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なぜパリにはサイクリストが多いのか? きっかけは1995年の交通マヒ

ツール・ド・フランスではフランスの首都、パリを颯爽と選手たちが駆け抜けるイメージがある。では、パリで自転車政策が進んでいるのはなぜか? 「それは恐らくフランス人が自転車好きだからだとは限りません」というのはパリに住み、大学に通っていたUCI公式選手代理人山崎健一さん。パリは脆弱な都市交通機能を運営するために、自転車に頼らないと回していけない事情があったのだ。その歴史をみていこう。

※トップの写真はツール・ド・フランスの最終日にパリを走るペロトン A.S.O./Alex BROADWAY

3週間も公共交通機関がストライキ⁉ それが自転車通勤のはじまり

これはコロナウイルス蔓延からの経済活動再開で、パリの道路に新たに追加された自転車レーン

今から30年ほど前の1991年、人口210万人程度のパリにて一日に自転車が移動に使われていた回数はたったの2万5千回程度。これは当時の政府が金の成る木であった自動車産業を最優先し、あまり自転車に興味が無かった事が背景にあります。それが2010年代後半には10倍以上の約25万回まで大成長。この爆発的なサイクリスト増加のきっかけは、1995年の冬に公務員年金制度改革法案への反対運動として起こった、3週間にも及ぶ大規模ストライキ(以下スト)。フランス全土で実に200万人あまりがデモに参加し、スト中は公共交通機関が完全に麻痺するという歴史に残る大事件となりました。フランスのストが日本のそれと違って怖いのは、電車やバスの本数が減るとか、直前でストが回避されるとかではなく『本当に止まる』点。

結果として、パリの人々は徒歩か自転車での移動を余儀なくされました。

ちなみにスト以前からも、パリ市民は交通インフラの体たらくに呆れかえっていました。中世から続く街なので、自動車インフラ構築にはそもそも向かず、慢性的に渋滞が起こる。100年以上前に開業した地下鉄(メトロ)も、古い上に継ぎはぎ的に駅を増やしたため、大地下迷宮の様な複雑さ。それに加えて電車もトラブルで良く止まるし、時間通りになんて来やしない。このように自転車需要が増加する下地は既にあったのです。

1995年のストライキでは自転車利用者が30%増加し、対策へ

さて、今では約800㎞にも及ぶ自転車専用レーン等を持つパリ都市圏の姿からは想像し難いのですが、1995年大規模スト時点で同地域にあった自転車専用路の総距離数は30㎞にも満たず。ストの影響で一気に30%も増えた自転車通勤者数が一時的ならば、それも特に問題にならなかったのでしょうが、元々公共交通機関や自動車移動にうんざりしていたパリの人々は、スト後も自転車通勤を継続。その結果、パリには増加した自転車通勤者を許容しきれるほど道路キャパがないことが露呈しました。

<1995年からのパリ市内自転車用道路整備推移(km)>

凡例
青:車道脇の自転車専用通行帯
オレンジ:自転車専用通行道路/レーン
緑:車道脇の自転車専用“逆走許可”通行帯
赤:パス自転車共有レーン
紫:その他
茶色:公園や森の中の自転車道路
パリ市資料より

そこで同時期にパリ市長から大統領となったジャック・シラクの空席を得た地味なジャン・チベリ市長が、一気に政治的手柄を挙げるべく1996年1月に打ち出したのが、パリを自転車の街に生まれ変わらせるという「自転車計画(プラン・ヴェロ)」。

対策内容まとめると:

「パリの主要道路に自転車レーン設置」
「バス自転車共有レーン設置」
「駐輪場の増加」
「自転車用交通指示パネル設置」
等となります。

この計画はチベリの後任市長たちもガッツリと受け継ぎ、1996年から現在までにパリ圏の自転車専用レーン&距離は、前述の通り約30㎞から約800㎞にまで増加。市民からの好感触に後押しされたアンヌ・イダルゴ現パリ市長は「1,400㎞にまで増やす!」と息巻いています。この様に大成功を収めている『自転車計画』ですが、行政側の狙いは何も自転車は健康にいいから!Co2 削減に役立つから!という事だけでは無いようです。

1995年暮れの大規模ストはクリスマス前の繁忙期に人々の往来を止めたため、予想を上回る経済的大打撃をフランスに与えました。特に大企業本社を数多く擁するパリが受けた経済的打撃は甚大。1994年度のフランス国内総生産GDP成長率は2.4%でしたが、3週間のストがあった1995年度は2.1%に下落し、更に翌年度は1.4%まで落ち込みました。GDP成長率の鈍化は、企業の雇用意欲にブレーキをかけて失業率を増加させ、特にパリの様な移民の多い大都市の治安を著しく悪化させます。治安の悪化は、フランスのGDPの約10%を占める観光業にも大打撃を与え、更に失業率を増やします。

元々ストライキがよく起こるフランスですが、それが不味いタイミングに少々長めに起こった場合、甚大な経済的な損失を被ると云う「アキレス腱」が露呈したわけです。よって、この「自転車計画」とはどんな状況下でも経済活動を維持するための最終手段的性質も持つわけです。

政治的にも利用された自転車計画

なんか綺麗な話ばかりで、大事なことを書き忘れました。

この「自転車計画」は数々の道路工事が必要で、利権が絡みやすい公共工事を生み出す美味しい?案件。更にジャン・チベリ氏は、選挙時の票買収などの汚職疑惑でも有名な方。このように様々な“政治的からくり”がありそうな「自転車計画」ではありますが、確実に言えるのは、本計画が経済の促進に役立っているという事。

<2020年5月時点のパリ自転車ネットワーク>

凡例
赤線:「コロナ禍」前から存在した自転車レーン
黄色:「コロナ禍」直後に急遽設置の自転車レーン(30㎞分)
グレー線:「コロナ禍」後の自転車増加を鑑みて、今夏までに設置計画がある自転車レーン(夏以降の措置は未定) https://velo-iledefrance.fr/ より

「ポストコロナ」の世界では、公共交通機関が敬遠されて人々の往来が減り、経済の停滞が予想されていますが、経緯はどうであれ既にパリはこのような緊急事態に向けての保険をかけていたようです。

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PROFILE

山崎健一

Bicycle Club / UCI公認選手代理人

山崎健一

UCI公認選手代理人&エキップアサダマネージャー。日本人選手の育成に尽力し、プロ選手からの人望も厚い。バイシクルクラブ本誌では連載「フ●ッキンジャップくらいわかるよ、コノヤロウっ!」を担当。

山崎健一の記事一覧

UCI公認選手代理人&エキップアサダマネージャー。日本人選手の育成に尽力し、プロ選手からの人望も厚い。バイシクルクラブ本誌では連載「フ●ッキンジャップくらいわかるよ、コノヤロウっ!」を担当。

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