自転車道ネットワークで鉄道網をカバー、パリで愛好家の計画を実行へ【 #RideSolo】
山崎健一
- 2020年05月23日
INDEX
フランス、パリでいま、郊外線鉄道網(RER)に沿った形の自転車ネットワークが構築され始めている。
「3密の電車通勤を避けるために、自転車ネットワークを急遽作るなんて、フランスの政治家はすごい!」と言いたいところだが、世の中それほど簡単ではない。じつはコロナウイルスが蔓延するずっと前から自転車愛好家たちが進めていた綿密な計画に、このタイミングで予算が付き、前倒しで実行されたのだ。では、どんな計画だったのか? UCI公式選手代理人山崎健一さんが紹介していく。
パリ地域圏で「(RER-V)自転車版高速鉄道網」計画が始動!
総距離650km&総予算は600億円!
Collectif Vélo Île-de-Franceより
https://rerv.fr/
1995年の大規模ストライキで急増したのちも年々膨れ上がる自転車通勤者人口を賄うため、当時30km程度だった自転車道路ネットワークを約800kmにまで着々と伸ばして来たパリ都市圏(パリ+周辺三県=東京23区程度の面積)
参照:なぜパリにはサイクリストが多いのか? きっかけは1995年の交通マヒ
これで十分か⁉ と思われたパリ都市圏自転車ネットワーク網ですが、ポスト・コロナでのサイクリスト再急増を見据え、パリ都市圏を含む8県から成るイル=ド=フランス地域圏全土に、自転車ネットワーク「RER-V(エール・ウー・エール・ヴェ)」を整備するプロジェクトがあれよあれよという間に始動。この地域圏はフランス全人口の18%にあたる1,170万人が居住する、正にフランスの中心地。日本に例えた場合、面積だけで云えば一都三県に相当します。
パリ、イル=ド=フランス、東京23区、一都3県の面積、人口、人口密度
地域 | 面積(k㎡) | 人口(約) | 人口密度(約) |
パリ都市圏(パリ+周辺三県) | 763k㎡ | 670万人 | 8,780人k㎡ |
イル=ド=フランス地域圏 (パリ都市圏を含む8県) |
12,012k㎡ | 1,170万人 | 1,000人k㎡ |
東京23区 | 627k㎡ | 970万人 | 15,428人k㎡ |
一都三県 (東京都+神奈川、埼玉県、千葉県) |
13,563k㎡ | 3,680万人 | 2,700人k㎡ |
RER-Vのあだ名はズバリ「コロナ・ピスト」(=コロナのレーン)
PHOTO:aris en selleより
通称「コロナ・ピスト」(=コロナのレーン)というのは日本的にはかなりNG臭漂う通称ですが(汗)、その単刀直入さがフランスらしい。では、その内容を見ていきましょう。
コロナ・ピスト、じゃなくて「RER-V」の基本スペック
-イル=ド=フランス地域圏(パリとその周辺を含む8県)に張り巡らされる自転車道ネットワーク。
-ネットワーク総距離は約650㎞(対面2車線)
-総工費約600億円=5億ユーロ(イル=ド=フランス地域圏がうち400億円/3億ユーロ出費)
-総距離の45%分は既存の自転車道を活用。
-9本のメインロード(A、B、C、D、E)から成る。元祖電車版「RER」を踏襲。
4つのスローガン:
- 1 スムーズ:橋や交差点に止められることなく、スムーズに走れる。
- 2 広い道:広い道幅を確保するため、仲間と一緒に走りやすい上に、追い越しなども簡単。
- 3 効率性:判り易い自転車用案内看板により、安全かつ直感的に走れて、効率の良い移動を実現。
- 4 安全性:車に脅かされずに走れるため、初心者サイクリストにも安心。
超難関発音の「RER」は郊外線鉄道ネットワーク
これがRER PHOTO:CRT IDF/Tripelon-Jarry
さて、蛇足にはなりますが・・・この「RER-V(エール・ウー・エール・ヴェ)」という名称、日本人がフランス語を覚える際に最も発音に手こずるとされる3字「R=エール」と「E=ウ」と「V=ヴェ」が含まれる最低最悪なもの(笑)。
しかしフランス人にとっては、この4字ですぐに意味と狙いが分かる絶妙な名称。その理由は、「RER」とはパリ地域圏での生活に欠かすことが出来ない郊外線鉄道ネットワークの名称で、「V」は自転車のVélo(ヴェロ)の略だからです。
この名称のとおり、「RER-V」のネットワーク網は、本家電車版「RER」の主要路線(AからE)に沿って引かれています。
東京で言うところの、JR中央線、総武線、京浜東北線沿いにそのまんま自転車網が出来るようなものでしょうか。RERにはすでに自転車を乗せることが出来るので、RER-Vで走って疲れたので、途中からRERに乗りかえる!なんて、ムフフな使い方もできそうです。
