
登山・トレラン・山スキーマガジン「山旅旅」の編集長・柳原一信さん|低山トラベラー、偏愛ハイカーに会いに行く

大内征
- 2025年01月10日
低山トラベラーの大内征さんが山好きさんと山を歩く、連載「偏愛ハイカーに会いに行く」。山の愛し方は人それぞれ、とはいうけれど。十人十色の偏愛ワールドをのぞいてみれば、これからの山の愛し方とその先の未来が見えてくる、かもね。
今回の偏愛さん
「山旅旅」編集長・柳原一信さん
登山・トレラン・山スキーマガジン「山旅旅」編集長。YouTube チャンネルも人気。フィールドを問わず、豊富な知識と経験から導かれる独自の視点で、アウトドアの魅力を発信し、幅広い層のファンをもつ。山旅旅を通じて、登山文化の普及と持続可能な登山の在り方を推進している。
安心してください。山旅旅の柳原さん、ふだんは笑います!
山旅旅というYouTubeチャンネルをご存じだろうか。テント泊の登山装備やウエアの分析が特長の番組で、アイテムの比較検証がとても評判だ。とりわけウルトラライト(道具の軽量化)をテーマにした内容は充実しており、僕もいち視聴者としてよく参考にしている。とにかく話の構成と見せ方がわかりやすく、それでいてマニアックな詳しさ。チャンネル登録数が増え続けていることも納得である。

好きが高じただけでは収まらない、よく考えられた独自の世界観。その山旅旅を運営しているのが、柳原一信さんだ。個人的には付き合いが長くなり、いつからか親しみを込めて「やなやん」と呼んでいる。出会ったときから礼儀正しくて親しみやすいナイスガイ。よく笑っているのも好印象でしかない。山遊びについても、めちゃめちゃ歩けるし、走れるし、釣れるし、滑れるときたもんだ。とにかく四季を通じてアウトドアで遊ぶ姿勢は相当に前のめり。

そんな「やなやん」が、山旅旅の動画に出ているときに限って難しい顔をして山道具の説明をしている。視聴者の疑問に答えるギズモード風のショートムービーを始めたりもした。話はとてもわかりやすいものの、日ごろの彼の明るい人柄があまり出ておらず、ちょっと気難しさを感じるくらい。友人として、ちょっと心配したりして。

と、そんな話題からインタビューをスタート。笑顔のない動画に関して、本人曰く「あれ自宅で自撮りしているんですよね。さすがにひとりで笑ってたら気持ち悪いじゃないですか。それと、そういうキャラにしてるのもありますね」と、ここは真顔で答える柳原さん。からの「ほんとうはふつうに笑いたいんですけどね」とかぶせてきた。なんだ、笑いたいんかーい。
WEBサイト、YouTube、そして山道具メーカー「YAMATABI」。会社員時代からコツコツと築いてきた独自ワールド

この「山旅旅」の世界観は、そのまま彼のビジネスモデルでもある。WEB、YouTube、そしてECというメディアを、登山に関する情報が循環する装置として活用している。もちろん循環するのはそれだけではない。マーケティング領域の経験が長い僕から見ると、ここには〝いろいろ〞循環しているなあと感心をする。それは、ここではあえて書かないけれど。


そもそも柳原さんも、元ITマーケティングの実務者だった。話を聞くと、筋金入りの安定志向で、コツコツ長く積み重ねていくことで未来が拓けると信じていた会社員だったとか。ところが10年やり続けてみても、このままではなにも拓けないことがわかった。何かを待つのではなく、何かを生み出す側に行こうと心に決めて、山旅旅というWEBサイトが誕生することになる。
彼の場合、単にITを駆使しているというわけではないのが大きなポイント。テーマとコンセプトが明確に設定されているから、技術やツールが活きているのだ。加えて観察眼が鋭い。関心のあることはじっくりと観て、細かく分析する。細かな作業も得意ときた。この点、登山業界では希少なポジションだと、僕は思っている。(後編へ続く)


それでも大事なのは対人コミュニケーション。いつかリアル店舗「山旅旅ストア」が生まれるかも!?
ITを巧みに活用している印象があるけれど、じつはリアルなコミュニケーションを渇望しているのも柳原さんの人柄を表している。もともとぼくは面会の打診を受けたところから彼との付き合いが始まっているし、そのあとも執筆などの打合せで直接会う機会が多かった。年1回ほどのペースで山に行ったり、アウトドアブランドの展示会をいっしょに覗いたりと、なにかと行動をともにする機会がいまも続いている。

山旅旅を始めたことで、アウトドア業界の人と友だちになれることがうれしいとも語ってくれた。その意味では、趣味嗜好の合う人たちとの出会いによって、いまの柳原さんのポジションが周囲の力も借りながら形成されてきたのは間違いないことだろう。
数ある出会いのなかでも、さかいやスポーツの高橋典孝さんとの出会いが大きかったとふり返る。水道橋の店舗に足を運ぶようになり、数々のマニアックな質問をぶつけた相手こそ、高橋さん。仲よくなったいまでは「細かすぎて相手するのが大変なお客さんだったよなあ」とか。
「けど、あれがいまの柳原さんをつくっているよね」と、本音で愛のある言葉をかけてくれるそう。高橋さんもまた、すばらしい人格者なのだと思う。

今回のインタビューの舞台は、埼玉県の日和田山。柳原さんが長距離トレランデビューした地である。初体験にして秩父へ50㎞という無謀な挑戦に伴走してくれたのもまた、高橋さんだった。完走して「ふたり感極まって泣いたんですよね」と、うれしそうに思い出す。
帰り道、いつかは視聴者とリアルなコミュニケーションができる実店舗を作るのもいいなあと、いまの思いを語ってくれた。そして「でも、僕みたいな細かくてうるさいお客さんを相手にするのは、ちょっと嫌だなあ」と、飛びきりな笑顔の柳原さん。その笑った表情、今後も動画でぜひ見せてほしい!
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