ラウンド中に慌てないメンタルコントロール|プロキャディが教えるゴルフのツボ
EVEN 編集部
- 2019年12月12日
INDEX
「ゴルフはメンタルのスポーツ」といわれる。他のスポーツと比べて考える時間がたっぷりあるだけに、心理面が結果に影響するケースが多いのは事実だ。ミスを未然に防ぐための「心の準備」と、ミスした時に慌てないための「心の立て直し方」について説明しよう。
【解説】杉澤伸章(すぎさわ・のぶあき)
1975年生まれ、愛知県出身。21歳で横田真一の専属キャディとなり、2002年からはプロキャディとして丸山茂樹と契約して渡米。米PGAツアーを転戦した。2011年からは宮里優作と契約し、2013年の日本シリーズ優勝をサポート。現在はツアー中継の解説やリポート、企業向けの講演などでも活躍している。
朝一番のティショットの前は体を動かして緊張をほぐそう
朝一番のティショットは、プロでも緊張します。ましてや日本オープンのようなメジャー大会の初日や、優勝争いを展開している最終日のスタートホールなどは、普段よりも気持ちが高ぶっているものです。
多くのアマチュアは緊張でガチガチになった時に、深呼吸を何度も繰り返して気持ちを落ち着かせようとします。心身をリラックスさせようと一生懸命になりますが、そのことばかりにエネルギーを費やしてはいけません。
スタートホールのレイアウトを確認したり、風向きを見たり、ここはどんな球でどこを狙おうかと作戦を立てたりして、しっかり準備をすることが大事です。
プロキャディは、スタート前はパートナーであるツアープロをリラックスさせるためにジョークを飛ばしたりもしますが、準備すべきところはきちんと準備しています。
緊張をやわらげる方法はプロによって違いますが、何回か軽くジャンプしたり、米女子ツアーで活躍するタイのアリヤ・ジュタヌガーン選手のようにニッコリと笑ってプレーするのも良いでしょう。
私としては、朝一番のティショットの前には体を動かすのが効果的だと思います。自分の順番を静かにじっと待っているよりも、腕をグルグル回すなどして体をしっかりほぐしておくと、緊張もほぐれてきます。プロのそういった動きも参考にしてください。
「アベレージスコア」の意識でモチベーションをキープする
アマチュアゴルファーは、よく「ベストスコア」を期待します。しかし、ベストスコア以上に大事なのは「アベレージスコア」です。
ツアープロは年間のアベレージスコアを上げることに全力を注ぎます。「平均スコア」が獲得賞金に直結するからです。実際、賞金ランキング上位者は、平均スコア上位者でほぼ固められます。
ベストスコアを出したところで、次の日のゴルフがワーストスコアでは何にもなりません。ゴルフは一瞬の喜びを味わうスポーツでもありますが、一の喜びを味わうための九の準備と努力が絶対不可欠です。
アベレージスコアも、要はメンタルです。皆さんにとってのアベレージスコアが年間なのか、半年なのか、月間なのか、サイクルは自分で決めていただくとして、これを重視する一番の理由はモチベーションのキープにあります。
例えば、朝のスタートホールでいきなりトリプルボギーを打ってしまうと、「もうベストスコアは無理だ」と諦めてしまう人が少なくありません。しかし、そこでゴルフが終わったわけではありません。スコアは120よりも119のほうが良いし、100よりも99のほうが良いに決まっています。
ミスしてはいけないわけではなくて、ミスしても投げないことです。1打1打を意識して、できるだけスコアを良くする努力をしましょう。アベレージスコアを良くするには1打1打をおろそかにはできません。つまり、無駄な1打をなくそうという気持ちが生まれて、モチベーションが上がります。その意識が集中力のキープにつながるのです。
ゴルフのショットには1打たりとも無駄はない
トーナメントの予選カットラインのスコアがイーブンパーで、残り数ホールで自分が4オーバーを打っているとします。予選通過のためには4打縮めないといけませんし、一つでもボギーを打ってしまったら予選通過は絶望的という状況です。
そんな場面で残りのホールをどんな気持ちでプレーするか? その気持ちの違いが、強くなる選手とそうでない選手の大きな分かれ目になると私は考えます。
予選通過は厳しいとわかっていても、「何とかしよう」と粘るのはプロとして当然ですし、一つでもスコアを縮めようと攻めのゴルフをする選手も多いでしょう。私の考える分かれ目とは、結果的に予選落ちだったとしても、「次の週に向けて課題を見つけておこう」というように意識を明確にするかしないかということです。その差が、選手の将来を左右すると思います。
ゴルフのショットに無駄はありません。1打1打の経験に必ずヒントがあります。ワンショットごとに、次のショットにつながる課題が必ずあるはずです。アマチュアの皆さんも、1打1打のモチベーションをキープすることが上達につながることを意識しておきましょう。
イライラした時はゴルフ場を俯瞰の目で見よう
プレーの合間に待たされた時など、イライラする時はどう対処すれば良いですか? そんな質問もよく耳にします。
