【ランスタトレラン部 Season2】UTMF挑戦記録vol.01 ゆい編 ~待っていてくれる人がいたから頑張れた、140㎞の過酷な旅~
RUNNING style 編集部
- 2019年06月05日
都内某所にランナーが集まっていた、会議室でなんとなくよそよそしい雰囲気。
「はじめまして、私の名前は……」
ランスタトレラン部が結成された2017年春のこと。まだトレランレースの“ショートの部”にしか出たことがないような初々しいメンバーが2年間の活動を経て、日に日に成長し、切磋琢磨して、団結力と絆を深めてきた。
これが、本当に、最後のチャレンジ。夢の100マイルレース、UTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)に挑むことになった。どのメンバーにとっても、想像もつかない未知の距離100マイル。緊張と不安、高まる気持ちを抱えて、日本最高峰「富士山」へ向かった。
Text : Emma Nakajima
Photo : Takashi Ueda
メンバーからのサプライズムービーに心打たれた前夜
レース前日、16時に受付会場へ着くと、多くの選手が集まっていて熱気にあふれていた。夜ご飯はほうとう。昨年のSTY(UTMFの約半分の距離を走るレース)前日にも食べたお決まりの食事。宿はトレラン部のみんなでコテージ泊。
「みんな、ちょっと集まって〜!」
部長・エマさんの呼びかけでリビングに集まると、スマホから映像が流れ始めた。次々と流れる思い出の写真。メンバーのもりもりが忙しい仕事の合間をぬってサプライズで用意してくれていたらしい。みんなが応援してくれている。頑張ろう!と強く誓って眠りについた。
緊張の朝、雨から始まった100マイルの旅
朝、まだ起きる時間じゃないはずなのに、何度も目が覚めた。すごく緊張していたんだと思う。スタート会場に向かう車の窓の外は雨が降っていた。会場でサポートメンバーと合流して、緊張が和らいだ。
12:00、スタートの号砲とともに走り始めた。
前半は抑える作戦。粟倉までは脚を使わないように、呼吸が上がらないように意識して、できるだけゆっくりと進む。粟倉を出ると何度か渋滞に引っかかった。でもそんなときは、補給タイム。大福を頬張った。
富士宮エイドから次のエイドまでは28km。難所、天子山塊が待ち構えている! 持っていた空のフラスクに水を追加してザックに詰めようと荷物を抱えていると……トレラン界のレジェンド・鏑木さんが登場! なんと、ザックに詰めるのを手伝ってもらえるという奇跡! うれしくて、幸せいっぱいでエイドを出た。
深い霧と壮絶な泥下り、転んで叫んで、必死でみんなのもとへ
天子ケ岳の登りで知り合いに会い、おしゃべりをしながら登ったことであっという間に山頂に着いた。日が暮れると、次第に霧が濃くなり、ヘッドライトの光が反射して前がよく見えない。ライトをお腹に付け替えて、手にはハンドライト。どうにか熊森までの登りを攻略できた。
やっと登りが終わったかと思ったら、下りはその比にならないくらい大変だった! 雨でドロドロになったトレイルはまるで滑り台。周りの選手もみんなツルツル滑って転び、叫び声があちらこちらで響くなか、転げ回って下山した。もうすぐみんなに会える! ワクワクしながら長いロードを駆け抜けた。
機転のきいたエイドワーク、パワーを充填して次のセクションへ
A2麓はサポートエイド。この2年でランスタトレラン部のサポート力はものすごく高くなった。昨年のSTYよりもさらに気の効いたエイドワーク。飲み物や補給食の入れ替え、着替え、ライトの交換、次の区間の説明。事前にお願いしていた以上のことをテキパキとやってくれた。そのおかげで効率よくエイドワークを終えて出発した。まだまだ元気!
