ニューアルバム『Diffusion of Responsibility』を11月15日にリリース|She Her Her Hersが考える、山と音楽のさらなる楽しみ方とは
ランドネ 編集部
- 2023年11月24日
宇宙的感覚を研ぎすます「山と音楽のさらなる楽しみ方」をテーマに、さまざまなミュージシャンにインタビューしていくシリーズ。音楽フェスをはじめ、アウトドアフィールドで聴きたい音楽を紹介する。
She Her Her Hersがニューアルバム『Diffusion of Responsibility』を11/15にリリース
髙橋啓泰(Vo&G)、とまそん(Syn&Cho)、松浦大樹(Dr)からなるオルタナティブバンド、She Her Her Hers(以下、シーハーズ)。コロナ禍を経て、大型イベントも完全復活した2023年は、いよいよグローバルなライブ活動も本格始動し、グルーヴやビートが進化したアルバム『Diffusion of Responsibility』を11月15日に配信リリース(CDリリースは11月29日)。毎回自然の環境で撮影しているというアルバムジャケットの話も含め、たっぷり話を聞いた。
——アルバム『Diffusion of Responsibility』完成後の手ごたえから伺えますか。
髙橋:本当にぎりぎりのスケジュールで仕上げて。ミックスとアレンジを同時で進めていたので、ほとんど寝れなくて、しんどすぎるんですけどアドレナリンは出るし……トリップ状態でずっと作業していたからか、逆に、いま、不思議と冷静に聴きなおせているんですよね。完成直後は耳が細かいところまで追ってしまうので、作品と距離を置くんですが、今回は自分でも聴きたくなるし、実際、いい仕上がりになったと思います。
とまそん:僕は今作で4曲歌詞を書いていますが、こういう言葉だと啓泰(髙橋)がこんな風に歌うだろうなと想像できるし、あえて伝えなくてもイメージを共有できるようになっていたり、3人で積み重ねてきたという手ごたえを感じるアルバムになりました。
松浦:今作は今まで自分たちがやってきた音楽性に加えて、時代の変化にもうまく呼応している、結構いろんなところに広がる作品じゃないかなと思っていて。すごく飛び越えて届いてほしいですね。
——過去作も聴かせていただくとバンドの歩みや進化とともに、コロナ後の時代の気分をとらえたアルバムだなと思ったんですよね。
とまそん:ビートがよりいっそうクラブミュージックのアプローチで、リズムにフォーカスが当たるような作品になったので、言葉と音のはまり具合に関しても、体が自然に動くようなノリは意識的に考えるようになりました。
松浦:コロナ禍もありましたけど、啓泰の基盤にあるチルとかベッドルームミュージックのような音楽性の中にソウル・ヒップホップといった硬質で鋭利な要素がどんどん入ってきて、打ち込み、さらに、生と打ち込みの同居など、アプローチも変わってきました。それは、自然のなかに都会的な緊張感が入ってくる違和感と同じように、今、世の中にある違和感ともとらえられると思うんです。
——今の3人のパワーは、やはり中国などグローバルな活動で得たものが、大きいですか。
松浦:そうですね。4年前、中国のような知らない地に行ってライブをしてみて、リスタートした感じがしました。「自分たちの音楽が届くところに行こう」という意識が生まれて、進み出したタイミングで。
髙橋:中国は本当に反応が早くて。すぐに「中国でいっしょにリリースしよう」というメッセージが来て。自分たちが新しく一歩踏み出したところに、そういう声があがってわくわくして始まったよね。
松浦:その後コロナ禍に入ったんですけど、先日、日本でライブしたときも4〜5割はインバウンドのお客さんだったりして。明らかに日本の公演でも外国人のお客さんが増えてきたと感じます。円安で観光客も増えているし、海外でガッツリやりながら、日本にもしっかりベースはあるって、産業的な構造においても面白いと思うんですよね。自分たちが中国の何万人かに向けて音楽やっているのってやっぱりすごく夢があると思うし、めちゃくちゃうれしいなって。
——5月には中国最大級の野外音楽フェスティバル「草莓音乐节 Strawberry Music Festival ’23」にも出演されて、すごく成果があったとか。コロナ禍は閉塞感があったと思いますが、こうした活動の今作への影響もありますか。
