クラッチに「乾式」と「湿式」があるワケ【ネモケンの今さら聞けないバイクのギモン】

いつの時代もライダーは探究心が旺盛だ。バイクに乗れば乗るほどに詳しくなればなっただけ次から次へと、新たな疑問が沸いてくる。そして、そんな小さな疑問の答えにようやくたどり着いたとき、初めはあれほど遠かった、自分とバイクとの距離がまた一歩、近づいたのを実感できるのだ。

そこで、ライダーの素朴な疑問を元世界GPライダーにして、ワークスマシンから市販車まで幅広いバイクに乗り続け、読者にライテクを指南しているネモケンこと根本健が分かりやすく解説! 今回のテーマはクラッチの「乾式」と「湿式」について。それぞれのメリット・デメリットをひも解いてみると、見た目以上に違う大きな差が見えてくる。

 

「乾式クラッチ」と「湿式クラッチ」は何が違うの?

乾式クラッチと湿式クラッチを簡単に図で表すと上のようになる。市販されるバイクのほとんどはクラッチがオイルに浸けられている湿式を採用。湿式クラッチだと回転をするときにオイルの抵抗がかかるため、その分パワーロスになるが、クラッチプレートの摩擦が少なく、乾式に比べて耐久性が高い。

「油圧式クラッチ」と「ワイヤー式クラッチ」は何が違うの?

大抵の大型バイクのクラッチは油圧式を採用している。同じ大きさのクラッチを操作する場合、ワイヤー式に比べて油圧式の方が操作が軽いためだ。しかし油圧クラッチの場合、常に一定の力でクラッチを操作するため、ミートする感覚が分かりづらい。ワイヤー式のほうがクラッチを操作している感覚が分かりやすいため、性能を追求するスーパースポーツなどが積極的に採用している。

油圧クラッチは確かに操作感が軽いが、常に一定の握力が必要なため、渋滞で握り続けていると疲れる。ただ、ワイヤー切れの心配をしなくていいのが嬉しい

 

スーパースポーツの場合、ワイヤーの根本に調整用のダイヤルが付いているケースが多い。実はコレもレーシングマシンをモチーフにした装備だ

ネモケンに聞いてみよう!「乾式と湿式のメリットとは?」

先生:ご存知、我らがボス「ネモケン(こと根本健)」
生徒:永遠のライテク初心者「フジタ(RIDERS CLUB編集部員)」

 

フジタ/この前ちょっと旧いドゥカティに乗ったら、発進のとき半クラッチがいきなり繋がってどうにもうまくできない。これ乾式クラッチだからって言われたんですが、何でこんな乗りにくい方式を使うのかナ、なんて思いつつこの乾式クラッチについて教えて頂こうかと……。

ネモケン/キュキューッとかキュンとか、一瞬鳴いたような音がしてガツンて繋がっちまう感じの?

フジタ/そうそう、それです、それ。

ネモケン/そのドカはクラッチ交換しないとだネ。ハウジングとインナーの爪と溝に、7枚とか8枚あるフリクションプレートとクラッチプレートが当たって段差ができてしまい、少しずつ隙間を生む間隔が取れなくなってるからで……なんて、いきなり構造の話をしても分かんないよナ。

早い話がオイルに浸ってない乾式クラッチだと、クラッチの操作が上手下手でもつ時間と距離が違うけど、そういう状態に陥りやすい。

フジタ/構造については後々勉強したいと思います。でもそんな弱点のある乾式をナゼ使うんですか?

レーサーが採用している「乾式」クラッチは高性能バイクの象徴だった

ネモケン/カッコいいから、なんて表現は言い過ぎかも知れないけれど、レーシングマシンが使う方式だもの……。そうか、キミの年代だと乾式クラッチだからエライ!って時代があったの知らないかァ。

フジタ/聞き捨てならないですネェ、乾式クラッチってエライんですか?

ネモケン/オッ、やっぱり反応したナ。

フジタ/ハイ、一番スゴイとかエライとかに弱いですから……。

ネモケン/モトGPマシンのクラッチのところを良くみてご覧ヨ。クラッチそのものが露出してるだろ?これつまりオイルに浸ってないってことだよネ。

フジタ/ホントだ。RC213V見ても、クラッチが外に出た状態ですネ。

ネモケン/市販車だとクラッチはトランスミッションなどと一緒にエンジンオイルに浸ってる。耐摩耗性とか操作のしやすさとかでそうなってるんだけど、クラッチのようにこれだけ直径の大きなユニットが回転したら、エンジンオイルを猛烈に掻き回すよネ。それってかなりの抵抗になる。1馬力だってロスを生じたくないレーシングマシンは、だからクラッチをエンジンオイルが浸っている部屋を仕切って外へ出し、外気で冷却する方式にしてるってワケだ。

つまり耐久性とかそういった実用性よりも性能本位、効率優先な方式なので、スーパースポーツのようにレーシングマシンのレプリカ発想のカテゴリーに採用されてきた。ドゥカティだけじゃなく、80年代の2スト250レプリカも最上位のマシンは乾式多板クラッチを採用してマニア垂涎の人気車種だったネ。交差点で信号待ちしてるとき、ローギヤに入れてクラッチ切った状態で聞こえるシャラシャラシャラって音が、エライ証だったもの。

1993 HONDA NSR250R SE(乾式)
ハイグレードモデルのSEとSPに乾式クラッチが装備されていた。発売された当時はレーサーレプリカブームも手伝って、よりレーサーに近い装備が多くのライダーの心を掴んだ

フジタ/なるほど、乾式クラッチってエラかったんですネ、勉強不足でした。でもドカは最新モデルで湿式化してますヨ。最近だとエライ価値観、変わってしまったんですか?

