フロントフォークの倒立と正立の違いって? 【ネモケンの今さら聞けないバイクのギモン】

いつの時代もライダーは探究心が旺盛だ。バイクに乗れば乗るほどに詳しくなればなっただけ次から次へと、新たな疑問が沸いてくる。そして、そんな小さな疑問の答えにようやくたどり着いたとき、初めはあれほど遠かった、自分とバイクとの距離がまた一歩、近づいたのを実感できるのだ。

そこで、ライダーの素朴な疑問を元世界GPライダーにして、ワークスマシンから市販車まで幅広いバイクに乗り続け、読者にライテクを指南しているネモケンこと根本健が分かりやすく解説! 今回のテーマはフロントフォークの「倒立」と「正立」について。それぞれのメリット・デメリットをひも解いてみると、見た目以上に違う大きな差が見えてくる。

まずは「倒立」と「正立」の基本を知ろう

倒立と正立の見分け方

メッキしたパイプのインナーチューブが下にあれば倒立、前輪の上側にインナーチューブが見えれば正立……だが、飛び石保護カバーなどで実際は見分けにくいので詳しくチェックしよう。

正立フォーク

前輪のアクスルシャフトを支える部分から上に伸びた筒へ、メッキを施したパイプが上から差し込まれた構造であれば正立。ダンパーを下に内蔵する。

倒立フォーク

前輪のアクスルシャフトを支える部分が細くブレーキキャリパーがアームにマウントされ、メッキされたパイプの上にアルミ製の筒があれば倒立。

 

倒立と正立、それぞれのメリット

正立フォークは、ダンパーなど凝った仕様にする必要がなければシンプルな構造としなやかな動きで依然としてメリットはある。倒立は剛性など限界性能での優位さは明らかだが、高価な素材が必須でコスト高は避けられない。

ネモケンに聞いてみよう!「倒立と正立、どっちがエライ!?」

先生:ご存知、我らがボス「ネモケン(こと根本健)」
生徒:永遠のライテク初心者「フジタ(RIDERS CLUB編集部員)」

剛性の高さとステアリング慣性で倒立が優位

フジタ/フロントフォークに倒立と正立ってありますよネ。今回はこのふたつのタイプの違いがお題です。早い話が倒立のほうが高価で、レプリカやオフロードのすごいバイクも倒立……。こっちのほうが良いんでしょうが、何がそのすごさの違いなのか、教えて頂こうかと思いまして……。

ネモケン/簡単に言うと、剛性の高さとステアリング慣性で倒立が優位ってコトなんだけど、まずその意味から説明したほうが良いかナ。

フジタ/剛性のほうは想像がつきますけど、ステアリング慣性で優位って言われても、何のことやらさっぱり分かりません……。

ネモケン/フロントフォークはハンドルが切れるとき、当り前だけど左右に首を振るよネ。この左右にステアする動きで、質量や重量が大きければ慣性力も大きくなる。つまりフロントフォークが重いと、ステアする動きが鈍くなるってわけだ。

逆に軽ければ動きのレスポンスも素早くなる。でネ、思い出して欲しいのが前輪の役割。バイクが曲がりはじめるとき、後輪が直進から旋回へ軌跡を変えるタイミングで、前輪も後輪の軌跡に添うように真っ直ぐの状態から角度をつけていく。

実際はフロントフォークが角度をつけて斜めに装着されているキャスター角と、フロントタイヤの断面がオムスビ形になっている関係で、Uターンのように低速で小回りするようなシチュエーションでなければライダーにはほとんど感じないほどわずかにしかハンドルは切れないけれど、とにかくこの後輪の旋回に前輪がレスポンスしてほしい瞬間があるわけだ。

そのレスポンスが、ステアリング慣性が小さければ素早く、大きければ鈍くなる違いがある……。ココまでは分かったかナ?

KAWASAKI ZXR400(倒立)
国産オンロードモデルで初めて倒立を採用。カワサキは勝負マシンで、まだライバルメーカーが躊躇するような最先端の装備を採用するケースが多い。ZXR400でも最先端装備を武器にするため思いきった仕様で注目を浴びた。

倒立フォークの方が軽い?

フジタ/後輪や車体の曲がりはじめに、前輪がその曲がりはじめる軌跡に反応して舵角をつける……。これはライテクでも勉強したので、理屈として知ってます。そのとき前輪がすぐ舵角をつけられるか遅いかの違いがステアリング慣性で変わってくるんですネ。

ネモケン/そう、要するにステアリング慣性を小さくすれば、リーンした瞬間から素早く明確に曲がりはじめられるってコトだ。だからレーシングマシンやレプリカはほとんど倒立フォークを採用してるんだ。

フジタ/つまり倒立フォークのほうが軽いってコトですよネ。

ネモケン/そこが何とも微妙なんだナ。実際には剛性を高くすると重くなる関係をいかに解決するかが技術的課題だったし……。

フジタ/難しくなってきたゾ……。倒立フォークって軽くないんですか?