髙橋:自分の考えとして、経験に基づいた曲しか作れないなと思っているんです。ずっと家で曲作りをしていて、5万人の観客をイメージした曲作りをするのって、ちょっと無理がある話で。今作を作り始めた段階でフェスへの出演も決まりだして、実際出演してみて、1〜2万人規模を相手にライブをしてみると、みんなで盛り上がる曲とか一緒になれるような曲が自然とほしくなる。曲のバリエーションはそういうところから生まれるんですよね。そうやって自分はすごく素直に曲を作れているし、多分、今後ツアーを経験していくとまたそういった曲ができてくると思います。そして、僕らの音楽に反応した土地や人のところへ行って、今後もライブするんじゃないかなと思うんです。
——アルバムタイトルの『Diffusion of Responsibility』(=責任の拡散)にも時代性が強烈に表れていますね。
松浦:そうですね。思想的であり、少々緊張感のあるタイトルになりました。今の世の中の集団社会に現れているもので、政治的解釈をする部分もあります。いまって個性の時代とか多様性とか言いながらも、何らかの規制があるじゃないですか。傍観者になってシステムに前へ倣えするのではなく、自己の判断で「どうしたいか」を考えたうえでシステムに乗っかっていくことのほうが大事だと思うんですよね。自分たちもいままでDIYで活動してきて、判断し続けてきて、いまのこの立ち位置にいると思うから。
——自己判断が問われる時代ですね。
松浦:だからアルバムのジャケットもそういうことなんですよね。集団の中でどんどん無個性になって岩になるみたいな、そういうとらえ方もできる。岩がポツポツと点在していて、真ん中にいる人は、岩になる最後の人、もしくは、岩が人になっていくのか、いろんな想像をふくらませられるし、この時代に問うようなところがある。僕ら、意外とアンニュイなバンドではないし、めちゃくちゃ強い言葉を持っている。寄り添う音楽というより、掲示して「あなたはどうとらえるの?」と問うような、緊張感があって立ち向かう音楽だと思うから。いま、海外のほうがとても多くの人たちに観てもらえていたり聴かれていたりする状況があるなかで、そういう意図も届きはじめて、ひとつの判断材料になればいいなと思います。
とまそん:4年前に初めて中国に行って、コロナ後、今年やっとふたたび海外で活動できるようになった、そのあとに書いた歌詞なんです。海外での活動で実際に感じるのは、日本と明らかに国の成り立ちが違うことで。自由に選ぶことができないシステムがあるぶん、逆に自分で選ぶ意志がみんなすごく強い。海外の音楽を聴いたり、情報をとりにいこうとする姿勢や熱意が違うんですね。自分の言葉を持っていてもアウトプットできないストレスがあなかでも、人間として生きていることのすばらしさがそこにはある。先入観とは本当に違っていて、親切心や優しさを感じるし、情熱をストレートに伝えてくれたり、みんなすごい熱量で自分の人生をまっとうしているのがわかるから。日本にいると自由に選べるように見えて、集団的な考えのなかで選んでいたり、自分で選んでるようでいて実は選ばされていたりとか。自分の選択って本当にこれなのかと、感じていることが歌詞に少しずつ現れたのかなと思います。
松浦:政治的な意味が強いタイトルだから、どうなのかなと思ったんですけどね。
髙橋:中国でリリースしたり、ライブする際には、歌詞の内容のチェックとかいろいろあるんです。
松浦:「これは文学だから」というところで通った。「Bystanders」の傍観者になって個性が潰れてくみたいな部分とか、<血を沸かせ>て<地を沸かす>ってずっと言っているんですけど、社会的背景があるなかで「立ち上がれ」と言っているのは、大丈夫かな? と言ってたんですけどね。現地のチームにもその意図を話しながら理解を深めてもらいました。
髙橋:そのあたりは翻訳するさじ加減でも変わるからね。
松浦:みんなで「いくぞー」と鼓舞するような、フランツ・フェルディナンド的な曲になった気がしているんですけど、最初にこのフレーズを聴いたとき「絶対表題曲だな」って思いましたが、強い曲になりました。
——ジャケットのコンセプトもいつも自分たちで?
