エンジンの「空冷」と「水冷」はどっちがいいの? 【ネモケンの今さら聞けないバイクの話】

いつの時代もライダーは探究心が旺盛だ。バイクに乗れば乗るほどに詳しくなればなっただけ次から次へと、新たな疑問が沸いてくる。そして、そんな小さな疑問の答えにようやくたどり着いたとき、初めはあれほど遠かった、自分とバイクとの距離がまた一歩、近づいたのを実感できるのだ。

そこで、ライダーの素朴な疑問を元世界GPライダーにして、ワークスマシンから市販車まで幅広いバイクに乗り続け、読者にライテクを指南しているネモケンこと根本健が分かりやすく解説!今回のテーマは「水冷」と「空冷」の違いについて。話は単なるエンジンの冷却方式の違いだけでなく「バイクの楽しさとは何か」という根本的な部分にまで及ぶ。なるほど~、そういうことだったのか!

まずは「空冷エンジン」と「水冷エンジン」の基本を知ろう

空冷と水冷は何が違うの?

ざっくりと言ってしまうと空冷と水冷の違いは、ピストンとシリンダーのクリアランスの違いである。空冷は走行風でエンジンを冷やす構造上、エンジンの温度が高くなりがち。そのためピストンとシリンダーは熱膨張による影響を受けやすくクリアランスが広い。対して水冷はシリンダーに冷却水を通すウォータージャケットがあり、強制的にエンジンを冷やす構造。ピストンとシリンダーの膨張率が小さいためクリアランスは狭くてすむ。

空冷の「CB750Four」と水冷の「GPZ900R」

ビッグバイクの原点になる空冷4発

69年にデビューしたCB750Fourのエンジンは、空冷4ストロークSOHC並列4気筒。当時ホンダの最大排気量は450ccだったからそのインパクトは相当だった。さらに最高速200km/hというスペックが衝撃に拍車をかけた。初期型のK0は砂型クランクケースを採用したが、爆発的なヒットとなったため途中から金型へ。写真はK1。

なんとも異様だったサイドカムチェーン

1984年に「最新・最速」を謳ってデビューしたカワサキのGPZ900R Ninjaは、国産の水冷4気筒エンジンで初めてサイドカムチェーンを採用していた。フルカウルにもかかわらず、あえて水冷の最新エンジンを見せるためにカウルをカットしたスタイルはセンターカムチェーンが主流だった当時はかなり異様だったが、それが格好良かった。そしてサイドカムチェーンはその後の水冷4気筒のトレンドに。ご存じのように、Ninjaは20年以上が経過した現在でも人気が高い。

1984 KAWASAKI GPZ900R(水冷)

ネモケンに聞いてみよう!「空冷と水冷はどっちがいいの?」

先生:ご存知、我らがボス「ネモケン(こと根本健)」
生徒:永遠のライテク初心者「フジタ(RIDERS CLUB編集部員)」

 

国産メーカーの空冷バイクが減っているワケ

フジタ/今回のお題は水冷と空冷デス。何を今さらと言われてしまいそうですが、最近では国産メーカーの空冷モデルがほとんどなくなっていますよネ。でも海外メーカーの空冷は継続しているだけでなく、ニューモデルまで毎年登場している。この違いはどうしてなんでしょうか?

ネモケン/国産メーカーの空冷が姿を消しているのは、排気ガスや騒音規制のためだネ。大雑把に言うと、空冷じゃ最新の厳しい排気ガスや騒音の規制をクリアしたとしても、大幅にパワーダウンしてしまう。スポーツバイクで30パーセント以上もパワーに差があったら、誰も買わないだろうというのが国産メーカーの見解なんだナ。対して水冷だとあまりコストをかけずに新しい規制をクリアできるし、パワーダウンも排気量アップでカバーできる。

フジタ/ちょっと待ってください……。だったらなぜ海外メーカーの空冷は大丈夫なんですか?

ネモケン/海外メーカーがコストを惜しまないのは、たとえパワーダウンしてもファンは空冷を買うと確信しているからだヨ。国産メーカーにとって、空冷は水冷化されなかった旧いエンジン型式、もしくは性能が低いから格が下という位置付けなんだろうネ。だから厳しい規制に対応させるためにコストをかけてもメリットがないと思うわけだ。

フジタ/ウ~ン、分かったような分かりにくい話ですよネ。空冷で新しい規制をクリアしようとすると、そんなにコストがかかるんだ……。

ネモケン/コストがかかるという理由のほとんどは、キャブレターをインジェクション(燃料噴射)に換えなきゃならないからで、仕様によってはマフラーに触媒も装着しなけりゃならない。キャブレターは構造もシンプルで歴史の長さに加えて大量生産してきただけに、コストは猛烈に安い。

でも厳しい規制に対応した排気ガス濃度を検知して、供給する燃料と空気を霧化する割合を変えるのは、電子制御のインジェクションが必須。単に機械式のキャブと、コンピュータを必要とするインジェクションじゃ、コストが大きく違って当然だヨ。

フジタ/でも海外メーカーは売れるバイクだからコストをかけられるんでしょ?

