ポガチャル、ワウト、ヴィンゲゴー……ツール&五輪はドリームマッチに!|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2023年12月30日
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vol.69 グラングールやパリ五輪へ、ビッグネームが続々と参戦を表明。2024年はビッグイヤー間違いなし
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。来る2024年シーズンへ向けて、ビッグネームたちがいよいよその方針を示し始めた。次々と明らかになる各選手の目標レース。その多くはやはり、ツール・ド・フランスとパリ五輪。2024年のロードレースシーンは、かつてない熱い1年となるのは間違いなさそうだ。
26年ぶりの“ダブルツール”を目指すポガチャル
徐々に明らかになっていく注目選手たちの動向の中でも、ビッグトピックとして扱われるのがタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)の「ジロ&ツール参戦」だ。
チームキャンプを行っていたスペインで12月18日に行った記者会見では、ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、ロード世界選手権にフォーカスしていくことを表明。ここ2年、頂点に届かずにいるツールでの復権はもちろんだが、新たなチャレンジとしてジロへと乗り込む。ジロ開催地イタリアは彼の母国スロベニアの隣であり、これまでのキャリアを見てもイタリアとの接点は強い。「いずれジロにも……」との思いを語ったことがあったが、ついにそれが実現する。
ジロの主催者RCSスポルトが製作した動画では、空港へポガチャルを迎えに行く演出で大会への歓迎を示している。1998年のマルコ・パンターニ以来となるジロとツールの2冠なるか、世界中がその戦いを見守ることになる。
ただ、あくまでも最大目標はツール。直後に控えるパリ五輪については「ベストコンディションで臨めるかはやってみないと分からない」と語り、首脳陣もジロについては無理をさせない方針を示している。一方で、ツールから日程が空くロード世界選手権(スイス・チューリッヒ)については、“本気”で臨む心づもりだ。
本格的なシーズンインは3月2日のストラーデビアンケを予定し、その後はティレーノ~アドリアティコ、ミラノ~サンレモ、ボルタ・ア・カタルーニャと転戦。今季大活躍したロンド・ファン・フラーンデレンなどの北のクラシックは回避し、アルデンヌクラシックもリエージュ~バストーニュ~リエージュに集中。以降はジロ、ツール、五輪と、メジャーレース連戦となる。
タデイ・ポガチャル 2024年シーズン レースプログラム(予定)
3月2日 ストラーデビアンケ
3月4~10日 ティレーノ~アドリアティコ
3月16日 ミラノ~サンレモ
3月18~24日 ボルタ・ア・カタルーニャ
4月21日 リエージュ~バストーニュ~リエージュ
5月4~26日 ジロ・デ・イタリア
6月29日~7月21日 ツール・ド・フランス
7月27日 パリ五輪・個人タイムトライアル
8月3日 パリ五輪・ロードレース
9月13日 グランプリ・シクリスト・ド・ケベック
9月15日 グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル
9月29日 ロード世界選手権
10月12日 イル・ロンバルディア
ヴィンゲゴー、ワウトらヴィスマ勢もすみ分けが決定
前回、チームプレゼンテーションの開催を伝えたヴィスマ・リースアバイク(旧ユンボ・ヴィスマ)もエースクラスの動向が明らかになった。今季はすべてのグランツールを制する離れ業を演じた世界最高チームは、その強さにふさわしい人選で2024年を戦う。
ツールを回避しパリ五輪へ向かうことが報じられてきたワウト・ファンアールト(ベルギー)は、北のクラシックに参戦後ジロ・デ・イタリアに臨む。チームリーダーを務めるが、目標はあくまでステージ優勝。グランツールデビューとなるヤングスプリンター、オラフ・コーイ(オランダ)との共闘も決まり、平坦や丘陵系のステージでは主導権を握るかもしれない。ジロの総合成績は、ボーラ・ハンスグローエとの契約を解除し先ごろ移籍が決まったキアン・アイデブルックス(ベルギー)が担う公算だ。
ワウトを欠くツール・ド・フランスは、個人総合3連覇がかかるヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)が順当にメンバー入り。ヴィンゲゴーは3月にティレーノ~アドリアティコ出走予定で、前記したポガチャルとの直接対決第1弾となる。また、これまでロード世界選手権などの国別対抗戦には色気を見せてこなかったが、パリ五輪へは意欲的。急坂が多いタフなコースで自身の走りを試す強い意志を見せている。