調子は十分、竜ケ岳までの走れるところは走って、なんだかあっという間にひと山終えていた。本栖湖エイドでは、体が冷えて寒くて、足早にエイドを後にした。登りはゆっくり、下りは足早に。まだ薄暗くてちょっと不気味な樹海を前後の選手と共に走り、苦手な夜パートを一生懸命走った。
富士五湖ウルトラを思い出しながら、走れるセクションで迎えた朝
A4精進湖に着くと、応援に来ていた両親に会えた。ランスタのロードチーム、チームサッカニーのメンバーも駆けつけてくれた。
精進湖から勝山までの始めのロードは富士五湖ウルトラと同じコース。昨年のSTYでも通っていておなじみの場所。昨年は歩いてしまった区間だけど、今年は走ることができた。紅葉台の登りに入ると、次第に明るくなり、朝を迎えた。昨年はまだ暗い時間だったから、まるで景色が違って見えた。STYならもうすぐゴールだったんだよなぁ、と記憶を辿りながら勝山エイドへ向かった。
やがて日が昇り、エイドで凍えることもなくなった。暖かいエイドでウエアを着替えて、歯磨きでリフレッシュ。ここまで突っ走ってきたけど、ちょっとゆっくり過ごす。相変わらずテキパキこなしてくれるサポートメンバー。身の回りのことは自分でやりたい性分だったけど、この時はもう、全部任せて、自分はリラックスして周りと話したりしながら過ごした。
「このパートは頑張ったほうがいい、きっと得意だから」
勝山から忍野のロードサイドを走りながら、マネージャー・にのちゃんから言われた言葉が頭のなかをぐるぐるしていた。エイドを出るとき、「このパートは頑張ったほうがいい、ゆいさんの得意なパートだから」と声をかけてくれた。この言葉を何度も思い出しながら走って、走って、走って、確かに得意なロードを、前に前に進んだ。山もあったけれど、忍野まで頑張ろう! とエイドまで走り抜いた。
装備チェックで泣き崩れる人……でも、この必携品が思わぬ鍵に
A6忍野に到着すると、エイドに入る前に必携品のチェックがあった。
・レインウエア上下
・詳細地図
・ライト2個とそれぞれの予備電池
・携帯電話(残りの充電が20%以上あること)
・サバイバルブランケット
無事に通過した私の隣では、泣き崩れている人がいた。ここで必携品チェックを通らなければ先には進めない。レースがここで終わってしまうということ。レース後に思ったこと。それは、この必携品が本当に、本当に、大切だということ。この後、わたしはこの必携品に命拾いすることになるとはこの時は思いもしなかった。
忍野を出ると、前の区間で調子に乗りすぎたのか、急に脚が重くなってきた。なかなか走り出せなくて、とぼとぼ歩いていると、ロード脇で応援しているメンバーを発見!「走ればシュウさんに追いつくよ!」と喝を入れてもらい、再び走り始めた。
でも、やっぱり、すぐに歩き始めてしまって、太平山までの登りがすごく長かった。山を降りると急に雨脚が強まり、エイドに着く頃には大粒の雨になり、体温が下がっていくのがわかった。
少しでも走らないとー。
走りたいのに、走れない。こんな足で最後まで行けるのかな。杓子を登れるのかな。もう、不安しかなかった。
みんなに会って涙があふれる、「もう走れないよ」
山中湖のエイドに入ると、最初にちゃんぷさんが見えた。顔を見たら涙が出てきた。脚が動かないという私を、もりもりちゃんが優しくニューハレブースへ案内してくれた。
「もう足が動かなくて。完走できなかったらどうしよう……」
弱音を吐くわたし。
「脚が冷えているからね。ほらこんなに冷たいから、そりゃ動かないに決まってる」
そう言って芥田さんが冷たくなったわたしの脚を温めてくれて、それから泥をきれいに拭いて、テーピングをしてくれた。それでもまだ、もう走れないというわたしにレインウエア上下を着なさい、と勧めてくれた。濡れたウエアを着替えて、その上からネオシェルのレインウエアを着る。
いままでレースでレインパンツを履いたことがなかったけど、ヘトヘトで思考回路が機能していない私に、みんなが履いたほうがいいと言ってくれたおかげで、本当に命拾いしたと思う。ドライなウエアと暖かいレインで体温が戻ってきた。
