【RIDERS CLUB 500号記念コラムvol.10】 GPマシン開発は乗りやすさとの闘い 【KEN’S TALK 特別編】

ライダースクラブの看板企画のひとつが、GPマシンの試乗とスタジオ撮影の詳細な画像でした。’70年代以前だと、各社の最新テクノロジーの粋を集めたGPマシンは、ライバルに手の内を見せないのが前提で、作業するピットでさえカバーをかけたままが常識でしたが、それを全て晒してしまうのですから、どんな説得をしたのかと思われたようです。でも実際には意外なほどすんなりコンセンサスを得ることができました。

もちろんボクが世界GP転戦していた間に、現場でエンジニアや重鎮の方々との親交があり、それがスタートを容易にしてくれたのは間違いありません。しかしもっと大きな要因は、この頃にメーカーがなぜレース活動をしているか、そこを開示していく重要性を認識しはじめたからだったのです。レースでチャンピオン獲得すればスポーツバイクが良く売れる……それも含まれてはいますが、’60年代に世界を席巻してからは1位だから2位に終わったから、その結果で売れ行きが左右されるものでもないことは既に承知しています。イメージは大切ですが、先ずレースが好きな姿勢をユーザーと共有するコトが大切で、市販スポーツバイク競争が激化していく中、レーシングマシン開発で得たテクノロジーを市販車へ反映していく、技術開発の重要性も大きく位置を占めていたのはいうまでもありません。

ただここで強調しておきたいのは、レーシングマシン開発は唯々速いマシンだけを目指しているのではないということ。パワーとかスピードに超軽量化など、マシンのスペックがパフォーマンスに直結しているのではなく、それを如何にライダーが操りやすいものにしていくかという、レースはそこの総合的な技術力こそ勝負ドコロなのです。そして時代はビッグバイク台頭の時期を迎えていて、まさに市販車でも技術力はこの部分が問われるようになっていました。

天才的な感性で、暴れまくるGPマシンを操るプロ中のプロは、乗りやすさなど必要ない……どうかするとそう勘違いされがちです。しかし彼らとて、乗りにくかったら勝てません。限界特性も、この先にいきなり変化するポイントがあるとしたら、それを警戒しながら乗らなければならず、思いきりコーナーを攻めることなどできないからです。なので、GPマシンは乗りやすさの闘いでもあるのです。

そこを一般のユーザーに知ってもらうことで、スポーツバイクに接するとき最新バイクが何を大事に開発されているのか、ライディングで対峙すべきはリスクではなく楽しさであるというメッセージを伝えたい……その受け皿として各メーカーが本誌を指名してくれたというのが本当のトコロでした。

驚くほどの乗りやすさにいつも感銘していた

【RIDERS CLUB 500号記念コラムvol.10】 GPマシン開発は乗りやすさとの闘い 【KEN’S TALK 特別編】
【RIDERS CLUB 500号記念コラムvol.10】 GPマシン開発は乗りやすさとの闘い 【KEN’S TALK 特別編】
最初にGPマシンの試乗を許されたのがスズキRG500(79年4月号)。ストレートの猛加速猛スピードは恐怖でしたが、コーナリングとなると徐々に楽しくなってしまう……扱いやすいエンジン特性と路面からグリップ感をシッカリ伝えてくる足回りと車体。これが頂点マシンの実態なのかと感銘しました。さらに驚いたのが、3気筒で2ストにチャレンジを開始したホンダNS500(83年2月号)に乗ったとき。あの鋭い常人を超越したライディングのフレディ・スペンサーが走っているシーンからは、想像もできない従順なマシンだったからです。そして’83年にケニー・ロバーツがスペンサーと最後まで一騎打ちを展開したヤマハのYZR500(84年3月号)OW70と呼ばれるマシンでは、実は前年にヤマハがライダーの言葉を極端に解釈して、結果的には当のケニーでさえ乗りこなせないマシンを開発してしまい、先ずは原点へ戻ろうと誰にも乗りやすいマシン開発とした打ち明けバナシまで披露してくれました。劇的な最終戦を走ったそのままのマシンを試乗したとき、レーシングマシンというより良くできたスポーツバイクと感じさせる緩やかな特性づくめに驚嘆したのは今も忘れられません。過渡特性やトラクションに弱アンダーステア……レース界では常用句だった用語を使いまくってしまいましたが、単に乗りやすいとGPマシン試乗なのに緊張感をなくすような表現はできず、敢えて専門用語を多用しながら読者の方々が何れは理解してくださると信じて綴っていました。続くNSR500(85年9月号)など年毎に試乗を重ねてきた内容は、この乗りやすさのためのエンジン・デバイス開発やシャシーの剛性バランス、そして数ミリで変わってしまう重心位置など配置構成の緻密さに終始したいたのも懐かしい思い出です。

【RIDERS CLUB 500号記念コラムvol.10】 GPマシン開発は乗りやすさとの闘い 【KEN’S TALK 特別編】
【RIDERS CLUB 500号記念コラムvol.10】 GPマシン開発は乗りやすさとの闘い 【KEN’S TALK 特別編】
これを身に染みて勉強させられたのがNR750(87年7月号)でした。あのオーバルピストン32バルブV4を、レースのためだけに開発したのではないことを立証すべく、デイトナのアンリミテッドクラスへ向け開発していた750ccマシンでル・マン24時間耐久レースへ出場しようというプロジェクトで、その出場ライダーに選ばれ開発段階から参画できたのです。当時としてはあり得ない中速トルクと爆速のトップスピードの両立したポテンシャルで、これを如何にコーナリングで有効なトラクションとするかなど、市販車で優先されるファクターで評価しながら開発しようというホンダの姿勢に、感銘を通り越した驚愕の日々を送っていました。ある日、編集部へかかってきた1本の電話にはじまったこの物語は、ぜひ皆さんにも読んで頂きたいと思います。

もう説明するまでもないとは思いますが、最新のモトGPマシンもこの乗りやすさが最大のテーマであり続け、市販車でもここの技術競争と化しています。速く走る……それは魅惑的な言葉でもありますが、リスクと対峙するのではなく如何に楽しく走らせるか……これからも、メーカー、我々のような媒体、そして実際に乗られる皆さんとが、ここの違いを共有し続けていくことが大切なのだと思います。
(根本健)

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