
硬質なマンションの印象を激変。自然の温かみ溢れる住宅に|葉山エリア【北村建築工房】

湘南スタイルmagazine 編集部
- 2021年01月21日
建築のプロと考える、リノベのビフォーアフター。築40年のヴィンテージマンションの一室を購入してフルリノベーションした、老舗建築会社の建築士、天羽太郎さんの自宅。硬質なマンションが、自然の温かみが溢れる住まいとなった。
木の香りが広がるぬくもりのあるリビング
「親世代から受け継ぐ物件も含め、今後も益々リノベーション需要は増えていくはずです」と建築士の天羽さん。自身の自宅も、葉山の山を背にした風致地区に佇む築40年のヴィンテージマンションの一室を購入してフルリノベーションした。
「経済事情やライフスタイルを考えるとこちらのマンションを購入し、リノベーションをするのが最適でした」とこの物件に白羽の矢を立てた。各棟、数世帯ごとにエレベーターがつくなど、竣工当時はかなりの高級マンションとして売り出されており、修繕管理も比較的よくなされていたのが、購入の決め手であったという。
しかし40年前の間取りでは、現在の生活スタイルには馴染まない。「当時は小さくとも各部屋を細かく設け、廊下をきっちりつくるスタイルが主流でした。現代の生活を考えたとき、フルリノベーションが必要だと思いました」。物件購入とリノベーションで、建売の新築と同じような費用感になったというが、その分自分の好みを反映した個性のある間取りを誕生させた。
一歩室内に入ると、木の香りに包まれた感じがする。珪藻土で固められた広い玄関の先には、ウッディーな空間が広がっており、マンションのコンクリート造が持つ硬質な感じとのギャップが面白い。初めてこの家を訪れる方からは、「お~木だね!」と言葉が漏れてしまうとか。
「マンションですけど一戸建ての感覚で暮らせる家作りを目指しました」と天羽さんはこの家にかけた想いを語る。
床を覆う厚さ3㎝の吉野杉の床板を始め、漆喰や珪藻土など天然素材が全面に使われ、本格的な一戸建てにいるかの印象。また持ち物に合わせて造作された大型家具や棚などで収納もスッキリしている。
明るいリビングで自作の椅子やヴィンテージソファに腰掛け、好きな音楽を聴く天羽さん。床板や漆喰の小さな傷は、生活の軌跡や歴史を示しているのであえてそのまま変化を楽しんでいるそう。家主の笑顔とともにこの家には温かく穏やかな時間が流れていく。
BEFORE/リノベーション前
目線の高さに梁や垂れ壁が目立ち、圧迫感を感じる。キッチンは独立してあり、昼間ですら電気が必要なほど暗かった。リビング側には2つの個室があるが壁と扉で仕切られているため開放感はなく、キッチンやダイニングとの一体感も薄かった。各部屋とも窓がなく壁に囲まれているため昼間でも灯りがないと暗く、通気性も悪かった。
スケルトンにした際のリビングからの眺望。採光面としては良かったが、せっかくの陽射しが一部の空間に留まり、あまり活用されていなかった。また当初のサッシガラスは単板であったため断熱機能が弱く、結露することが多かったという。
暗く狭いイメージの玄関。マンション特有の硬質で冷たい印象が拭えない。玄関から続く廊下も同様に暗く、各部屋のドアが雑然と並んでいる状態だった。
AFTER/リノベーション後
リビングに繋がっていた2つの個室辺りには、小上がりの畳コーナーを設け、空間にリズムを演出。ちょうどいい高さでダイニングの椅子の高さとも合わせてあり、小上がりに腰掛けてテーブルの人とも違和感なく会話ができる。また襖で仕切ることもでき寝室としても活用可。天井には杉板が貼ってあるので、寝そべって眺めるのもいい。
畳コーナーの下には引き出しを作り、大型の収納スペースとして活用。
高校時代から集めたという膨大なCDコレクションに合わせて棚を設計。魅せる収納スペースでもあり使い勝手も良い。
親子で並んで座って勉強や仕事ができる造りつけの一枚机。机や床に使われている吉野杉は奈良のもので、トレーサビリティのしっかりとした木材を使うことで、山や林業への還元にも繋がる。
マンションという限られた空間での間取りを考えた際、可変性を大事にしたかったということで、こちらの可動式の棚で大きな部屋を2つに区切っている。
玄関からリビングへの動線上に有孔ボードを配置。以前は家族の連絡事項を記すためにこの上に黒板を設置していた。
ダイニングテーブルやイスは天羽さん自身が製作したもの。カウンターには雑誌のラックもあり、まるでカフェのよう。
キッチンにおいても目についていいものはしっかりとディスプレイ。逆に見せたくないものは引き出しにしまうなどして、収納のメリハリを心掛けている。
スペースの限られているマンションのリノベーションでは、持ち物のうち必要なものを決め、どこに何を置くかを考えてから設計すべき。メインの棚はスピーカーから家族アルバムの高さに到るまで詳細に計算した。モノがあるべき場所に適切な収納スペースを設けることで部屋は散らかることはない。スッキリとした空間での生活は居心地がいいのだ。
従来の狭い玄関を拡張。土間は珪藻土で仕上げたことで、温かい印象へと様変わり。
リビングを見渡せるカウンターキッチン。防音のためスラブ上に10㎝ほどのおき床がしてあるので、その間に水道管や排水管を通し、水周りもある程度自由に動かせた。
玄関が暗くならないよう隣の和室上部に窓を開け、リビングからの光を回した。
単調になりがちな廊下も本棚を設けることで変化をつけている。
北村建築工房
天羽太郎さん
間もなく創立100周年を迎える老舗建築会社の建築士。東京・原宿出身ながら飛騨高山そして葉山へと自然豊かな地での生活を送っている。葉山に移住した当初は賃貸住まいだったが自社ブランド「KINARI:BOX」を実践すべく、自らもマンションを購入しフルリノベーション。
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- BRAND :
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- CREDIT :
- Photo/Y.Ozawa Text/T.Tsuchiya
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PROFILE

湘南スタイルmagazine 編集部
1998年創刊の湘南を代表するメディア。湘南エリアに住む人と住んでみたい人に向けて、湘南オリジナルのライフスタイルと暮らしを充実させるテクニックを訴求し続ける。
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