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フォトグラファー折原弘之が振り返るパドックから見たコンチネンタルサーカス

ロン・ハスラムが教えてくれた、スタートの秘密

’81年から国内外の二輪、四輪レースを撮影し続けているフォトグラファー
折原弘之が、パドックで実際に見聞きしてきたインサイドストーリーをご紹介

先頭を走る#5がロン・ハスラム。このレースでも見事にホールショットを奪取している。

ロン・ハスラム                                                                                                                                                                       ’56年、イギリス生まれ。’77年にスズキRG500を駆り、世界GPデビュー。’78年には鈴鹿8耐で2位を獲得。’82年からホンダNR500に乗り、’83年にHRCホンダに所属。マシンの開発能力に優れており、’93年のラストシーズンまでにelf、カジバ、ノートン、ヤマハと、様々なメーカーを渡り歩いた。世界GPでの年間最高位は、シーズン途中からマシンがNSR500からelf-4に替わった、’87年の4位

ロン・ハスラムが教えてくれた、スタートの強さの秘密について

’85年にヨーロッパに渡った時、レースのスタートは押し掛けだった。

「押し掛け」とは文字の通り、スタート時には停止しているエンジンを、ライダーがマシンを押すことで始動させ、発進する方法だ。このスタート方式は’86年を最後に、現在のスタンディングスタートに変更された。

押しがけスタートだった頃は、メーカーによるマシンのキャラクターが顕著に現れていた。例えばホンダのNSやNSRは掛かりが良いと言われ、ヤマハのYZRは始動性が悪いと言われた。スズキのRGΓはその車体の軽さゆえ、押しがけに有利と言われていた。

そんな中、マシン特性など超越して高確率でホールショットを奪う選手がいた。それがロケット・ロンことロン・ハスラム選手だ。(現在ではレオン・ハスラム選手の父親と言った方が、通りはいいかもしれない)。

僕たちフォトグラファーは、第1コーナーでスタートを撮る事が多い。すると必ずと言っていいほど、白いヘルメットに黒のライディングスーツがホールショットを決めてくる。

それは、ロンが2列目からスタートしても同じ事が起こる。ただスタートが上手いでは、説明がつかない。何かあるはずと思い、機会があれば聞いてみたいと常々思っていた。

当時の僕は師匠が作っている、グランプリ・イラストレイテッド誌のスタッフフォトグラファーだった。

「簡単なコメントは取ってこい」というのが師匠からのオーダー。今回のスタート方式変更について聞くなら、ロンしかいない。あまり交流のない選手だったが、ミーティングが終わった頃を見計らって彼のモーターホームを訪ねた。するとロンは驚いたようにこう言った。

「君が訪ねてくるのは初めてだね。僕もトップライダーの仲間入りをしたのかな?」

ライダー特有の軽い嫌味なのか、ジョークなのか受け止めあぐねていると、彼はニヤッと笑って「ジョークだよ」と付け足してくれた。

先制攻撃を受けて、ドキドキしながら「スタンディングスタートに変更されたことについて聞きたいんだけど」と切り出した。

「ああ、スタートの話か。それなら僕がグランプリ・イラストレイテッドに載っても大丈夫だね」「僕たちの本を知ってるんだ?」と僕。

「日本語だから読めないけど、写真が綺麗な本だよね。HRCのモーターホームでよく見るよ」

と続けた。それにしても、よく僕がその本のスタッフだと知っていたな、と思いつつ質問をぶつけてみた。

「来シーズンから、スタンディングスタートだけど、ロンにとってはどんな影響があるのかな」通り一遍な質問から初めてみた。「いろんなジャーナリストに聞かれたけど、僕にとっては大した問題ではないよ。そのことは来シーズンが始まれば、わかることだよ」

辟易した表情でそう答えた。そこで、前々から気になっていたことを聞いてみた。「ロンは高確率でホールショットを取るけど、何かコツはあるの」 と僕。すると彼はこう答えた。

「僕の筋肉を見てみろよ」 力こぶを作って見せ、笑いながらこう続けた。

「まあジョークはさておき、コツというより、やるべき事をやってるだけだよ」

「押しがけでやるべき事って?」 と質問すると。

「力と体格だけで、決まると思ってたの? そうじゃないよ。ちゃんと論理的に組み立てるんだよ」

どういう事なのか詳しく聞いた。

「何も特別なことしてるわけじゃないよ。もちろん押す力も大切な要素だけど、ピストンの位置を合わせるのが最も重要なんだよ。ピストンを上死点に置いておくと、押し始めが軽いんだ。いくらフリクションが少なくとも、負荷はかかるし上り坂のストレートも少なくないからね。

グリッドについて、マシンを前後させる動作を見ていない? あれが上死点を見つけてる動作だよ。後は乗り方だね。フレディが飛び乗るスタイルを世界グランプリに持ち込んだだろ。僕も同じく飛び乗るようにしたんだ。その方が圧倒的に早いから。もし一発でかからないなら、諦めて追い上げれば良いと考えてるのさ」

なるほどピストンの上死点か、考えもしなかったな。感心しているとロンは子供のような笑顔で行った。

「スタートで前に出るのが、一番リスクもないし手っ取り早いだろ」

そう言うと、さらにこう続けた。

「僕のスタートはさておき、キミはこのスタートの変更をどう思う?」

と、逆に質問してきたのだ。ちょっとびっくりしながら答えた。

「スタートの優位性とかレースへの影響はわからない。ただ、スタート前の静寂がなくなるのは残念だね」

そう答えると、ロンは……。

「そうなんだ、あのマジックモーメントがなくなってしまうのは、本当に残念だ。僕にとってはスタート前の神聖な時間だった。あの数秒間で緊張感が最高潮に達し、自分の鼓動まで聞こえてくるんだよ。

あんなにエキサイティングな静寂は、押しがけスタートでしか味わえなかったからね。多くのモータースポーツファンもがっかりしていると思うんだ」

あの静寂について同じ思いを言葉にしてくれた。それからひとしきりサイレントモーメントの話で盛り上がった後、僕は去り際にこう言った。

「来年以降もホールショットを決めるキミに期待しているよ」

すると。「期待していてもらっていいけど、僕はスタートだけのライダーじゃないことも証明してみせるよ」

と穏やかな表情で、見送ってくれた。それにしてもあの騒がしいサーキットが、水を打ったように静かになる。あの瞬間は本当に奇跡的な時間なのだと思わされる。

時間にして1分弱なのだが、かけがえのない時間を失ってしまったように思えた。

折原弘之 1963年生まれ。’83年に渡米して海外での撮影を開始。以来国内外のレースを撮影。MotoGPやF1、スーパーGTなど幅広い現場で活躍する

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PROFILE

RIDERS CLUB 編集部

RIDERS CLUB 編集部

1978年の創刊時から、一貫してスポーツバイクの魅力を探求し続けるオピニオンマガジン。もはやアートの域に達している、バイクの美しさを伝えるハイクオリティの写真はいまも健在。

RIDERS CLUB 編集部の記事一覧

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