ネモケン/騒音対策だネ。レーシングマシンは依然として当然の乾式だけど、市販車となると泣く子も黙る騒音規制に対応せざるを得ない。それにバックトルクリミッターとか、他の機能も湿式のほうがやりやすいとかさまざまな要素も絡んできているから、乾式が使われなくなってきた。

フジタ/なるほど、でもクラッチにレプリカ度合いが反映されるエラさ競争があったなんて、知らなかったのは反省です。乾式がエラかった時代にいたかったナァ……。

ネモケン/随分と過剰反応するネェ。だったらついでに言っておくけど、最近はメーカーによって違ってきたけど、ちょっと前までレプリカと言えばクラッチは油圧操作じゃなかった。昔からのワイヤー方式で、クラッチレバーのホルダー基部に大きなリングが付いていて、そこに細い鋼板でつくったバネがリングの外に刻まれた溝に噛んでるよネ。

これってレーサーが走行中にクラッチの遊びをアジャストできるよう工夫した装備。まァ市販車じゃそんな調整しないけど、レプリカとしては必須アイテムだったナ。

フジタ/イヤ、ハイ、ボクのバイクにも付いてます。あれエライんですネ、知らなくて大損するとこだったナァ。そうですか、走行中にクラッチ調整なんかするんですネ、レーサーは。

ネモケン/そうネ、スタートダッシュで猛烈な半クラ使った後なんか、クラッチが熱膨張していて、後で冷えてきてからまたアジャストしたりしてた。

乾式クラッチはレーシングマシンの物?

フジタ/乾式クラッチって、レーシングマシンの流れを受け継ぐ象徴のようなものだったんだ……。

ネモケン/そうとばかりは限らないヨ。たとえばモト・グッツィの縦置きVツイン、BMWの空冷ボクサーエンジンもクラッチは乾式だもの。

ボクサーエンジンはいわゆる「縦置きエンジン」なので進行方向に対面する形にクラッチを設置できる。そうすると4気筒エンジンのような「横置きエンジン」に比べて大きなクラッチプレートが使えるため、単板で十分な駆動を伝えられる。ちなみに車も同じように単板が一般的だ

フジタ/オッと、ツーリングバイクのカテゴリーでも乾式なんですか?

ネモケン/というか、クルマのクラッチは本来が乾式なんだナ。いまじゃオートマチックでクラッチないのが一般的だから、そういう基本の構造を語れないけど、グッツィやボクサーはエンジンが縦置きなんで、クルマと同じ構成のまま進化してきた。クルマだと、スペースの関係でエンジン後部に大きな直径のクラッチが装着できる。

でもバイクはクランクシャフトが進行方向に対し横置きのエンジンが大半だよネ。この構成だとクラッチは直径を小さくしないとならない。なのでクラッチを何枚かに分離して1枚あたりの負荷を減らした多板構成が開発された。空冷ボクサーなんかはクルマと同じ単板だヨ。

これからのバイク用クラッチはどうなる?

フジタ/クラッチにじつは色々な方式があるなんて、いままで意識してませんでした。他に技術革新されてきた部分がまだありそうですよネ。これは今後どんな風に変わっていくんでしょう。

ネモケン/バイクのレースじゃ禁止されてるけど、クルマのF1で進化してきたクラッチ操作の要らないギヤチェンジだろうネ。スポーティな乗用車で既に実用化されてるツインクラッチ方式を、ホンダはバイクでも実用化している。

Dual Clutch Transmission(通称DCT)は、四輪ではスポーツカーのみならず数多くの車両に採用されている。バイクではホンダがVFR1200FとNC700系にいち早く採用した。2つのクラッチがそれぞれ奇数段・偶数段のギヤに対応しており、クラッチを繋ぎ替えることで瞬間的にギヤチェンジを行える

フジタ/オートマですか。スポーツバイクの面白さをスポイルするイメージで興味が湧かない人が多そうですネェ。
ネモケン/そんな風に誤解されやすいけど、シフトするとき、ふたつクラッチがあって、ひとつが次のシフトアップかシフトダウンするギヤに対応して構えている、そんな構造だと思えばイイ。瞬時にスムーズなギヤチェンジができるので、トラクションを活用しているコーナリング中に、誰でもシフトアップやダウンが可能になる。

もちろんプログラムでオートを選べば、ギヤチェンジを適宜してくれる便利さもあるけどネ。ライダーが積極的にマニュアルシフトする側の発想で開発されているんで、ライディングをもっと楽しめる。

フジタ/そんなにすごいシステムが実用化されてるなんて……。ヤバイ、勉強しなくちゃ!

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ネモケン

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根本健。75 ~78年まで世界GPに参戦。帰国後はライダースクラブ編集長として、ワークスマシンから市販車まで幅広く試乗。70歳を超えた今も最新マシンに乗り、読者にライテクを指南している

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