
「パニガーレV4S」のネイキッドバージョン「ストリートファイターV4S」がついに登場

伊丹孝裕
- 2020年07月31日
とにかく一度乗ってみてほしい DUCATI STREETFIGHTER V4S
ドゥカティのスーパーバイク「パニガーレV4S」のネイキッドバージョンが「ストリートファイターV4S」として登場することになった。
このネーミングはしばらく途絶えていたものだが、満を持して復活アグレッシブさとフレンドリーさが高次元でバランスし、最大のヒット作になるのでは!?
過走行車両が続出しそうな快適快速ネイキッド
ストリート、高速道路、ワインディング、そしてサーキットと、ありとあらゆるシチュエーションでストリートファイターV4Sのテストを行うことができた。走行距離は600㎞を超えたと思うが、疲労はほぼないに等しい。ドゥカティとしてはあり得ないことながら、これは本当だ。夢のように快適に距離を重ねることができ、スーパーバイク由来のエンジンを搭載したモデルのみならず、モンスターなどを含めても、群を抜くオールラウンド性能を持っている。
ドゥカティを好むライダーは、多かれ少なかれ我慢の先にある快楽を知っているものだ。街中で苦痛を強いられたとしても、いざスロットルを開けられるステージを迎えると印象が一変。それまでのストレスをすべて置き去りにできる、マシンとの一体感がそれだ。
たとえ一瞬、たったひとつのコーナーだとしても代償を払うだけの価値を見出してきたものだが、ストリートファイターV4Sにはその必要がなく、極めて高い手の内感をいつでもどこでも感じることができる。
生粋のドカティスタはそれを軟弱になったと思うかもしれないが、とにかく一度乗ってみてほしい。フレンドリーさとアグレッシブさの間を、自由に行き来できる奥深さに魅了されるに違いない。
では、そのフィーリングを具体的にお届けしていこう。まず成り立ちを簡単に説明しておくと、このモデルはセパレートハンドルとフルカウルを備えるパニガーレV4Sのネイキッドバージョンである。本来、ストリートファイターというのはスーパースポーツのカウルを剥ぎ取り、アップハンドル化したカスタムの総称だが、大胆にもドゥカティはそのまま車名に採用。Lツインエンジンを搭載したモデルは以前にも存在していたものの、今回およそ5年ぶりに復活することになった。
フロントカウルとサイドカウルを持たないストリートファイターV 4Sは、当然ながらかなりスリム、もしくはコンパクトな印象だ。車体を引き起こす時の手応えも軽いのだが、シート高はパニガーレV4Sよりも10㎜高く設定されている。
とはいえ、足着きが悪化しているかといえばそんなことはない。シート生地が厚くなったぶん、沈み込みが多く、お尻を包み込むようにホールド。乗り心地はむしろ良好だ。
モチーフはJOKER

速さ、優美さ、先進性、快適性……ドゥカティの魅力のほとんどすべてがココにある
パニガーレV4Sに対し、若干出力が落とされているとはいえ(214㎰→208㎰)、パワーユニットの基本的な仕様は踏襲されている。それゆえ、エンジンを始動させた時のサウンドは獰猛と表現して差し支えなく、強面なフロントマスクにふさわしい、身震いするようなバイブレーションを伝えてくる。
もっとも、そこから先は従順で軽快だ。ライディングモードの選択をアグレッシブなRACEにしていたとしても、スロットル微開の域ではフレキシビリティに富み、エンジンが先走るようなことはない。パニガーレV4Sなら手首の動きに神経を注いでいないと、路面のギャップを拾った時に右手が動いてしまうことがあった。だがストリートファイターV4Sのアップハンドルならリラックスして持てるため、無用な力が入らず手首の疲労も皆無。200㎰超のスーパーバイクを日常的に扱えてしまう事実に驚かされる。もちろんこれは歓迎すべき変化だ。
そのまま延々と安楽で、穏やかだったとしたら興覚めされるところだが、もちろんそんなわけはない。なにせ実態は1103㏄のV型4気筒である。8000rpmあたりからパワーは急激に盛り上がり、猛烈な勢いで加速。ファイナルが大幅にショート化されていることも手伝って、中回転域の加速GはパニガーレV4Sを凌ぐ迫力で車速をグイグイと押し上げていく。
ただし、緻密な作り込みを感じさせるのはここからだ。以前のストリートファイターなら車速に応じてステアリングの手応えが希薄になり、その不安定さをスリルに感じられるライダーだけに受け入れられたが、新型はホイールベースが延長され、ステアリングヘッドを前方へオフセット。車体のディメンションが見直され、フロントの接地感が奪われるようなリスクが消えている。
そういう素性の良さをサポートしているのが、第2世代に進化したトラクションコントロールやウイリーコントロール、そしてラジエターサイドに設けられた4枚のウイングレットで、これらはすべてスタビリティの確保を目的に機能。その恩恵は計り知れない。
気筒休止システムが作動

