外で3年間仕事をしていたのですが、帰国後は高山に戻って活エネルギーアカデミーの活動で里山を再生しようと決心していま した。

――故郷に戻り、まず始めた取り組みはなんでしょうか?

澤 里山の再生とその見える化です。高山市は東京都とおなじくらいの広さを誇 る日本最大の「」です。その92%が森林なのですが、人の手が入っていない森が多い。森が暗いんです。

▲薪はひと山(軽トラ大盛り一杯/ 約400㎏)9,000円。Enepoで購入可能。
▲自然乾燥させて、木材として使いやすくする。事務所近くにも乾燥場が。
▲赤保木の木の駅には参加メンバーが造った炭焼き窯も。

――間伐する人がいないと。

 はい。植樹された森は適切な間伐が行なわれないと、地面まで陽があたらず、生物の多様性が維持されません。木々の根張りも弱くなり、土砂災害も起きやすくなります。
適切な山の手入れ=間伐が行なえるよう、まず立ち上がったのが木の駅プロジェクト。現在、市内には13の木の駅が設けられ、そこに間伐材を置いておけば、高山市の助成で運行されているトラックで木材事業所へ運んでくれるんです。林業は伐採も大変ですけど、運搬はもっと大変。それを市が担ってくれるんです。

――運ばれた間伐材はどうなるのでしょうか?

 事業所でチップにし、市内学校でストーブの燃料にされたりしています。我々の事務所の前でも、薪や炭作りを行なっています。高山は森林資源が豊富なのに、市内で使われる灯油は年間24億円ぶん。このうち燃料に使われる灯油を、少しでも間伐材由来の木質燃料に置き変えられれば、脱化石燃料につながります。

――おかげで森林が整い、その間伐作業に関する雇用も生まれるので、一石三鳥ですね。

 3年前から、いい間伐材を入手できたときは乾燥させて、壁や床、柱などの建材に活用する取り組みも始めました。うちの設計事務所は「いま携わっている山からモミが取れるから、モミを建材に使おう」と、山ありきで建材が決まることも多い。市内のキャンプ場管理棟の新設や温泉宿の改修にも間伐材を用いました。

▲グラフィックデザイナーである澤さんの奥さまが、間伐材やEnepoの循環の流れをイラスト化。高齢者や子どもにも活動内容をわかりやすく提示。
▲間伐材を薄く圧縮する特殊技術で作られるEnepo。「アナログの地域通貨が正式な金融機関で決済できる仕組みは、おそらく全国初の試みです」と澤さん。飛騨信用組合が発行するデジタル地域通貨 「さるぼぼコイン」とも等価交換できる。

昔のように人々の暮らしの中心に山があってほしい

――活エネルギーアカデミーのもうひとつの活動の軸、「地域通貨Enepo(エネポ)」とは、どんなものですか?

澤 地域内約110軒の協賛店で使うことができる地域通貨です。たとえば、Aさんが森で1tの木を間伐して出荷すれば、6000Enepoをお支払いします。そのEnepoは協賛店で1Enepo=1円として使えるし、協賛店が飛騨信用組合に持参すれば等価交換できます。間伐材から派生する各やり取りに地域通貨を使うのは、地域で経済を循環させるのが目的です。

――お金が市外に出ていかない。

澤 はい。自分は地元の書店でEnepoを使い、建築雑誌を購入しています。仮に海外大手サイトをクリックして買ったら、お金が海外に出ることになってしまう。
最終的には、もう一度里山資源を活用して暮らしていけるよう山の価値を地域経済に循環させたい。市民みんなが山に入って木を切り、枝を拾い、間伐材を積むような地域になってほしい。昔の人々のように暮らし、地元の店でお土産を買ってくれたら地域も潤いますしね。

▲高山の市域は、写真の乗鞍岳山頂までと広い。澤さんは山腹にある奥飛騨温泉郷の宿のリノベーションやリゾート地で使う移動式サウナの設計のほか、山向こうの松本市が掲げるゼロカーボン実現計画にも参加する。
▲「資源の川上(山の現場)から川下(成果物・製品)までグランドデザイン描くことが大事」と澤さん。毎週水木は有志と間伐作業へ。

――最後に、里山への移住を考えている読者へアドバイスをいただけますか?

 私の事務所にも、県外から移住してきた若者が3人います。彼らは「高山にきたら〇〇をやりたい」と明確な信念があるので、大変なことも含めて里山暮らしを満喫しています。まずは、移住先でやりたいビジョンをしっかりともつことが大切。思い切りがつかない人は、事前に連絡をいただけたら里山仕事体験も受け付けますよ。里山を知るとっかかりにしてもらえればと思います。なにより、山に入ってひと仕事するのは、本当に気持ちいいですから!

▲具や薪、葉はアロマオイルにと間伐材を最大限に利活用。
▲間伐したカラマツで造る、移動式サウナの建築模型。
▲ヒノキの葉から抽出したエキスは土壌改良剤として農家が利用。

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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