川を渡る自転車レースにはシュノーケルが必要!?|竹下佳映のグラベルの世界
竹下佳映
- 2021年12月04日
うまく足場が取れずモタモタしてたらすでに反対側にいたグレッグが手を貸しに戻ってきてくれました。バイクを彼に渡して、さて歩き切るだけ、というところで、黒くて細くてぬるぬるしている正体不明の何かが、右足の親指に巻き付いている!? 「うわあああああああぁぁぁぁぁ、何これ~~~~!! 離れろ~~~!」 もたついていたのが嘘のように一瞬で川を渡りました。虫とか生き物は平気なのですが、これに関しては何なのかすらわからず、ビックリしました。
川を渡ったと思ったら、次は蚊との格闘
対岸で靴下を履き直してると、蚊が次々に出現してきます。
人間の血液が吸える「蚊にとってのビュッフェ」に、渓谷に生息する蚊が全員集合といったところでしょうか。セットアップによれば後半の半分くらいは乗れるかもしれないですが、今回私とグレッグはグラベルロード装備だったため、自転車を押したり、担いだり、引きずりながらの5km程ハイキングとなりました。
身に着ける衣類は事前に全て虫除け処理して、肌にも虫除けローションをたっぷり塗っていましたが、そうでなかったら何百匹にも刺されていた勢いです。やられたのは十数カ所で済みましたが、どんなに振り払ってもぷ~んぷ~んとうるさいです。また少し迷子になりかけましたが、蚊地獄からやっとの思いで抜け出しました。
出口には、他のライダーのサポートをしていた地元のリサが笑顔で手を振っていました。衛星追跡サイトで、私たちが蚊の渓谷にいることを知っていたようです。クッキーや水を出してくれたので、喜んでもらいました。次にいったん小休憩と決めていた場所までは50km弱。よし、張り切っていきましょう!
森から出て視界が開け、乾いたグラベルロードが目の前にありました。これは久し振りにスピードが出せそう、と思って喜んだのも束の間、100メートルも進むことなく間違いだと気付きました。地面は「細い」43cタイヤには柔らかすぎる乾いたフワフワの砂でした。くねくねタイヤ跡を残しながらまたしてもスロー走行となりました。
砂がおさまってくると、前方には綺麗でとても広い未舗装路が広がっていました。
クルマが5台横並びでも余裕な位の幅です。気分も調子もかなり良く、見る限り長い緩やかな上り坂を今度こそスピードアップして駆け上がろうと思ったら……またしても!? だまされた感が半端ありません。
滑らかに続くように見えた地面は、実際にはまるで洗濯板のように波打っていて、それが何kmも何kmも続いていました。「波打ち」は道の両端にまで達していて、ライン選択のチョイスもありません。ペダルを強く踏み込む度に後方に跳ね返されてしまう感じで、それでもしばらく頑張っていましたが、勝ち目がないとわかり、悪あがきはやめてソフトに走ることにしました。4輪バギーを2台見かけましたが、日曜日なのにそれ以外は誰も通らず、とっても静かな道でした。
いい加減疲れてきた身体には大歓迎の舗装路が登場です。しかし全然次の目的地にたどり着きません。もうすぐそこだ、と思うたびに裏切られる状況で若干イラついてきたところ、グレッグがあと11km強と教えてくれました。そしてその11kmの長いこと! 右に曲がって上って、左に曲がって上って、何度も何度も曲がって、上って上って上っての繰り返し。「えっ、何なのこれ。これは山なの? 山なんてあったっけ? どこまで上ったら終わるの?」そして、またもや表面が深い柔らかい砂に変わりました。空回って乗れないところも出てきて、心の中では悲鳴を上げていました。
とても高い木々が、両脇からドームのように生い茂る1.5kmくらいの区間で、大きなフクロウが木から木へそして別の木へと私の進行方向に沿って飛んでいくのを見ました。翼を拡げたフクロウの大きさにびっくり、とても印象に残る瞬間でした。
あまりのコースの激しさに手も足もボロボロ
スレッシュホールド値(FTP)もなく、基本的には心拍ゾーン1と2をずっと走っていたので、身体へのストレスに関して言えば大したことなく長い間結構余裕だな、と特に前半は思ってはいましたが、長時間走行による睡眠不足、絶え間なく筋肉と関節を襲う振動・衝撃はまぎれもなく本物で、この頃には余裕なんてこれっぽっちも感じられなかったです。
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PROFILE
札幌出身、現在は米国シカゴ都市部に在住。2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に引かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。5年間グラベルチーム選手として活躍し、2022年からはプライベーターとしてソロ活動。ここしばらく飛んでいないが飛行機乗り。