ネモケン/たとえばハーレーは、V-ROD以外ほとんどのモデルが空冷だよネ。200~300万円もの高価なバイクだから、10パーセントくらい値上げしてもユーザーの購買機運は大きく変わらない。100年の伝統が魅力のあの冷却フィンの付いた45度Vツインが水冷のウォータージャケットで包まれたら、ルックスは台無しだろうネ。それにハーレーのビッグツインは1600ccもの大排気量だけど、鋭い加速や最高速度を誰も求めない。空冷+インジェクションで伝統を守って当然というわけだ。

1689ccと大排気量を誇っているハーレーの空冷Vツインエンジン、ツインカム103。もちろん、インジェクションだが、伝統のトルク感や味を出していて、ひとり勝ちを続けている。ハーレーを乗り継いできたベテランから、初めてハーレーに乗るビギナーまでを納得させるテイストは、他ではマネできない

「ギュン!」の水冷か「モワ~」の空冷か好みが分かれる

ネモケン/それに見た目だけではなく、空冷だとエンジンフィーリングがまるで違う。水冷では絶対性能は稼げても、乗っていて楽しめるエンジンの感性を得るのが難しいというのが決定的な差になってるってわけだ。

フジタ/そう、その空冷ならではのフィーリングってやつ、乗ってると何となく感じるんですけど、どんなところが大きく違うのか、説明しろってなるとうまく言えないんです。

ネモケン/ンー、分かりやすく言うと、レスポンスの鈍さかナ。スロットルを開けたとき、水冷だと瞬時にレスポンスするし、スロットル開度にリニアに対応できる。これはレースのように、限界でコーナリングしているときなんか、わずかなスロットル開度の違いでトラクションの強さをコントロールできるから、パフォーマンスを優先したら大事な特性だよネ。技術的にも先進性として売りの部分、新しさをアピールできる要素であるのは間違いない。国産バイクメーカーの得意なところで、最近だとココの競争に明け暮れている。

でもわずかなスロットル開度の違いに反応しちゃうってのが、ツーリングではちょっとした路面からの揺れでスロットルを握った右手が動いてしまうと、バイクがわずかに加速したり減速したりを繰り返す。つまり前後にギクシャクしちまうってわけだ。コレ、スムーズさに欠けるっていうか、イイ感じしないだろ?そんなに神経質じゃ疲れるし。

それにクルージングしてるときだけじゃなくて、コーナリングだってスロットルに鋭く反応すると、右手に神経を集中していなけりゃならない。コレも常に緊張を強いられるので、楽しいかっていうとほとんどのライダーには難しさになる。空冷だとスロットルを開けてすぐに反応せず、ちょっとタイムラグがあってジワッと加速するんだナ。

このユルサが、ライダーには扱いやすさになる。大雑把に開けて加速するのを感じてから、強すぎたら少し戻せばイイ……。いわば優しさにもなるから、フツーのライダーはむしろ積極的に攻める気にもなれる。ボクなんかツーリングで流して走るときの快適さや、こういうコーナーを攻めたときの扱いやすさで、空冷のほうが間違いなく楽しいって思うネ。

フジタ/イヤ~、分かりますヨ。水冷のものすごく性能の尖ったバイクだと、緊張しっぱなしになっちゃいますからネ。でもすごさに対峙してるその時間が楽しいって思えるんですけれど、それじゃイケないのかなァ……。

ネモケン/そんなコトはないでしょ。コーナーでいつ開けるか、それもどれくらいトラクションのきっかけにできる開度を与えたら良いか、そこを探りながら右手に神経を集中するってのも醍醐味だもんネ。

フジタ/でもそう言ってながら、空冷のユルサも捨てがたいです。確かに開けてすぐじゃなくて、ちょっと遅れてグワッとくるあの感じ、いちいち気にしてませんでしたけど、だから気がつかないうちにガンガンいこうって積極的になれてた……。あ、やっぱりボクも空冷のほうがイイです。

ネモケン/ハハハハッ、何もどっち派か決めろって言ってないじゃん。

’88年の851から進化した水冷Lツイン。次々と新しいエンジンを投入する国産メーカーと違い、ひとつのエンジンを基本としながら着々と熟成させるスタンス。それでもドカのスーパーバイクは、最新の国産バイクと変わらない性能を得ている

国産メーカーの空冷モデルはなくなってしまう!?

フジタ/実際、考えちゃいますヨ。海外メーカーは、そこを重視してるってコトですよネ。だからコストがかかっても、それに性能がドロップしても空冷を存続させようって努力してるわけでしょ?これはそもそもバイクって何が楽しいかを問う大事な部分じゃないですか。

ネモケン/そう思うヨ。水冷の絶対性能の高さが悪いなんて思わないけれど、乗っていてライダーがどこを楽しんでいるかってなると、空冷の特性は過去のものだけじゃ片付けられない。バイクの魅力は性能だけじゃなくて、感覚的なほうも同じくらい重要だってことは事実としてあるからネ。そこをコストや技術的な難易度で、国産メーカーが棄てようとしてるのは問題だと思う。