イライラしてしまうのは、時間なども含めて自分の思い通りにいかないことがあるからです。たとえば、プレーの遅い人と一緒に回っていて、自分の打順がきているのにすぐに打とうとしないことが続くと、余計にイライラしてしまいますよね。
ただ、そこでその人を注意しようと考えると、相手のことが余計に気になって自分のペースを乱されてしまい、結局自分が損してしまう結果になりかねません。
そんな時は、ゴルフ場を上から眺めるように見渡す気持ちになると良いと思います。ドローンのような俯瞰の目です。もっと上がるとゴルフ場を囲む街並みが見えてきて、さらに高く上がると地球儀のように見えてくる。そんなイメージをもてば、それまでイライラしていたことが実に小さく思えてきます。
気になることを「気にするな」といわれても難しいもの。自分が今いるコースを俯瞰の目で上から見れば、「ぜんぜんたいしたことじゃないな」と思えますし、コースのレイアウトを隅から隅まで見渡す気持ちにもなれますから、コースマネジメントの面でとても効果的です。
集中力の維持に大きく役立つスコアカードマネジメント
パー72として、アベレージゴルファーの方がすべてのホールでパーを狙ってプレーするのはどうしても無理がありますし、モチベーションをキープするのも難しいと思います。
そこでお勧めしたいのが、スコアカードマネジメントです。例えば朝一番のスタートホールが苦手な人なら、規定の数+2(パー4なら6)を自分のパーとして、7で上がったら「ボギーと一緒」だと思えば良いのです。
大抵のコースのスコアカードには、各ホールのハンディキャップ数が記入されています。アウトコースとインコースの難易度の高いホールから1、2、3…ときて、… 16、17、18はやさしいホールとなります。
難しいホールは+2が自分のパーで、比較的やさしめのホールは状況次第でパーを狙ってみるなど、1ホールずつ区切って目標スコアを設定するとモチベーションを維持しやすくなります。
ツアープロであっても、難しいパー4は4・5、やさしいパー4は3・5で考えます。ですから、難しいパー4でボギーを打っても仕方ないと割り切れるのです。パーが取れたら儲けものという感覚ですね。このように自分のスコアを管理する手法は、集中力を維持しやすく、プレーに対するモチベーションも上がるので、平均スコアを上げることにもつながります。
「時系列」的な思考で今やるべきことを明確にする
「時系列」とは、時間的な変化を継続して観測して得た値の系列のことですが、要は「未来」「現在」「過去」の3つの時間にまたがって考えるという意味です。
ゴルフプレーに当てはめれば、未来を想像し、過去にさかのぼって材料を揃えて、今は何をすべきかの気持ちを整理することになります。この時系列の考え方は、「準備力」を上げて、メンタルを上手にコントロールする上でとても重要なことです。
ホールの状況を見て、「ここはフェードを打とうか」とか「ドローを打とうか」など考えますよね。これは未来への想像です。次に、「その時にどういうミスが出やすいか」を過去の経験で振り返ります。「こういうミスが出たな」とか「こんな失敗が起こりやすいな」という具合に過去のデータを引き出すわけです。
そこで、「それでは、今ここではこういうふうにプレーしよう」と現在につなげるのです。こうした作業によって、これから打とうとするショットのイメージがより明確になります。
アマチュアの皆さんは、未来のことばかりを考えすぎて、過去のデータをさかのぼることをしません。未来を意識しすぎると、結果ばかりに気持ちがいって緊張しやすくなります。プロだって、1メートルもない短いパットでも「これを入れたら優勝だ」という場面だとポロッと外すことがあります。これも未来ばかりに意識がいって、今なにをやるべきかの意識が薄れているためです。「良いショットを打ちたい」と思うなら、未来を考え、それから一度過去を振り返り、今やるべきことへの集中力を高めましょう。
調子のパーセンテージに合わせてプレーしよう
誰しも日によって調子の良し悪しがあります。朝起きてから体が20パーセントしか稼働しない時もあるわけで、ツアープロであっても体が重かったり、体調が良くなかったりすることは少なくないですし、ゴルフをしたくないと思うこともあるわけです。
私はそれを否定しません。感じて欲しいのは、「ベストパフォーマンスが100だとしたら、今日は何パーセントくらいか?」ということです。これは私の持論ですが、仮にそれが50パーセントだとしたら、その50パーセントに対してベストを尽くせば良いと思うのです。50パーセントしかないのに、100パーセントを求めようとすると苦しくなってしまいます。
たとえば、いつもは7番アイアンで150ヤード飛ぶ人が今日はキャリーが落ちると感じたら、7番アイアンで無理に150ヤードを打とうとしないで、「今日は6番で打とう」と切り替えれば良いのです。
つまりは調子が良くない時のメンタルコントロールですが、そんな時は「今日は調子が良くない」と思わずに、「今日は何パーセントか?」を自問自答してみてください。プロキャディはプロと顔を合わせた時に、声のトーンや歩くしぐさなどで「今日は何パーセントくらいかな」と見当がつきます。その調子のパーセンテージに合わせてプレーするように導けば、朝は50パーセントくらいだったのが午後は80パーセントまで調子が上がっていくこともあります。「今の自分は何パーセントか」を意識すると、自分のペースでプレーしやすくなりますので、ぜひ試してみてください。