自転車版 RER-V
元祖電車版RERマップ
自転車愛好家たちの民意が動かしたRER-V計画
2019年6月に行われた、イル=ド=フランス地域圏自転車協会スタッフたちによる、政府への提案向け作戦会議。(RER-V公式からの写真)https://velo-iledefrance.fr/
さてこのRER-V計画、もともと政府が主導したものではなく熱意あるサイクリストたちが巧妙に立ち回った上、コロナ禍というある意味「棚ぼた」的なご時世のおかけで達成出来たという経緯があります。
サイクリストならば誰もが望むRER-V的な大規模パリ自転車道路ネットワーク待望論は、数十年前から存在していました。しかし一番の問題は約600億円(5億ユーロ)の予算をどうするか?に尽きるため、行政&政治家を頼るしかないのがこの手の計画の宿命。
実際、2019年1月にイル=ド=フランス地域圏内自転車協会37支部スタッフ達(以下、RER-V起案グループ)がRER-V計画素案を発表した際も、みな「良い計画だけど、予算はどうする!?」という懐疑の目。
そこでRER-V起案者グループが狙いを定めたのが、2020年3月のパリ市長選挙(コロナ禍で延期)&2021年のフランス県議会選挙でした。
イル=ド=フランス地域圏議会(写真は議会オフィシャルホームページから)
早速RER-V起案者グループは2019年3月開催の地域圏議会に対し「約4,000人の会員を持つ我々は、計画中のRER-Vを推進してくれる政治家を次回の選挙で推す」と表明。別の言い方をすれば、政治家にとってはRER-Vを支持するならば、4,000もの票が貰えるかも!?というわかりやすい提案。
2021年の県議会選挙を優位に進めたい地域圏知事&圏内県議員たちも「素晴らしい計画だ!ワッショイワッショイ!」と、まずは口だけで賛成を表明。しかし予算に関しては、まだ決め手と云える確約が貰えずじまい。
そこに現れたのが「コロナ禍」でした。
2020年4月21日、イル=ド=フランス地域圏議会は「RER-Vには賛成だが予算はまた別の話」という長らくのうやむやスタンスを一気に変え、正式に上限約400億円(3億ユーロ)の即時拠出を発表。民意、議会戦略、タイミングが見事にハマったサイクリストたちの大勝利となりました。
必要予算である600億円(5億ユーロ)を賄うには更に国からの拠出金が必要ですが、盛り上がりを見せる民意に対し、政府は「ノン」と言いにくいのではないでしょうか?
RER-Vの工事がすでに開始されています。
「RER-V」オフィシャルWEBサイト
https://rerv.fr/
編集部では“RideSolo”(ライドソロ)をお薦めします
世界中で「ロックアウト(都市封鎖)していない自転車に乗れる国や地域」では、社会的距離をとるために「一人で走る“#RideSolo”(ライドソロ)」が、感染拡大を防ぎつつ健康的に欠かせない運動として自転車に乗る上でキーワードとなる。
外出自粛ながらも日常の健康維持として自転車に乗れることは奇跡的な状況といえる。海外ではサイクリングすらも許されない厳しい事態にまで追い込まれているが、もちろんこうした強制は望ましい状況ではないし、避けないといけない。
この先、各国、地域ごとの事情。そして刻一刻と変化すると状況は変化する。さらにそれぞれ置かれた立場が異なるのでこの“ライドソロ”がいつまでベターな方法かはわからない。今現在(5月14日)、編集部では感染が広がりつつつある地域でできることは、集団ではなく、一人で安全に自転車に乗ることだと考えている。
ただし、これは自主的なもので、決して他人に強要したり非難するものではない。あくまでも安全で、健康的に自分たちが走り続けられる環境を維持するために、自分たちができる行動をしようというものだ。
最後に、基本は健康で安全であること。住んでいる国や地域の自治体からの要請、指示に従うことが前提であることをあらかじめ付け加えさせていただきたい。編集部でもひきつづき#RideSoloをキーワードにヒントとなる情報をアップデートしていく。
※新型コロナウイルス(COVID-19)に関する最新情報は 厚生労働省 や 首相官邸、お住まいの各自治体など公的機関の情報でお確かめください。
参照
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html
- BRAND :
- Bicycle Club
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