ヨーロッパで再開した自転車レースで落車が増える! その背景にコロナの影響
山崎健一
- 2020年08月07日
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再開された2020年シーズンにおける、UCIワールドツアー(WT)レース最初のステージレース「ツール・ド・ポローニュ(8月5日~9日/ポーランド)」。
既に多くの報道にある様に、その第1ステージ集団スプリントでのディラン・フルーネウェーヘン選手(オランダ/チーム・ユンボ・ヴィスマ)による斜行で、後続から捲りに入ったファビオ・ヤコブセン選手(オランダ/ドゥクーニンク・クイックステップ)がフェンスに追いやられて大落車。その後は急遽ドクターヘリで病院に搬送され、一時は生死をさまよう状態に陥りましたが、現在(搬送から24時間後)は安定した状態になった。
じつは、コロナ禍を経てのロードレースの再開では、こうした落車が増えるのではないか? という声があったのだという。ここでは落車の背景をUCI(国際自転車連合)公認代理人の山崎健一さんが解説する。
再開後初のUCIワールドツアーレース集団スプリントで大惨事
当然原因となったフルーネウェーヘン選手の過失は明白で、先頭でゴールに飛び込んだものの既に失格処分となり、優勝は入院中のヤコブセン選手に。
被害を受けたヤコブセンのチーム代表であるパトリック・ルフェーブル氏は「フルーネウェーフェンがやった事は殺人行為。法廷に持ち込む!」と息巻いてはいるものの・・・まぁ私が言ってはなんですが・・スプリント中の選手の興奮状態というのは常識では考えられないほどになっており、残念ながら様々なやり過ぎ行為が起こるもの。そして流石にフルーネウェーフェンが悪意を持ってワザとやったなんて思っている関係者もおらず、事件から時間が経つに従って少々冷静に事態が見つめられ始めています。
下りスプリントゴールのレイアウトが危険!問題
まず関係者が問題視しているのは、事故の舞台となったステージゴールが若干の下り坂だった点。このゴールレイアウトは例年使用されてきましたが、毎回ゴールスプリント時の時速が80km/h近くにまで達するため、以前から危険さを指摘する声が上がっていました。
そして、ゴール数百メートル程度前から設置されているコース脇フェンスの“パッド(緩衝材)“が、そもそも近代ロードレースの80km/hにも達する超高速スプリント事故に対応出来ていないのではないか?という異論も上がっています。
多くの選手はこの事件後にSNSやインタビューにて「CPA=プロサイクリスト協会は選手を守るために、UCIやレース主催者に対してコースレイアウトの安全性の確保を約束させていくべきだ」と声を上げ始めています。
かつて一時代を築いた元世界的ロードスプリンター、ロビー・マキュアン(豪州)は、「UCIは選手の靴下の長さをチェックする時間があったら、コース安全性の確保を優先して欲しい」とまでコメント。
本議論は明確な解決策が導き出されるまで長引きそうです。
選手たちの焦り&コンディションのバラツキ問題
ストラーデ・ビアンケでは、選手のコンディションが分かれる結果となった。PHOTO: LaPresse – D’Alberto / Ferrari
シーズン再開前の欧州レース関係者が、みな口を揃えて懸念していたのは「レース再開直後のレースは危険」でした。
選手の焦り
2012年の世界チャンプで問答無用の名選手であるベルギーのフィリップ・ジルベールは、「今年は全てのレースが“今シーズン最後のレース“という意気込みで臨む。(コロナ禍の関係で)いつ再びシーズンが中断されてもおかしくないからね。」「今は何が起こってもおかしくない時期だ。様々な職業(例:映画館等)が活動のストップを余儀なくされている最中だし、自転車競技が生活に必要不可欠な活動だとは思えないからね」
正にジルベールのコメントが代弁している様に、選手やチーム、メディア関係者の多くが、再開後の今シーズンレースが、最後まで開催されない可能性もある事を感じ取っています。
結果として、一つ一つのレースに対する選手の“ハングリー“さが例年に比べても際立っている傾向が確実にあるかと思います。
そして奇しくも、今回の「ツール・ド・ポローニュ」第1ステージに於ける大落車は、レースカレンダー再開後“初”のUCIワールドツアーレースに於ける集団スプリント。
選手の焦りと、主催者側に課されたコロナ禍に於ける膨大な予防対策措置などが本事故と無関係だったとは到底思えません。
選手コンディションのばらつき
UCIワールドツアー再開初戦レース、「ストラーデ・ビアンケ(8月1日)」の選手ゴールタイム差を見てびっくりしたんですが、トップ25位ぐらいまでのタイム差がバラバラで小集団にもなっていない上、例年は1位と30位選手のタイム差はせいぜい10分程度なのに、2020年のそれは約20分。その他の同時期レースリザルトは詳細には比較できていないのですが・・接戦が少ない気が・・・
恐らく今シーズンは国や地域のコロナ対策方針によってトレーニング環境が異なり、選手毎のコンディションに相当バラつきがあるのではないでしょうか?
仮にそうだった場合、「ストラーデ・ビアンケ」や、山岳ゴールの様にコースレイアウトが厳しくて集団が破壊される“セレクション場面の多い”レースは良いのですが、平たん気味で脚の出来ていない選手でも終盤まで残りやすいレースでは、ゴール前での危険度が増すのでは?と心配しています。
シーズンが無事完走できることを切に祈ります
そんなこんなで、個人的にはコロナ禍の影響によるコース変更で、獲得標高が2059mから2728mに増した「ミラノ~サンレモ(8月8日開催)」にはホッとしています。これで例年よりも更に脚のある選手のみが終盤までの残り、危険度が多少は減るのでは!?(甘い!?)
なにはともあれ、今回の「ツール・ド・ポローニュ」の事故を境に、長期的には選手の安全性確保に向けた取り組みの議論が更に本格化するでしょう。
とはいえ、短期的見ると、今年はUCIからレース主催者に課されたコロナ感染予防対策が膨大過ぎて、正直なところ各主催者も人的・予算的余裕があるとは思えず、即効性のある対策がなされるか?というと少々不安が残ります。
とにもかくにも、現状の浮ついた雰囲気が原因で再度大事故が起こらない事をひたすら願っています。
そして本件、何も世界のプロ選手のみに言える事ではなく、我々が出場する日本おけるアマチュアレースやファンライド、それこそサイクリングでも全く同じ事。我々もコロナ禍の外出制限で鈍った身体を、労わりながら恐る恐る自転車活動を再開して参りましょう!
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