
KAWASAKI Ninja ZX-25R/SE オートポリスでの試乗会に中野真矢がインプレッション!

RIDERS CLUB 編集部
- 2020年10月11日
中高速で回り込むようなコーナーが多くチャレンジングなコース、オートポリスにまるで悲鳴のような甲高い直4のエキゾーストノートが響き渡った。Ninja ZX-25Rが奏でる澄んだサウンドは、スポーツライディングの喜びに満ちている
テストライドしているのは、かつてカワサキのファクトリーライダーとしてMotoGPマシンNinja ZX-RRを、ここオートポリスで走らせていた中野真矢さんだ
徐々にペースを上げていく。まだ回る。もっと回る。限界はもう少し先にある。フレームもサスペンションも、そのパワーを余裕で受け止めている
レコードラインをきれいにトレースしながら、中野さんはNinja ZX-RRを思い出す。そして250ccの量産車と990ccのMotoGPマシンに、ある共通項を見出していた
Tester 元MotoGPライダー 中野真矢 Shinya Nakano

KAWASAKI Ninja ZX-25R/SE 超回転型エンジンだけじゃない! 全身妥協なく造られた“こだわりの逸品”
Circuit Impression フロントのどっしりとした安心感はカワサキのMotoGPマシン・ZX-RRに通じる
ZX‐25Rの試乗が行われたオートポリスは、僕にとってなじみ深いコースだ。レースをしたことはないが、現役時代にカワサキのMotoGPマシン、ZX‐RRのテストのため何度も走った。勝手知ったるコースで話題の25Rを走らせられるなんて、楽しみで仕方なかった。
東京モーターショーのステージに展示されていた25Rは、正直、並列2気筒のニンジャ250とさほど変わらないように見えた。しかし、いざ実車と対面してみると、想像以上のボリューム感がある。600㏄に近い印象で、なかなかの迫力だ。
とは言え、25Rは250㏄の量産車。かつてここオートポリスで走らせた990㏄のモトGPマシンとは比べようがない……かと思っていたが、走り込むと共通点が見つかって「なるほど!」と思わず笑顔になってしまった。
詳しくは後ほど記すとして、まずはもっとも気になる250㏄4気筒エンジンの印象をお伝えしよう。試乗会では多くのジャーナリストの方たちが、この気筒配列のエンジンを懐かしんでいたが、実は僕にとっては初めての体験だ。
コースインしてオートシフターを使いながらシフトアップしていくが、どうも物足りない。「ふうん、こんなものなのか」と思いながらふとタコメーターを見て驚いた。まだ1万rpm弱、ポテンシャルの半分程度しか回せていなかったのだ。
リッタースーパースポーツの感覚で、1万rpm程度でのシフトアップに慣れてしまっていたが、25Rとしては「ここから上がおいしいんだから、もっと思いっ切りスロットルを開けてくれよ」ともどかしかったに違いない。
「そうか、ここからだったか」とエンジンをブン回す。1万rpmを超えるとパワーがモリモリと増してくる。体が後ろに引かれる気持ちいい加速が延々続く。エンジン音がどんどん甲高く澄んでいく。
「このエンジン、いったいどこまで回るんだ!?」。カチッとストッパーに当たるまでアクセルを開けると、爽快な回転上昇とパワー感はキッチリとレッドゾーンが始まる1万7000rpmまで続いた。いわゆるドッカンパワーではないし、リッタースーパースポーツのように手に余ることもない。そこは250㏄、手の内にあるパワーだ。だが、スムーズな加速が長く続くフィーリングはとても気持ちいいものだった。
素晴らしいエンジンの特性に加えて驚かされたのは、クイックシフターの出来の良さだ。
まず、アシスト&スリッパークラッチ自体がよくできている。マニュアルで操作しても、切れもつながりも非常に良好だった。
シフトダウン時のエンジンブレーキの逃がし方も絶妙。もともとそれほどエンジンブレーキが強いわけではないが、減速のスムーズさは好印象だ。
そしてクイックシフターだが、アップ、ダウンとも節度感が素晴らしい。カッチリしているのに硬すぎることがなく、いきなり作動するような唐突感もない。
コーナーの奥まで突っ込み、クラッチを使わず一気に2つ3つシフトダウンするような場面でも、適度にブリッピングしてリアのホッピングも起こらない。スリッパークラッチとのマッチングは最高だ。
「これは1000㏄クラスのクイックシフターにも引けを取らない仕上がりだぞ」と感動していると、テストライダーの方が「相当煮詰めましたからね」と胸を張っていた。
クイックシフターの出来なんて細かい話かもしれない。でも、こういうところまで手を抜かないカワサキの姿勢に、ZX‐25Rに懸ける意気込みが伺える。やはり、何事にも常に本気で取り組むメーカーだ。
モトGPマシンZX‐RRとの共通点を感じたのは、ハンドリングだ。フロントにしっかりと荷重がかかり、軸になってくれるという安心感がそっくり。
25Rでオートポリスを走り込むほどにZX‐RRを走らせていたあの頃を思い出して、すっかりうれしくなってしまった。
もう少し具体的に説明すると、コーナー進入にあたってアクセルを閉じるだけでドーンとフロントに荷重が乗り、安定性が高まる。かなり太いフロントタイヤを履いているかのような感じ。これがあるからこそブレーキングを頑張れるし、「もうちょっと」と気持ちが乗ってくるのでコーナーを攻めることもできる。コーナーによってライディングポジションを変えることも自在にできるし、僕にとってはいいことずくめだ。
恐らくエンジン搭載位置や、エンジンのイナーシャそのものも関わっていると思うが、いかにもカワサキらしい作り込みだ。現役時代、レーシングマシンをセットアップするにも僕はまずフロントを重視していたので、とても懐かしく思った。
「フロントをドーンと決めてくれるこの感じ、カワサキならではですね」とテストライダーの方に声をかけると、ニコッと笑って頷いた。
前後の荷重バランスも適正で、非常にコントローラブルで扱いやすいハンドリング。僕はここにカワサキのDNAを感じた。
Ninja ZX-RR×Shinya Nakano