以前から国産メーカーのエンジニアとの会話で「空冷は残したいけれど、ビッグバイクで規制をクリアしても50psほどしかパワーがなかったら、誰も乗らんでしょう」という声を聞くことが多くて、何とも気になってたんだけど、新しい排気ガスや騒音の規制が現実のモノとなったら、その心配が的中しちまった。

彼らにボクの30psにも満たないクラシックバイクに乗ってもらったら「パワーがなくてもコーナリングとか心地好い緊張感と醍醐味があって楽しめるんですネ」ってコメントしてたのに、製品化となると途端に怯んじゃう。こうなるとパフォーマンスバイクだけしかつくらない国産メーカーというのが明確になった。

でも今やハーレーにビジネスで負けている現実があって、国産メーカーのシェアはどんどん落ちている。これ以上マーケットが小さくなったら、続けられないかも……。なんて言葉まで飛び出す始末だから、ココは考え直さないとだよナ。

フジタ/そいつはマズイんじゃないですか?だってライダーの好みはパフォーマンス最優先じゃなくなってきてますよネェ。海外メーカーの多くが、空冷モデルをまだ開発してるのに、国産メーカーは完全に見放したんですか?

ネモケン/そうは思いたくないけれど、このままじゃそういうことにもなりかねない。

空冷のユルサを楽しむ大人なバイクに乗りたい!

フジタ/でもエンジンの特性で、空冷にしないと得られない領域があるなら、旧いとか難しいとかじゃなくてやる必要ある気がしますけど……。ところでさっきから気になってるのが、空冷のユルサは空冷という方式じゃないとできない特性なんですか?

ネモケン/エンジンは頑張ると熱くなるだろ。そうなるとシリンダーとピストンが金属なんで熱膨張する。ということは、圧縮を保っているシリンダーとピストンのクリアランス(隙間)が縮まって、悪くすると擦れて焼き付いちまうことになる。だから最も負荷の高い状態のピストンクリアランスを前提にしてエンジンは設計されるわけだ。

で、空冷だと走行風で冷却するんで、シリンダー周りの温度を水冷のように一定に保てない。そこで熱膨張を前提に余裕を持たせないとならない。つまり普段走っているときは、ピストンクリアランスが大きい。この大きめのクリアランスを、燃焼室で爆発した排気ガスがスリ抜けてピストン下のクランクケースへ下降していくよネ。これがいわゆるブローバイガスなんだけど、今はこれをエアクリーナーへ戻す還流方式が常識。

というわけで、大きめのクリアランスだと、レスポンスも緩くなるし吸気も新気の割合が減ってパワーも出にくくなる。水冷は冷却水が通るジャケットでシリンダーの周囲を包んでいるから、ラジエターで一定の温度に保てることもあって、そもそもクリアランスを小さくできる。ブローバイガスも少ないし、性能もドロップしない。パワーを稼ぐのに優位でレスポンスも鋭くできるってわけ。

フジタ/なんだかボンヤリしてたのがハッキリしました。なるほど空冷は効率悪いけど、そこが乗って楽しいユルサに繋がっているんですネ。でも水冷だって空冷のような特性、最新の技術ならコンピュータを駆使して生みだせるんじゃないですか?

ネモケン/できなくはないだろうけれど、ルックスでラジエターが必要だったり、空冷のような伝統的な美しさを醸し出せないんじゃないかナァ。

フジタ/確かにエンジンのカッコよさって大切ですよネ。でもそれより、今やライダーは絶対性能だけでバイクを選んでいるんじゃないって事実を国産メーカーのエンジニアに伝えるのが先決だと思います。そこを解決しないと、大人が楽しむ味わい深いバイクは、国産メーカーからは出てこないってことになる。それ困りますよネ?

ネモケン/国産メーカーもさすがにそこに気が付き始めていると思う。ホンダのCB1100のような空冷モデルも出てきてるしネ。

「空冷でもロングセラー」にはワケがある

このままでは空冷エンジンはなくなってしまう!? いやいやパフォーマンスを最優先しない空冷エンジンにはライダーに愛される味のあるキャラクターがあり、それがロングセラーになる素質となっている。SR400もW650(現行は800)も、いちどはカタログ落ちしてしまったが、FI化して見事に復活を遂げている。そこで、空冷エンジンのなかでもロングセラーを誇る3基を紹介しよう。

78年から現在まで生産されているヤマハのSR。国内を代表する400ccのビッグシングルだ。以前は500cc版もあった。

99年に登場したW650のエンジンは、あえて大量生産に向かないベベルギヤを採用したバーチカルツイン。

モトグッツィV7が搭載する縦置きVツインは、77年に登場したV35やV50の時代から30年以上熟成を重ねてきた。

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ネモケン

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根本健。75 ~78年まで世界GPに参戦。帰国後はライダースクラブ編集長として、ワークスマシンから市販車まで幅広く試乗。70歳を超えた今も最新マシンに乗り、読者にライテクを指南している

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根本健。75 ~78年まで世界GPに参戦。帰国後はライダースクラブ編集長として、ワークスマシンから市販車まで幅広く試乗。70歳を超えた今も最新マシンに乗り、読者にライテクを指南している

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