松浦:そうですね。毎回テーマを設けてディレクションして、写真家・表現家の小林光大と自分とでジャケも作品として作っています。光大もシーハーズ絡みはバンドメンバーのように考えてくれていて、自分のコレクションとしてやってくれているんです。僕は、ジャケからも全曲鳴っているものを目指していて、今回もジャケそのもののイメージがもとからありました。北九州の山で平尾台というカルスト台地で撮影しているんですけど、ポツンと真ん中にいる人も、シルバーのヘアメイクで、人間がどんどん石になっていくイメージがありました。衣装も岩っぽくしたかったし。スケジュールも限られていたけどわがままを言って、みんなに自由にやらせてもらっているからこそできたジャケットですね。
——撮影も同行するんですよね?
松浦:もちろん3人で。カメラマンからすると上位を争うくらい、シーハーズの現場は過酷らしいです(笑)。でも、今回、ちゃんと撮影できてよかった。啓泰からあがってきた音色とか曲から感じるそれでイメージして、振り絞っていろんなところを探すんですが、たまたまこの九州の平尾台が大自然のユートピアっぽい感じがありつつ終末感もあって、イメージ通りだったんですよね。でも、実際行ってみて、イメージの場所にたどり着くのかもわからないし、撮れなかったらどうしようというプレッシャーは結構マジでありました。
髙橋:本当、真っ暗闇の山のなかで怖かったんですよ。でも、メンバーの中でもアウトドアに強いとまそんは、車を降りたとたん、草むらで動物がガサガサしているし、どんな野生の動物が出てきたり、どういう状況かもわからないのに、ヘッドライトひとつでひとり果敢に進んでいくんですよ。
とまそん:先周りして現場を確認してたんだよ。
——とまそんさんはアウトドアお好きなんですね。
とまそん:本当に好きな人は半端ないので軽くは言えませんが鎌倉に住んでいるので山も海も好きです。キャンプも好きだし、鎌倉は三方山に囲まれた天然要塞なのでハイキングコースもたくさんあるんですよ。あとは、富士山には4回登っています。4回登っていると、いろんな天候に出会うんですね。「もうこれ山を降りた方がいいんじゃないか」みたいな悪天候のすぐあとに、雲ひとつないめちゃくちゃ綺麗な景色が観られたりして、また登りたくなるという。
——自然のどういったところに魅力を感じますか。
とまそん:何か問題意識があるときって、内省して自分のなかで起きてることを冷静に分析して、名前をつけていくみたいなところがあると思うんですけど、自然のなかにいるときって自然を見ているようで、意外と自分の内に向いているというか。自分がどういう気持ちなのかを気づくようなところがあるんです。自然しかない環境のなかで、うれしいと思ったときにちゃんと喜ぶ気持ちがあったり、空気が冷たいと感じたり、自然と自分のなかに湧き上がってくる。自然が気持ちいいのって、実は自分の感情がわかるからなのかなと。歌詞を書くときに、自分がフラットになる状態を探すのと同じなんですよね。
——髙橋さんは曲作りにおいてそういうのはありますか。
髙橋:僕も高尾山に登ったり、もっと行けたらと思っているんですけど、曲作りに関して影響があるとかは、そこまでなくて。やっぱり「作ろう」と思って、パソコンに向き合ってやっているので。ただ、今回「interlude」とかは中国のフェス後に行ったバーの雑踏音をフィールドレコーディングしたんですよね。7曲目まで曲順はなんとなく決まっていたので、「Blue Moon Night」とか夜に合いそうな音楽だから、キーもできるだけ合わせて、ちょっと近い匂いがする「interlude」を前に入れるといいのかなと。今回、そういうことをやってみたことは、自分の感情が動いてすごくおもしろかった。また、中国に行ったときとか、いろんな場所で音を録ったりして、作品に混ぜていったり、もっと一曲一曲のストーリーが生まれると面白いのかなと思いました。
松浦:「Blue Moon Night」とか昭和歌謡的なメロディもあって。啓泰もそこ意識して歌ってるのかなとか思ったんだけど。ちょっとオレンジとか緑っぽい、シティな照明にトンネルから抜け出していく映像が見えてきました。
——松浦さんは「Ignorant」で<星が綺麗>という言葉を綴っていらっしゃいますが。
松浦:それはもう「ランドネ」に向けた歌詞です(嘘)。これはヒップホップみたいな歌詞を作りたくて、絶望の中にいるなかで、ふと見たら「あ、星は綺麗だ」みたいな。映画『イントゥ・ザ・ワイルド』のラストシーンともちょっと似ていて、死ぬ間際に光を感じる、心が自由になれた感覚というか。「でも、星は綺麗」みたいな、そういう超混沌の曲ですね。Z世代に向けて、ビリー・アイリッシュにはわかってもらえると思うんですけどね。