Riding Position

25Rは250㏄4気筒エンジンに注目が集まっているし、実際に1万8000rpmまでも回せるのは本当にすごい。でもZX‐RRの開発にも携わった僕としては、ぜひMotoGPマシンにも通じるフィーリングが味わえるハンドリングも楽しんでもらいたいと思う。
ハンドリングを司るサスペンションは剛性感が高く、なおかつ初期作動性もよい。しなやかによく動くのに奥の方ではしっかりと踏ん張ってくれるので、攻めていってもほとんど問題は感じなかった。路面の荒れたヘアピンでわずかにチャタが発生したが、その程度だ。
問題といえば、どんどん攻めたくなるのでステップを擦ってしまうこと(笑)。意外とコンフォートなポジションでステップ位置も低めだから、すぐに擦ってしまう。本格的にサーキットを走るならバックステップを入れたいところだ。
このサスペンションにも感心させられた。今の250㏄クラスでサーキットを攻めると、割合すぐに足周りが音を上げる。「減衰を高めたいな」とか「バネを替えたいな」など、いろいろ注文したくなるのが常なのだ。極端な言い方になるが、攻めていくうちにどこかで裏切られる領域が出てくるからだ。
だが25Rに関しては、せいぜい「バックステップ入れたいな」ぐらいのもので、サスペンション自体に関してはほとんど言うことがない。クイックシフター同様、カワサキが本気であることがうかがえる。
新設計エンジンをトレリスフレームに搭載





先進の電子制御テクノロジー
KTRC

パワーモード

KQS

サーキットを攻め込むほどに、ついヘルメットの中でニヤニヤしてしまう。25Rを作るにあたって、開発陣は間違いなくサーキットを走り込んでいる。
一般的な250㏄クラスでサーキットを走ると、「ま、こんなところでいいかな」という限界域に、比較的すぐ到達してしまう。ペースを上げるほど、気になる問題が出てくるからだ。
ところが25Rは、まったく逆だ。高負荷がかかるライディングをすればするほどポテンシャルを発揮してくれる。「こんなものかな」どころか、「まだ行ける」「もっと行ける」と気持ちを乗せてくれるのだ。
トラクションコントロールやABSの効き具合も、サーキット走行に対応する絶妙なセッティングで、ライディングの楽しさを損なわない。
ここまでスポーツライディングを楽しめるとは思わなかった。これはエンジンと車体のバランスによるものだろう。
いくら超高回転型4気筒とはいえ、そこは250㏄。最高速もオートポリスではメーター読みで180㎞/hと、サーキットでは決して爆速ではない。だからエンジンに対して車体が勝っており、何をしても何も起きないという安心感に包まれて、思い切ったチャレンジができる。
スポーツライディングビギナーはもちろん、600㏄や1000㏄のスーパースポーツモデルで怖い思いをした方が、改めて基本を見つめ直すにもお勧めしたい。



