北日本では優秀な山菜「オオウバユリ」|植物ライター・成清 陽のヤマノハナ手帖 #27
成清 陽
- 2023年10月14日
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登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
10月に入り、気候が突然変わってきた岐阜県山間部。ねちっこい湿気はどこへやら、ヒガンバナが満開の田では稲刈り真っ最中。新米にサンマ、うまし!そろそろ新酒、そして熱燗や!! と気合が入ります。そんななか、わが家ではホームスクールがオープンし、こちらも何かとせわしない日々。それだけに、今年の紅葉は低山で楽しむことになりそう(しょぼん)。今回はそんなトホホな気分もやわらげてくれる、一風変わったお花をご紹介します。
目立ちたがりオバサン?
Data
オオウバユリ(ユリ科)
一般的な花期:7~8月
おもな生育場所:山地の林など
高山植物の女王・コマクサをご紹介してきた前回。たくさんの方々に見ていただいたようで、とてもうれしかった!!……が、しかし。困りました、次のテーマ。あまり華やかなものをセレクトしてもこの連載らしくなく、立て続けに人気者を出すもちょっとなあ。と迷っていたら、林のなかですっくと立ち上がった(!?)植物が思い浮かんだんです。そう、オオウバユリです!!ハイカーのみなさん、知っていますよね? だって、身長150cmにも及ぶ“足長おばさん”でっせ(「姥」は姥捨て山のウバですから)!
ハイカーとの意外な接点
それでもココロのなかで、かの有名なる国会答弁「存じ上げません」(無表情)が飛び交う方は、このビジュアルでちょっと思い起こされるのでは。山歩きを楽しんでいたら、山麓とか湿原、その木道のわきっちょとかに背の高~い植物が。そして誰かが、ステッキで叩いて……。そうそう!ソレこそオオウバユリの果実なんです。あんましイジメないでとは思うものの、これを見かけると、誰もが一度はぺちぺちしたくなる。愛馬の首を優しく叩く、スキンシップみたいなもの……かな?
オオウバユリ、飛びまーす!!
なぜ叩きたくなるのか。それは、オオウバユリの種が飛ぶからです!といっても、ペガサスのような羽があるワケではなく、ひらひらと滑空できる程度のもの。およそ大きな子どもほどの身長から風に乗っけて種を飛ばし、数cmでも先の土地へ広がる努力を惜しみません。先にお話した“愛あるステッキ叩き”は、いままでワタシが見てきた経験上、晴れた日が多いかなと(雨の日登山に余裕ないですからね)。すると、無風でも少しは広がることができますね。これぞステキすぎる「ステッキ共生」!!
種の個数、数えてみました
「ダジャレとかまじ連載オワタw」と思った方々、もうしばし猶予くださいまし(とくに編集部に土下座)。この種、いったいどのくらい入ってるのか、知りたくなりません?じつはワタシ、数えてみたんです。オオウバユリが手近で採集できる場所はレアですから、かわりにウバユリの果実のサンプルをいただいて。結果わかったのは……「果実は5つの部屋に分かれており、1室に約90個入っている」ということでした!!ちなみにこの果実ひとつに入っていた種は、495個。果実はひとつの茎に5つほどついていますので、5千個あまりの種を散布していたんですっ!!!
北日本では優秀な山菜
1株が5千個の種を生産するウバユリ、充分にヤヴァイですがオオウバユリだとどうなのか?そもそも、5千個発芽したら大変じゃん!興味がそそられますよね~。さて、そんなオオウバユリ、じつはアイヌ民族が「トゥレプ」と呼び、すりつぶした根茎からデンプンを取り出し、食用としていたそう。片栗粉のような役割だったのでしょうか?そしていまでも、東北地方を中心に、根はもちろん新芽をおひたしにするなどして食べられているそう。「オオウバユリ育ててるから、掘っていいよ~」という気前のいい方。「葉っぱおいしそうだから食べたよ!」という山菜好きな方。そんな方がみえたら、お声がけくださーい。爆速で取材に参りますのでっ!!
さてさて、今回ご紹介してきたオオウバユリ。いかがでしたでしょうか?最後にお話しました食材の話題は、採れる場所があるならたしかめる価値がありそう。ただ、注意したいのは「オオウバユリは一生に一度しか花が咲かない」という情報があること。つまり、花が咲くと枯れちゃうんですね~。大柄でがっちりしている反面、花が咲くと息絶える……。植物の奥ゆかしさを感じさせるエピソードです。
それでは、また。
みなさまのココロに、すてきな花が咲き誇りますように。
植物ライター
成清 陽
持ち前の強い好奇心で、大学時代から山・海・島を渡り歩いてきた個性派。自然ガイド、環境コンサル、アウトドア誌編集者、市営公園管理人、企業の森づくりなどなど、自然にまつわる職を転々としたのちにフリーランスに。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。2023年春から岐阜県山間部のプチ古民家に移住し、半隠居ライフを通じて、どこまでユルく生きていけるのか絶賛お試し中です!
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PROFILE
持ち前の強い好奇心で、大学時代から山・海・島を渡り歩いてきた個性派。自然ガイド、環境コンサル、アウトドア誌編集者、市営公園管理人、企業の森づくりなどなど、自然にまつわる職を転々としたのちにフリーランスに。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。2023年春から岐阜県山間部のプチ古民家に移住し、半隠居ライフを通じて、どこまでユルく生きていけるのか絶賛お試し中!