【ランスタトレラン部 Season2】UTMF挑戦記録vol.03 あっちゃん編 ~127kmで終わったUTMF。また来年、帰ってこよう~
RUNNING style 編集部
- 2019年06月20日
――――――どうしよう、来月だ……。
じつは、今年になって生活環境が変わり、あまり練習ができていなかった。本当に100マイルを走りきれるのか不安でいっぱいだったとき、メンバーみんなと集まる機会があった。「いまからやっても変わらないことのほうが多い。でも、5㎞でもいいからとにかく毎日走ること!」そう言われて、引っ越したばかりの慣れない土地で残り1カ月は毎日走って、本番を迎えた。
Text : Emma Nakajima
Photo : Takashi Ueda
スタート数分前なのにトイレ行列から抜け出せない⁉ パニック状態でスタート
今回は、昨年もUTMFを完走している部長のエマさんも選手として、私と一緒に走ってくれることになった。本当に心強かった。スタート前にトイレに行こうと思い、長い行列に並んだ。スタートの40分くらい前だったと思う。
「もう全員集合していますか?」
「ステージ向かって右の前のほうだよ!」
「まだトイレ待ちです……すみません。」
LINEで報告する。10分経っても、列は全然進んでいなかった。だんだん電波が混雑してきて、みんなとの連絡もままならない。
「エマさんもうゲートですか?」
「まだ並んでる!」
30分経ってもまだ半分しか進んでいなかった。スタート時間が刻一刻と迫ってくる。走り出せる格好でトイレに行ってゲートまで走れば良いと連絡がきて、そのままトイレ行列に並び続けた。
「5、4、3、2、1……!」
カウントダウンとともに人の波がゾロゾロ動き始めて、次第にみんなが走り出す。トイレから急いで飛び出しゲートまで走ったけれど、ついにエマさんと会えずのまま、まさかの別々のスタートとなってしまった。
「……っちゃん! あっちゃん! あっちゃーん!」
大勢の人のなかから声が聞こえた。エマさんが後ろから人をかき分けるようにして走ってきた! その瞬間、無事に合流できた安心感からか、まだゴールもしていないのに、涙が溢れてきてしまった。
「あっちゃん、泣かないの! 頑張れ!」
と、遠くでコーチのちゃんぷさんの声がした。
やっとレースがスタートして、エマさんとレースプランについて話しながら走る。これから100マイルの旅に出るんだなぁ、とようやく実感が湧いてきた。どんなことが待っているんだろう。想像するとワクワクが止まらなかった。
序盤の林道はとても走りやすくて、つい飛ばしがちに。そんなときもエマさんが「まだまだこれからだからゆっくり行こう!」と声をかけてくれてリラックスすることができた。
粟倉に到着するのが予定より少し遅れたけれど、許容範囲内。雨で蒸していて暑くて想像以上に汗をかいた。しっかり水分補給をして、次のエイドに向けて出発。走れるところは走る。そんなペース作りのおかげで渋滞の影響はさほどないままに良いペースで進むことができた。
富士宮エイドでは、固形物もしっかり補給して、次に待つ天子山塊に向けて気合を入れ直して出発。この山を越えたらみんなが待ってる!早く会いたい!ただ、それだけだった。
苦手な登りは一定のリズムを刻んで夢中で歩いた
田んぼ道を走って住宅街を抜けると、天子ヶ岳の登山口が見えてくる。いよいよだ!
登りが苦手な私は、エマさんに前を引っ張ってもらう作戦で、後ろを黙々と進むことになった。一定のリズムでトントンと登ることを意識して。止まりたい気持ちを抑えとにかくエマさんについて行く。いつもの自分のペースよりも速かったけど、あっという間に一つ目の山天子ヶ岳に到着した。
長者ヶ岳まで走る山中でちゃんぷさんが目の前に! 「速いじゃん! すごくいいよ! いいよ、いいよ!」と褒めてもらえて、うれしくて元気も超回復! 天子の尾根はとにかく走れるだけ走るように促されて、今度はエマさんの前を走った。いまのうちにたくさん時間を稼いでおこう。歩いている人を次々に抜いた。
次第に雨や霧が酷くなり、足元が見えにくくて何度も転んだ。さらに地面も滑りやすくて、熊森山からのくだりはお尻で滑る作戦に。こうなったらドロドロを楽しもう! そんな気持ちで、泥をつかみながら下りた。1ℓしか持っていなかった水が200mlくらいまで減っていた。
順調な滑り出し! みんなに元気とパワーをもらいながら走り続ける
スタートから9時間後、みんながいる麓エイドに到着。富士宮エイドで遅れていたスケジュールを天子の尾根をひたすら走ったことで持ち直していた。
みんなと会うと、自然と笑顔になれた。サポートのもりもりさんが飲み物や補給食の入れ替えをしてくれて、私は座って温かい飲み物を飲み、元気とパワーをもらった。同い年のマネージャー・ニノも、カメラマンの上田さんも、さっきまで山のなかで応援していたはずのちゃんぷさんもいた。みんなに囲まれて、改めて「一人じゃないんだ」って感じることができた。
その後の本栖湖エイドへの道のりも黙々と進んでいった。みんなに会えたことで元気が出て、今度は登りも前を歩いた。あっという間に竜ヶ岳の山頂を超えて、本栖湖エイドに駆け込んだ。
「次のエイドで何する?」と聞かれて、「手を洗いたいです!」と伝えていた。熊森の下りで泥だらけになった手をキレイにしたかった。本栖湖は建物内にトイレがあって、やっと水道で手を洗えた。湯葉丼をかきこんで飲み物を補給したら足早にエイドを後にした。体が冷えてしまったからなのか、今度は登りでエマさんから遅れるようになった。脚が重くてなかなか前に進まない。
「足が終わっちゃって……」
「大丈夫、終わってない!」
まだ全然終わってないはず、体が冷えているだけ、エネルギーが足りていないだけ、そのうち復活するから、何回か終わって復活するから、絶対走れる、そういうものだから、と言われながら走った。
精進湖エイドには、まだ薄暗いうちに着いた。ポーラテックフリースのブランケットに包まって震えながら温かいものを食べた。精進湖は、昨年のSTYでハンガーノックになりかけて横になった場所。今回はエネルギー不足で動けなくなることはなかった。早朝だというのににぎやかなみんなから再び元気をもらって、かなり順調なスケジュールでエイドを出た。
精進湖民宿村からのロードの上りは、なるべく走る。数歩走って、数歩歩くの繰り返し。夜に気持ちがネガティブになりかけていたけれど、朝日が見えてきてまた前向きになってきた。水分も一緒に取れるゼリー飲料とおにぎりを交互に補給しながら進んだ。
自身最長距離を超えた! ここまできたらやるしかない、私にもできるかもしれない!