YAMAHA YZF-R1(倒立)
剛性面では間違いなく優位でも、ステアリング慣性など重量との闘いで改良を重ねてきた結果、最新のレプリカは倒立フォークが当り前という状況になっている。ひとつにはブレーキキャリパーが、ラジアルマウント前提のフォーマットに統一されてきたことも、フォークの倒立化がスタンダードになってきた一因でもある。このバネ下のコンパクト化で、迷うことなく設計のしやすさに繋がり倒立優位が明確になったからだ。

倒立フォークのルーツはレース用モトクロッサー

ネモケン/そもそも何で倒立フォークが生まれたか、そこから話さないと。ルーツはレース用のモトクロッサーなんだナ。モトクロスは悪路を走破するのに、サスのストロークを長くしたいよネ。そうするとフロントフォークではインナーチューブという、あのメッキしたパイプ、アルミのダンパーが内蔵されている部分に、テレスコピック、つまり遠眼鏡っていうか望遠鏡の筒がスライドする動きで出たり入ったりする長いパイプの部分が、ストロークを長くするほど伸びていく。

ハンドルが付いているアッパーブラケットとステアリングヘッドを挟んで下で支えているロアーブラケットとの間隔は一定でも、その下の部分がとてつもなく長くなるのは分かるよネ?

でもインナーチューブが長くなると、ブレーキングとか衝撃で曲がるようにたわみやすくなる。そうなったら真っ直ぐな外側の筒と干渉してスムーズに出たり入ったりできなくなる。だからインナーチューブは分厚い鉄製のパイプで径も太くしてあるわけで、これが長くなれば当然かなりの重さになる……。

つまりステアリング慣性が大きくなって、レースのように機敏に動きたいシチュエーションだと、思うように操れない。そこでモトクロスでは、インナーチューブを下側にもっていった。アルミ製のダンパー部分を上にした逆さの構造で、こうすればフォークを支えるブラケット近辺は、鉄のパイプではなく軽量なアルミ製にできる。インナーチューブ全体の長さをストロークに必要なだけにできるってわけだ。

ロードレースでも倒立フォークが使われた理由とは?

フジタ/なるほど……。でもそれが長いストロークを必要としないロードレースでも使われるようになったのはナゼなんですか?

ネモケン/最も欲しかったメリットは剛性だネ。インナーチューブがダイレクトに前輪の車軸を支えているから、強烈なブレーキでも剛性面で優位。しかもブレーキキャリパーを剛性の高い部分にマウントできるから、アルミのボトムケースへマウントしてたのとは大きく違ってくる。

しかしだナァ~、ロードで問題だったのがその重さ。モトクロスと違って長さがないから、上側のアルミ部分で剛性を稼ごうとすると意外なほど重くなっちまった。そうなるとステアリング慣性で不利になる。軽量素材だと剛性が落ちるしで、レプリカ系の市販車では、軽量のメリットのほうを活かそうとあえて正立を採用するバイクもあった。

フジタ/ホンダのCBR900RRがそうでしたネ。ところで変なコト聞いてるのかも知れませんが、倒立ってフロントフォークだけなんですか?リヤサスだと意味ないんですかネェ。

HONDA CBR900RR(正立)
軽さのメリットから最後まで正立を選択。900㏄ながら600クラスの軽さと大きさと言うのがコンセプトだっただけに、当時は重かった倒立フォークの採用をホンダはあえて見送っていた。もちろん正立でも性能的に問題がなかったからだ。

ネモケン/そんなコトないヨ。リヤサスにも正立と倒立の両方あるから……。2本サスもリンクを介した1本サスでも両方ある。

フジタ/それって見た目に違いが分かります?

ネモケン/ダンパー部分のボディが下にあれば正立、逆に上にあれば倒立ってフォークと同じだよ。

フジタ/ホントだ。気が付かなかったけれど、よく見れば一目瞭然ですネ。リヤサスもフォークと同じ理由で正立と倒立があるんですか?

ネモケン/フォークほど質量も大きさもないから、そこまでシビアじゃない。むしろダンパーにガス圧かけてフリーピストンやゴムの隔壁を入れる小さなタンクを外部につける構造だと、必然的に上側にしたほうがスペースメリットがあるじゃない。2本サスも1本サスも、タンクが付いた構成だとほぼ倒立になってるよネ。

ツーリングバイクやネイキッドにも倒立フォークが向くのか?