——コロナ禍、バンドシーンは特に閉塞感があったと思いますが、力強く進んで未来を見ているのはすばらしいですね。
松浦:僕ら、マイペースに進んできて、時代に逆らっても同調してもいなくて。ただ、シーハーズはシーハーズであったというだけなんですね。でも、シーハーズの快進撃が始まってるから、周りからも「どうやってそういうバンドになったの?」とか聞かれるんですけど「自分で選べ」としか言えないというか。
髙橋:日本での活動がフィットしないバンドってめちゃくちゃ多いと思うんですけど、世界にいまにでも配信できるような時代になっているので、ひとつのモデルになれたらいいなと思うし、需要のあるところに届けられたらなと思っています。
——「CHELSEA」とかもライブ楽しそうだしね。
とまそん:このアルバム、ライブでの再現は大変ですけど、一生懸命やります。
髙橋:セッションでできた曲ではないので、ライブにどう落とし込むかというところですね。
松浦:次のアジアツアーを経て思うことも出てくるだろうし、2024年にかけて、また大きく成長するんじゃないかなと思います!
Field Like Music
◎アウトドアで聴きたい1枚。
Bibio/『Ribbons』
その日の気分で変わるものだと思いますが、昨晩飲み疲れた今の自分にとって、Bibioは完璧です。アウトドアで聴いていることを想起してもフィットするし、自律神経もめちゃくちゃ休まる。あまりビートが入っていないアルバムで、横に広がっていく音楽なんですよね。チルいのにちょっと明るい気持ちになれるし。ケツメイシとかのほうがいい?(松浦)。
めちゃくちゃ陽キャだね(髙橋)。
ケツメイシは向かう車の中で聴くと楽しかったりするよ(とまそん)。
She Her Her Hers
写真左から髙橋啓泰(Vo&G)、とまそん(Syn&Cho)、松浦大樹(Dr)からなるバンド。コロナ禍も積極的な活動を続け、2023年ライブ活動も始動し、日本国内では「ONE MUSIC CAMP」へ出演したほか、アジアのアーティストが集まるイベントにも複数出演。中国では「Strawberry Music Festival」(深圳)や「BUBBLING & BOILING MUSIC FESTIVAL」(天津)など多数のフェスへ出演。
http://sheherherhers.com
Information
She Her Her Hers『Diffusion of Responsibility』
11.29 release
(CD)¥2,000+税
Conditioner Label
※DIGITAL ALBUMは配信中
LIVE
She Her Her Hers “Diffusion of Responsibility” Asia Tour 2023-2024
2023
12/6 (wed) Guangzhou MAO Live House
12/7 (thu) Shenzhen B10
12/8 (fri) Zhuhai DUIBAI SPACE
12/10 (sun) Xiamen WOKESHOW
12/14 (thu) Shanghai VAS SHANGHAI
12/15 (fri) Shanghai VAS SHANGHAI
12/16 (sat) Hangzhou MAO Live House
12/17 (sun) Nanjing 1701 Live House Max
12/19 (tue) Wuhan VOX Livehouse
12/20 (wed) Changsha VOX Livehouse
12/22 (fri) Chengdu AFLAME ART CENTER Hall 1
12/23 (sat) Beijing LOCAL ACE LIVE
2024
1/5 (fri) Bangkok Mr.Fox Livehouse
1/7 (sun) Hongkong Studio Duplex, Soho House
1/12 (fri) Taipei THE WALL
1/14 (sun) Seoul West Bridge Live Hall
1/27 (sat) Tokyo Daikanyama UNIT
and more…
※チケット発売情報などは各公演ごととなりますので、オフィシャルサイトやSNSなどをご覧ください。
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ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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