山中湖のサポートエリアは屋外で、サポートメンバーはずっと外で雨に濡れて待機してくれていた。寒い雨のなか、どれだけ待ってくれていたんだろう。たくさん食べ物を用意してくれていたけど、疲れ切って何も食べられなかった。みんなの顔を見ているとここにずっといたいという気持ちになり、次の山に行くのも怖くて……。
「エマさんとあっちゃんが近いなら、待ってから一緒に行こうかな……」
次の区間が不安すぎてそんなことも言ってみたけど、もりもりちゃんにここは寒いから長く居ないほうがいいと諭され、きららエイドを出発した。
吹雪の中で知らされた「中止」、永遠に感じた二十曲へのラストラン
山中湖きららの次の山を登っている時に雨が雪となり、みるみるうちに積もっていった。いま思えば、雪が降り始めた時点で引き返せば良かった。でも、25時間走り続けて、疲労困憊。頭が働かず、完走したい思いが強すぎて、辞める判断ができなかった。
標高が上がるにつれて、風も強くなり、吹雪になった。前の人の足跡が、降り積もる雪ですぐに消えてしまうほどだった。足先は雪まみれで感覚がないし、風が強くて止まると一瞬で冷えていく。
脚が痛くてトボトボと歩く事しかできなかったけど、一心不乱に体を動かし続けた。近くで雷の音がしていた。でも、やめようという気持ちにはならなかった。大会がここで終わるとも思っていなかった。
突然、顔を上げた先にいたスタッフの人から
「次の二十曲峠(140㎞地点)でゴールになります」
と告げられる。
わかっているけど、わかっているけど、涙が止まらなかった。
この日のためにたくさん準備してきたし、
ランスタトレラン部の最後のレースだったし、
サポートしてくれたみんなの顔が浮かんでいっぱいになって……、
完走したかった、完走したくて進んでいたから……。
それからの石割山までの道のりは永遠のようだった。体の芯まで冷え切っていて、止まったら死ぬのかなって思うほどだった。
石割山に着いた頃には、さっきまでの吹雪は嘘のように晴れていて、すごくきれいな景色と、富士山を見ることができた。石割山からの下りは、ヒザが痛くて下れなくなり、おしりで滑るようにしてやっとの思いで下山した。
メンバーが迎えにきてくれてくれた。仲間の顔を見た途端、もうずいぶん泣いたはずなのに、また涙があふれて止まらなかった。ぼろ雑巾のようになった私を抱きしめてくれた。この二十曲峠で、私のUTMFは終わった。
長い長い旅。晴れた瞬間もあったけど、ほとんどが雨。体力は常に限界で、すごくすごく疲れていたけど、それでも一度もやめようとは思わなかった。
一人じゃなかったから。待っていてくれた人たちがいたから。
寝ずに期待以上のことをしてくれたサポートメンバーには、感謝してもしきれない。みんなで完走しよう! という気持ちがすごく伝わってきて、強い心で最後まで挑めたことで、自分のすべてを出し切ったと思う。
だから、いまは達成感でいっぱい。
最高なチームで、最高な時間を過ごせたことに感謝したい。
ランスタトレラン部、ありがとう!!!!!!!!!!
ランスタトレラン部
ゆい
▼△ランスタトレラン部の活動の模様はインスタグラムでも更新中△▼
COLUMN
ゆいのUTMF装備メモ
(左上から順に)ロングパンツ、ミッドレイヤー、キャップ、耳まで隠す帽子、グローブ、レインウエア上下、12Lのバックパック、ソフトフラスク、携帯コップ、貼るカイロ、携帯トイレ、お守り、ファーストエイドキット、詳細コースマップ、ナンバーカード、ウオッチ、携帯電話、点滅ライト、ヘッドライト、ハンドライト、それぞれの予備電池
ゆいのお気に入りアイテム
山中湖きららでみんなに促されるようにして着た“ネオシェル”のレインウエア上下。透湿性が高く、動きを妨げないしなやかさが特徴。これまでレースでレインパンツを履いたことがなく、レインジャケットも嵩を気にしてかなり薄いものにしていたというゆい。
「今回、このレインウエア上下にして本当によかったと思います。もっと軽量で薄いものもありますが、吹雪のなかで動き続けなければならないという状況だった今回のレースでこのウエアに助けられました。本当に良かった!」
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