フジタ/なるほど……。だから高価なリプレイスサスはタンクも付いた倒立なんですネ。またフロントフォークに戻りますけど、だったら正立を使っているツーリングバイクやネイキッドは、コストさえ考えなければホントは倒立を使いたいんですか?

ネモケン/そうとは限らないんだナァ。レースのようにクイックにリーンしたり曲がったりを要求しないのなら、正立のほうがメリットあるからネ。たとえばコーナーで曲がりはじめるとき、ステアリング慣性がほど良くあれば、イイ感じでゆっくり前輪がステアレスポンスする。

このちょっと遅れ気味なタイミングのほうが、ライダーにとってはちょっとアンダー気味に感じて、分かりやすく言うと前輪のグリップ感が伝わりやすいからネ。

フジタ/そうなんだ……。確かにネイキッドでも倒立付けてるハイパーなバイクだと、攻めてるときは頼りになる剛性感がありますけど、何となく走ってるときも前輪が気になって落ち着かない感じもしますよネ。ステアリング慣性が小さいと、いちいち路面に反応して呑気に走らせてくれない気もする……。

ネモケン/さすが、色々なバイクに乗れる仕事だから、そういう違いが分かってきたナ。確かにそうなんだ。性能の良さが、すべて人間の感性にプラスに働くかというとそうじゃない。しなやかさだったり、ゆっくりだったりってのはライダーに心のゆとりのようなモノを与えるから、意外に大事だったりするんだナ。

正立フォークがが優位なバネ下とは?

ネモケン/それにバネ下っていう、前輪の路面追従を左右する部分でも、正立はまだ優位といえるトコロが残ってるんだ。いきなりバネ下なんて専門用語になっちゃったけど、路面の凸凹に反応してホイールが細かな動きで忙しく動作するシーンを想像してみてヨ。

これはサスのスプリングから下の部分の動きでしょ? これがバネ下ってやつ。ココが軽いほど慣性力が小さくて、動きやすいよネ。バネ下の軽減は、タイヤも含めてサスの性能がワンランクアップしたのと同じくらいの効果がある。グリップ力が左右されるんだから、違いは大きい。

でもハードブレーキングなどで剛性が低いと、インナーチューブがたわんで細かな動きに抵抗を生じて路面追従性が低下するから、パフォーマンスでは倒立が優位という前提は変わらないけれど……。

フロントフォークの歴史とこれから

フジタ/適材適所というコトを理解してれば良いんですよネ。このフロントフォークの進化はまだまだ続いて、これから画期的な方式が登場する可能性はあるんでしょうか?

1935 BMW R12(正立)
BMWが開発したコイルスプリングと油圧式ダンパーという、現代と変わらない基本構造のテレスコピックフォークを世界で初めて採用した。

ネモケン/というか、このテレスコピック方式にそもそも限界があって、他の方式にチャレンジしてるのがBMWくらいってのが何とも寂しい。テレレバーやデュオレバーという、フロントのサスとショックユニットを別々にした、クルマのサスに近い方式が熟成されつつある。

テレスコの剛性が低いとサスの作動性も低下してしまう面がこれで解決されるしブレーキングでノーズダイブすると不安定になるアライメントの問題もクリアできてる。重量面でまだレースには向いてないようだけど、ツーリングなら快適性と安心感、それにパフォーマンスも向上するという、ユーザーには絶大なメリットがある。

BMWは1935年に初のテレスコピック方式のフロントフォークを採用したメーカーなのに、当時からテレスコの弱点を感じてたらしく、その後にアールズフォークを採用したのは知ってるよネ。70年代にスポーティなバイクの印象を与えるため、またテレスコを採用したけど、テレレバーに始まり常にフロントサスと取り組む姿勢を貫いてきた。

フジタ/初のテレスコを開発したメーカーが、テレスコに弱点を感じてたなんて……。そんな昔にそこまで見通せてたのはすごいですネ。

水平対向+シャフトドライブという、現代のボクサーとまったく同じ構成で歴史を積み重ねてきたBMWは、初の量産バイクR32を世に出した1923年からわずか12年後、フロントサスが伸縮するテレスコピックフォークを開発、世界で最初に装着した。先進性を誇るBMWは、皮肉にもこの後テレスコピックに別れを告げアールズフォークにチャレンジ。現在も他を尻目にまったく異なるフォークの開発を続けている。

 

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ネモケン

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根本健。75 ~78年まで世界GPに参戦。帰国後はライダースクラブ編集長として、ワークスマシンから市販車まで幅広く試乗。70歳を超えた今も最新マシンに乗り、読者にライテクを指南している

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