Winding Road Impression 低中回転域では250ccらしい扱いやすさが際立つクッキリした二面性も大きな魅力だ
公道での試乗は、残念ながら雨。だが、ドライだったサーキットとはコンディションが180度異なり、ペースも上げられなかったからこそ、いろいろ見えてきたことがあった。
コーナーが連続するワインディングロードを走行したが、使用ギアは2〜3速が中心だ。エンジン回転数も8000rpm程度で、とてもではないが本領発揮とはいかない。
しかし、その分非常に扱いやすいのだ。サーキットで見せたスポーティさとは真逆で、実用的と言ってもいいぐらいしっかり走ってくれる。
サーキットでブン回せば突き抜けた回転上昇を見せ、公道でゆっくり走れば250㏄らしい扱い
やすさが際立つ。25Rの4気筒エンジンは、クッキリとした二面性を備えているのだ。
サスペンションは初期作動性が良好なので、乗り心地はいい。ライディングポジションも快適な部類で、ツーリングユースにも余裕で応えてくれるだろう。超高回転型エンジンだとピーキーな印象を持つかもしれないが、実はかなりフレキシブルだ。
唯一の懸念は、走っているうちにどうしても面白くなってきてしまうことだ。タコメーターばかり気になってつい回転数を上げると、かなりスピードが出てしまう。
250㏄だから、車速が上がるのにどうしても時間がかかる。それだけに、オーバースピードに気付いた時には、コーナーの奥の方まで突っ込んでしまっている可能性がある。
このあたりの感覚は、瞬時に車速が上がるビッグバイクとはだいぶタイミングが違う。車体勝ち、ブレーキ勝ちなので怖い思いをすることは少ないと思うが、「アッ!」と体が硬くなってしまうと結局は曲がれない。回転数だけではなく、スピードも意識した方がいいだろう。
サーキット、そして公道で試乗した25R。バイク業界の盛り上げ役として注目を集めているバイクだが、実際に走らせると、超高回転型エンジンと同じぐらいサスペンションやクイックシフター、電子制御などの仕上がりのよさが印象に残った。
冷静に考えると250㏄で91万3000円(SE仕様)という価格は決して安くはない。だが、各部の作り込みのよさやこだわりのメカニズムを目の当たりにし、それらが生きた走りを体感すると「優れたコストパフォーマンス」と言いたくなる。
東南アジア諸国では250㏄クラスはスーパースポーツ扱いだと聞くが、まさにその称号にふさわしいモデルになっているのだ。
フロントのどっしり感がカワサキらしい、と書いた。しかし実は「250㏄であっても一切妥協しない姿勢」こそが、カワサキらしいのかもしれない。だから多くの人に期待を抱かせ、魅了し、ワクワクさせているのだと僕は思う。
左右レバーは5段階調整

ツーリングでの利便性も完備

KAWASAKI Ninja ZX-25R/SE DETAILS












SE仕様とSTDの装備の違い

Specifications Ninja ZX-25R/SE
左からNinja ZX-25R SE KRT EDITION 91万3000円 ライムグリーン×エボニー、Ninja ZX-25R 82万5000円 メタリックスパークブラック、Ninja ZX-25R SE 91万3000円 メタリックスパークブラック×パールフラットスターダストホワイト
■エンジン:水冷4ストローク並列4気筒■バルブ形式:DOHC4 バルブ■総排気量:249cc■ボア×ストローク:50.0×31.8mm■圧縮比:11.5:1■最高出力:45ps/15500rpm、46ps/15500rpm※ラムエア加圧時■最大トルク:2.1kgf・m/13000rpm■キャスター/トレール:24.2°/99mm■サスペンション:F=φ37mm テレスコピック倒立、R=ホリゾンタル、バックリンク式モノショック■ブレーキ:F=φ310mm シングルディスク / R=φ220mm シングルディスク■タイヤサイズ:F=110/70R17M/C / R=150/60R17M/C■全長 / 全幅 / 全高:1980/750/1110mm■軸間距離:1380mm■シート高:785mm■重量:183kg(184kg)■燃料タンク容量:15ℓ ※( )内はSE純正オプションを多数用意

正規取扱店のみの斡旋商品

ROOTS 1989年型ZXR250/R カワサキ初の250㏄4発として31年前に登場!

■エンジン:並列4気筒水冷4ストローク/DOHC4 バルブ249㏄■ボア×ストローク:48.0×34.5mm■最高出力:45ps/15,000rpm■最大トルク:2.6kg-m/11.500rpm■乾燥重量:144kg■価格:59万9000円(64万9000円)※( )内はR。価格は発売当時のもの
- BRAND :
- RIDERS CLUB
- CREDIT :
-
PHOTO/S.MYUMI TEXT/G.TAKAHASHI、S.KAWAMURA
取材協力/カワサキモータースジャパン 0120 -400 -819 https://www.kawasaki-motors.com/mc/
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PROFILE

RIDERS CLUB 編集部
1978年の創刊時から、一貫してスポーツバイクの魅力を探求し続けるオピニオンマガジン。もはやアートの域に達している、バイクの美しさを伝えるハイクオリティの写真はいまも健在。
1978年の創刊時から、一貫してスポーツバイクの魅力を探求し続けるオピニオンマガジン。もはやアートの域に達している、バイクの美しさを伝えるハイクオリティの写真はいまも健在。