昔気質のドカティスタは、ここでもやはり軟弱化を嘆くかもしれないが、208㎰の世界をナメてはいけない。電子デバイスはもちろん、空気のチカラを使ってでも車体を抑え込む必要があるほど、アブノーマルな世界なのだ。
それを理解していると、これほどのエンターテインメントはない。スロットルを大胆に開けてもフロントタイヤのリフトは最小限に留められ、パワーを最大限に加速力へと変換。コーナリング中でもそれは変わらず、従来は滑り始めてから反応していたトラクションコントロールが予測型に進化したおかげで、フルバンク状態でもトラクションを得ることが可能になっている。
ストリートファイターV4Sは、ドゥカティ史上、速さと扱いやすさが最も高いレベルでバランス。この一台の中に、ドゥカティの先進性と醍醐味がすべて詰まっていると断言していい。もう一度書くが、とにかく一度乗ってみてほしい。
かつてのストリートファイター
ストリートファイターの名を持つモデルが初めて披露されたのが、’08年のEICMAだ。スーパーバイクシリーズとモンスターシリーズのイイトコ取り仕様として、翌’09年に正式デビュー。モデルチェンジとグレードの追加を経ながら、’15年モデルまでラインナップされた。
2009 STREETFIGHTER

2012 STREETFIGHTER 848

羽根が2枚ではなく、4枚になった理由

電子制御サスペンションの効果

一度ラインナップから外れ、再び復活した背景
ストリートファイターV4/Sがヴェールを脱いだのが、’19 年のEICMAだ。その存在はひと際目を引き、来場者の投票によって選出される『モスト・ビューティフル・バイク・オブ・ショー』で見事大賞を受賞。しかもそれは、並み居るライバルに圧倒的な得票差をつけてのことだった。
その会場で、ドゥカティのセールス部門を率いるフランチェスコ・ミリチアさん(以下、F.M)にストリートファイターにまつわる話をいくつか聞くことができた。
Francesco Miliciaフランチェスコ・ミリチアさん

ストリートファイターの存在意義
――スーパーバイクのパフォーマンスをアップライトなポジションで楽しめるストリートファイターは、ドゥカティにとって初めての試みではなく、以前のモデルも一定の成功を収めていたように思います。にもかかわらず、この数年ラインナップから外れていたのはどうしてでしょう?
F.M 我々は’15 年に注目すべき一台のブランニューマシンを送り出しました。なんだったか覚えていらっしゃいますか? モンスターファミリーのフラッグシップである「1200R」がそれです。エンジンにはスーパーバイクと同系の1198ccの水冷Lツインを搭載し、160psの最高出力はモンスター史上最高の数値。スーパーバイクにもひけを取らないスピードを誇りました。そこで、いたずらにラインナップを分散するよりは1200Rをネイキッドの頂点として展開した方が自然だと考え、ストリートファイターを一度ストップさせたのです。
――それが復活したのはなぜでしょう?
F.M もちろんパニガーレV4/Sの存在を抜きにして語れません。MotoGPマシンさながらのハイスペックは広く知られるところですが、それをアップハンドルで楽しみたいという声を多数頂戴しました。そこで我々はすぐ開発に着手。このマシンの登場は、必然と言っていいでしょう。
――なるほど、よく分かりました。ところでこういうカテゴリーの場合、ベースマシンに対してそれなりにデチューンされるのが一般的だと思います。しかしながら、例えば最高出力はパニガーレV4/Sの214psに対して208psを公称。実に微妙なダウンに思いますが?
F.M 同じ214psに設定することも、逆に180ps程度に抑えることもできたのですが、電子デバイスが進化した今、パワーをそれほど制限する必要はなくなりました。ではなぜ6ps低くなっているかと言えば、可変ファンネルを廃したからです。これはトップエンドの最後のひと伸びで効く装備ですが、ストリートに主眼を置いたモデルゆえ、あまり意味はないと判断しました。ちなみに、’20 年型のパニガーレV4/Sが穴あきフレームを採用したのにストリートファイターV4/Sでは見送ったのも同じ理由です。これはフルバンク時の最後のしなりを最適化するための構造ですから、やはりストリートでは過剰だと考えました。それより重要視したのが空力で、かつてのストリートファイターと比較するとカウルを取り払ったことの影響が大きく、いかに安定性を確保するかに注力しました。バイプレイン・ウイング(2枚翼)はその象徴的な装備ですから、ユーザーの皆様にデザインも含めて共感して頂けるものと信じています。
2015 Monster1200R



DUCATI STREETFIGHTER V4/S 全詳解












充実のパフォーマンスパーツ

STDモデルはなにが違う?

※ショーワ製φ43mmフルアジャスタブルBPF/ザックス製フルアジャスタブルモノショック/ザックス製ステアリングダンパー/アルミ鋳造ホイール
幅広いトルクバンド

パニガーレとディメンションは違う?
こちらはパニガーレV4/Sとのディメンションの差だ。フロント荷重が減少したぶんをホイールベースの延長とステアリングヘッドのオフセット、シート高のアップで補完。またファイナルレシオが大きく異なっている。

STREETFIGHTER V4S:シート高 845mm(835mm) ホイールベース 1488mm(1469mm)キャスター角 24.5°(24.5°) トレール量 100mm(100mm)ファイナルレシオ 15/42(16/41) 車重 199kg(198kg)
STREETFIGHTER V4S 279万9000円
STREETFIGHTER V4 243万5000円
- BRAND :
- DUCATI Magazine
- CREDIT :
-
PHOTO/K.OHTANI TEXT/T.ITAMI
問/ドゥカティジャパン 70120 -030 -292 http://www.ducati.com/jp/ja/home
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