長い紅葉台の登りを越えて町に下りた95㎞地点、勝山エイドに到着。ここまで来たということはつまり、私が走ったことのある最長距離、昨年のSTYの距離を超えた。しかも昨年よりも好タイムで。エマさんが何度も何度も励まし、気持ちを高めてくれたおかげでここまで来ることができた。うれしすぎて泣きそう……!
勝山でも、みんなが待っていてくれた。ドロドロの道のせいか、むくみのせいか、足首に少し痛みがあった。ゲイターを脱いだら少しラクになったけれど、念のためエイドに設置された足ふみマッサージをしてもらった。ほんの少し、目を閉じた。すると、なんだか回復した気がして笑顔でエイドを出発することができた。
勝山を出るとロードが続く。平坦な道や地味な登りは苦手で、いつも歩いてしまっていたけど、周りのランナーは誰一人歩いていない。
それを見たエマさんが「みんな走ってるでしょ。結構いいところにいるんだよ。このままいけば絶対完走できるから」と言う。私にもできるかもしれない。ここまできたらやるしかない! ただその気持ちで進み続けた。
忍野エイドを出ると雨が降ってきた。
低体温にならないように動き続ける。長くて単調なダート道。24時間走り続けてきて、いよいよ眠気が襲ってきた。目を閉じたら一瞬にして寝てしまう。それをエマさんに伝えたらいろんな話をしてくれた。こうして女子トークをしながら走ることができるのもトレランが大好きな理由。素の自分になれる気がするから。
瞬く間に姿を変える山で、吹雪のなかを逃げるように駆け下りた
そんなときだった。太平山まであと数100mというところで、雨がいきなり強くなり、みぞれに変わり、山頂に着く頃には一面が雪景色になっていた。
小さな東屋でネオシェルのレインウエア上下、防寒のパワーグリッド、手袋もして、持っていたウエアを全て着たけれど、それでも寒くてたまらない。止まったらもう動けなくなる。
「急いで下ろう! 走って!」
雪でベチャベチャになった地面に足を取られないように、とにかく駆け下りた。滝のように水が流れていたところもあったけれど、次の山中湖きららエイドで待っていてくれるみんなに早く会いたくて無心で進み続けた。予定より1時間も早く到着した。
127㎞地点、山中湖きららエイドに着く頃には雪から雨に変わっていたけれど、体はもう芯まで冷えきっていた。ストーブの前で丸まりながら、濡れたウエアを着替える。凍える手で準備をしていたときに、レース中止のアナウンスが聞こえた。
127kmで終わったUTMF。また来年、帰ってこよう
初めての100マイル挑戦は、127㎞で幕を閉じた。不安で、不安で、たまらなかったレースだったけれど、みんなのおかげで過去最長距離の127㎞を完走できた。
やっぱり最後まで走ることができなくて悔しい思いはあるけれど、来年に向けていい目標ができたし、ちょっぴり自信にもなった。
がむしゃらに頑張れば、できないことなんてないのかもしれない、って。
家族みたいなランスタトレラン部のみんながいてくれたから。
ありがとうの言葉じゃ伝えきれないけど……みんな、ありがとう!
ランスタトレラン部
あっちゃん
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COLUMN
あっちゃんのUTMF装備メモ
(左上から順に)ロングパンツ、ミッドレイヤー、キャップ、耳まで隠す帽子、グローブ、レインウエア上下、12Lのバックパック、ソフトフラスク、携帯コップ、ファーストエイドキットなど、携帯トイレなど、補給食、詳細コースマップ、ナンバーカード、ウオッチ、携帯電話、点滅ライト、ヘッドライト二つ
あっちゃんのお気に入りアイテム
Tシャツはみんなでお揃いの“パワードライ”。肌触りがよくて化繊とは思えない着心地。
スタートから終始雨模様となった今回のUTMF。レインウエアの下に着るベースレイヤーが、いかに汗冷えを起こさずにドライに保てるかがカギとなった。
「このTシャツは速乾性があって、雨で濡れてもビショビショになることなく走れました。肌が擦れることもなく、長時間着ていても軽いので、着心地がよくてレースに集中できました!」
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ランニング初心者から、サブ4を目指す中級者まで楽しめるランニング専門マガジン。トレーニングやアイテムの紹介、トレイルラン、イベントまでさまざまな情報をお届けする。
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