登山道脇のサプライズ・サプライヤー「ヤマキノコたち」|植物ライター・成清 陽のヤマノハナ手帖 #29
成清 陽
- 2023年12月14日
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登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
きらびやかなショッピングモールの飾り付けに迫る年の瀬を感じさせる、今日このごろ。すでに販売されている十二支の和菓子に「まだ上旬だぜ?ワイルドだろぉ?」と古き善きツッコミを入れたくなるほど、気忙しくてモヤっちゃいます。ところで、山を歩いていてふとミステリアスなモヤに包まれる瞬間、ありますね。そう、キノコを見つけたときです(強引なこじつけ)!ということで今回は、年に一度の番外編。山で新鮮なオドロキを与えてくれる、ヤマキノコたちにご登場いただきましょう。
ニッポンを席巻する?毒キノコ
Data
ベニテングタケ(テングタケ科)
一般的な発見時期:8月~10月
おもな生育場所:山腹や山麓の林内
「見た目からして毒キノコやん!」とだれもがツッコむ。あまり自然に興味はないが、つい写真を撮ってしまう。そして……なによりマリオがおっきくなるアレ(スーパー●●)に似ている……。今回の連載のトップ画としたのは、ベニテングタケの幼菌(子ども)で、成熟して傘が開いたのが、こちらの写真。毒性は「幻覚作用」とありまして、どの図鑑でもバッテンがつくキノコですが、その神秘的なお姿は美しいのひと言!ちなみに食べた方のレポートによると、「けっこうおいしい。幻覚は出ず、少しお腹を下したくらい」だそう。絶対マネしちゃダメですが、このお声はムダに貴重過ぎますっ。
見つけたら小おどりしちゃうやつ
Data
ハナイグチ(イグチ科)
一般的な発見時期:8月~10月
おもな生育場所:カラマツ林内
いきなりの毒スタートとしたのはナゼって?そりゃ、読者が毒キノコ好きだから!(決めつけだけど、当たってるでしょ)。そしてその対極にあるといっていいのが、食用になるキノコですよね。「天然モノって、本当においしいの?」。……この質問は、ハナイグチさんには愚問です。だって、ヌメリあり、適度なサイズ感あり、まとめて収穫可能、出汁が出るので煮込んで和食によし、クリームパスタは絶品ときたもんだ。ちなみに、カラマツとの共生関係にあるので、道路沿いのカラマツ林帯なんかでゲットできちゃったり。私は見つけると、たいていおどっています……むろん、マネしちゃダメYO(笑)。
傷つくと「乳」が出る!出る!
Data
チチタケ(ベニタケ科)
一般的な発見時期:7月~9月
おもな生育場所:山麓の針広混交林の地上
さて、どんどん行きましょう!こちらは、高山というより山麓で見られる、チチタケ。このキノコは某県ではマツタケ以上に珍重されるのだとか。というのも、このキノコは出汁がすごい。ホンマにすごい。キノコ出汁として、こんなに秀逸なものがあるのか!と叫んだほど(マジ)、ウマウマな出汁がみっちり出ます。そのため、炊き込みご飯やお吸い物は最高のひと言。見つけ方は、北向き斜面の落ち葉溜まりを探すのが、個人的な発見方法です。ただし!このキノコは、食感はボソボソ、サイアクです。出汁を取ったら、本体はバイバイしなくてはならんところ、マツタケに負けるかな?
出会ったみなさんにキスマーク
Data
クチベニタケ(クチベニタケ科)
一般的な発見時期:7月~10月
おもな生育場所:山麓の針広混交林の地上
食べる推しで来ちゃったわけですが、このコは食べません(=毒はないけど食用の価値がない)。まあ、見た目からして口に運ぶのは勇気がいりますし。その名のとおり、口紅を塗ったようなそのお姿には、「ウエッ」と一瞬引くのが正解です。彼らは落ち葉などの分解菌で、たいがい落ち葉溜まりが生息地。で、さほど珍しくないけど、じつは日本特産です。その証に、中国名は「日本美口菌」とか……うーん、わかりやすいけど、別のネーミングはなかったの? ちなみに口紅部分を触っても、残念ながらキスマークはつきましぇん(実験済み)。
食毒以外にも、不思議が満載
キノコという生き物は、ミステリアス。それを実証するキノコの性質が“青変性”です。ヒダがイノシシのおちょぼ口のようにプツプツと穴のあいた「イグチ」の仲間でよく見られる現象で、ヒダなどが傷つくと、さぁっと見事な青~紺色に変わる、というもの。反応スピードはまちまちですが、早いものでは写真を撮るひまもなく色が変わり、取り出す頃には元に戻るという種類もあるそうで……。この性質をロケットの起爆燃料にできるのでは?なんていうアイデアもあるとか、ないとか!本当にキノコはスミに置けない、愛すべき存在なんです。
ピーンポーン、パーンポーン……
さて、ここでアテンションをば。まあ、お分かりのとおり「採集・食用注意」ですね。筆者もキノコ友達に教わりながら、少しずつ採集可能エリアで採って試す、ということを続けてきました。その大原則は、「確証がもてないなら食べない・絶対に人にあげない」。過去、かつてはよく食べられていたという「セイタカイグチ」(現在は食用不可)を食べた結果、最高の食感とヌメリに感動した数時間後、相当なお腹の痛みに悶絶したこともあります。真面目に、これは本当に怖かったです!と、食べてばかりの話になりましたが、青変性なども含め、キノコワールドはおもしろい!せっかく山に足を運ぶなら、まず撮影からスタートしてみてください♪
今回は番外編ということで、×ヤマノハナ→◯ヤマキノコ。ただ、じつはこの年に一度の番外編、「ワタシが」とっても楽しみなんです。ネイチャーガイド出身なので、やっぱり花以外のことも語らないと、お客様(読者)が飽きちゃいますし。なんなら、語る側も飽きちゃうんで(笑)。
……さて、ホンネがこぼれたところで、今年もあとわずかとなりました。今年はコマクサ取材などもあり、本連載にとって変化の一年。来年も引き続き、みなさんにソッポを向かれないよう、ヤマノハナときどきワクワク生き物ワールドを語り続けますっ!!……打ち切りにならなければ、ね。
それでは、また。
みなさまのココロに、すてきな花が咲き誇りますように。今年も一年間のご愛読、ありがとうございました。
植物ライター
成清 陽
持ち前の強い好奇心で、大学時代から山・海・島を渡り歩いてきた個性派。自然ガイド、環境コンサル、アウトドア誌編集者、市営公園管理人、企業の森づくりなどなど、自然にまつわる職を転々としたのちにフリーランスに。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。2023年春から岐阜県山間部のプチ古民家に移住し、半隠居ライフを通じて、どこまでユルく生きていけるのか絶賛お試し中です!
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PROFILE
持ち前の強い好奇心で、大学時代から山・海・島を渡り歩いてきた個性派。自然ガイド、環境コンサル、アウトドア誌編集者、市営公園管理人、企業の森づくりなどなど、自然にまつわる職を転々としたのちにフリーランスに。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。2023年春から岐阜県山間部のプチ古民家に移住し、半隠居ライフを通じて、どこまでユルく生きていけるのか絶賛お試し中!