ツールでヴィンゲゴーを支えるメンツとしては、セップ・クス(アメリカ)やティシュ・ベノート(ベルギー)、クリストフ・ラポルト(フランス)、ディラン・ファンバーレ(オランダ)といったスーパーアシストが名を連ねる。新加入のマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ)は、北のクラシックではワウトを、ツールではヴィンゲゴーをそれぞれ支える重責を任される。
ジロとツールで分散気味の力は、ブエルタ・ア・エスパーニャで結集する。今年の大会を制したクスを筆頭に、ワウト、ヴィンゲゴーも参戦の意思を示した。ツールやパリ五輪の勢いのままブエルタに乗り込むとあれば、その走りは他の追随をまったく許さないものとなる。
ヴィスマ・リースアバイク 2024年シーズン グランツール布陣(主要メンバー)
●ジロ・デ・イタリア
ワウト・ファンアールト(ベルギー)
オラフ・コーイ(オランダ)
キアン・アイデブルックス(ベルギー)
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)●ツール・ド・フランス
ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)
セップ・クス(アメリカ)
ティシュ・ベノート(ベルギー)
クリストフ・ラポルト(フランス)
ディラン・ファンバーレ(オランダ)
ステフェン・クライスヴァイク(オランダ)
ヤン・トラトニク(スロベニア)
マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ)●ブエルタ・ア・エスパーニャ
ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)
ワウト・ファンアールト(ベルギー)
セップ・クス(アメリカ)
ロベルト・ヘーシンク(オランダ)
ベン・トゥレット(イギリス)
2024年はロードレース史に残る激闘の1年に
ツールやパリ五輪に意欲を見せている選手はまだまだ多数。
特にツールはヴィンゲゴーとポガチャルの新旧王者による決戦にはとどまらない。早くから出場意思を示しているレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)もいるし、ボーラ・ハンスグローエへ移籍するプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)も新たな環境で悲願のマイヨ・ジョーヌを目指す。
そこへ、トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)も名乗りを上げた。2022年大会ではアルプ・デュエズでの激走があり、今年も上位戦線を走って最終的には個人総合13位。年々総合力が上がっており、来季への期待も膨らんでいる。今年の大会で個人総合5位に入ったカルロス・ロドリゲス(スペイン)との双頭体制が見込まれるほか、ゲラント・トーマス(イギリス)がジロとツール連戦を検討しているとの話もあり、状況によっては三枚看板となることも。
スペインの雄・モビスターからは、エンリク・マス(スペイン)が「ツールとブエルタを目指す」との宣言もあった。今年のツールでは第1ステージでのクラッシュで早々と大会を去り、何とか間に合わせたブエルタで個人総合6位。2024年へ充実を図るべく、2つのグランツールに加えて、パリ五輪やロード世界選手権での代表入りにも意欲を見せる。なお、チームは今季浪人状態だったナイロ・キンタナ(コロンビア)の復帰が決まり、来年はジロで総合エースの座を与える見通しだ。
総合系ライダーに限らず、引退を1シーズン先送りしステージ優勝記録更新を狙うマーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタンチーム、イギリス)や、今年マイヨ・ヴェールを着たヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)、チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ・ポストNLへ移るファビオ・ヤコブセン(オランダ)といったスプリンター陣もツール出場を予定。マッズ・ピーダスン(デンマーク)率いるリドル・トレックは、移籍加入のテイオ・ゲイガンハート(イギリス)との共闘が決定的。
ツールやパリ五輪までの過程を含め、2024年シーズンはロードレース史に残る激闘の1年となることは必至だ。
福光俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。