同伴プレーヤーすべての成功を心から願おう
ゴルフは1組2〜4人でプレーすることがほとんどで、同伴プレーヤーがいます。私は、一緒に回っているみんなが良いスコアで回れるように願うのが一番だと思います。同伴プレーヤーのすべてが成功するように願いながらプレーするのです。
これはツアープロにとっての鉄則でもあります。例えば、相手が打ったバーディパットに対して「入れ!入れ!」と願うわけです。
なぜかというと、相手のミスを期待するのは自分のミスを誘発することにつながりやすいからです。
たとえばプレーオフになったら、相手はすべてのパットを入れてくると考えます。相手のパットに対して「外せ!」と考えると、人間の心理とは不思議なもので自分のパットも外してしまうような恐怖感に襲われやすくなります。前にも説明したように、体は言葉に対して反応しやすいのです。逆にいえば、相手に対しての「入れ!入れ!」は、自分のパットに対しても「入れ!入れ!」となるわけです。
海外ツアーのメジャー大会になると優勝賞金が1億5000万円や2億円ほどの高額になってきます。そんな高額賞金をかけて勝負している中で、プロたちは相手のプレーに対して「ナイスショット!」と心から言い合っています。相手をリスペクトし、真剣勝負する。だから自分のパフォーマンスを最高レベルまで引き上げることができ、素晴らしいゲームを演出できるのです。
そんな時は僕たちプロキャディも、キャディ同士で「みんなでテンション上げて行こうぜ!」と一丸となり、好勝負を演じているプレーヤーたちを一生懸命盛り上げます。
「ナイス」と「ミス」のさじ加減をするのはナンセンス
ゴルフのショットは1つしかありません。ショットに「ミス」や「ナイス」のさじ加減をつけようとするからおかしくなるのではないかと私は思います。
パットにしても「何で切れないんだ?」と口にする人がよくいますが、自分の読みが間違っていることを認められないわけです。切れなかったのは事実ですから、次のパットでいかに対処するかが大事なのに、気持ちの整理がまったくできていないのです。自分のミスを許容できないゴルファーがスコアを崩しやすいのは、「次のショットに向けて準備しよう」という意識が欠如しているからに他なりません。
ゴルフには完璧はありませんが、完璧を求めるのは良いことだと思います。たとえば重い病気で手術を受けることになり、あなたは手術台の上で横になっているとします。そこで執刀医に「完璧は求めませんが、ベストを尽くします」なんて言われたら、「いやいや、完璧を求めろよ!」となりますよね。
手術とゴルフを比較するのは無理がありますが、完璧を求めるところからは向上心も生まれてきますから、むしろ完璧を求めるべきだと思います。同時に、ゴルフにおいては完璧でないことのほうが多々起こるということも知っておくべきです。
その結果を「ナイス」と「ミス」に分けないで、事実として受け入れる心が大事です。
自分のプレーを実況中継するとパフォーマンスを引き出しやすい
これは横田真一プロのエピソードです。僕が横田プロの帯同キャディを務める前に1997年の全日空オープンでツアー初優勝を達成した時、横田プロは自分で自分のプレーを実況していたそうです。
スタート前の食事に始まり、「さあ、メニューを開きました。和食と洋食のどっちを選ぶでしょうか!?」という具合です。プレーが始まれば、「注目のスタートホールです。フェアウェイは広く見えますが、バンカーがあるため見た目以上にタイトです。横田選手、ボールの真後ろから目標を眺めて、ゆっくりとアドレスに入ります。さあ、どんな球を打つのでしょうか。ていねいにアドレスをつくり、目標を1回2回と見て、いよいよテークバック開始です。フィニッシュまでしっかり振り切ると、ボールはきれいなドローでフェアウェイのど真ん中へ。ナイスショット!」という感じで自分のプレーを解説していたのです。
自分を客観視するのは難しいものですが、心の中で自分のプレーを実況することで緊張を緩和し、パフォーマンスをうまく引き出せていたのだと思います。
この手法は、自分を俯瞰して見ることに通じます。ゴルフコースの中にいる自分をバードアイの目線で上から俯瞰して見ると、様々な気付きが得られますし、リスクマネジメントの面でも非常に効果的です。
ゴルフが上手くなった先に「どうしたいか?」を考えよう
ここで皆さんにちょっと質問です。ゴルフが上手くなりたいと願う気持ちはよく理解できますが、上手くなってから後はどうしたいのでしょうか?
競技ゴルファーとして高みを目指したいのか、ゴルフ上達の相乗効果でコミュニケーションの場を広げてビジネスに役立てたいのか。そういった自分なりの目標を立てているでしょうか。
先のことはまったく考えていない。そう答えるゴルファーがほとんどだと思います。しかし実は、モチベーションを維持できるかどうかはそこが大きなキーポイントになっているのです。
英語の勉強を例に考えてみましょう。「英語が話せるようになりたい」と思って英会話スクールに通う人は多いですが、話せるようになった先にどうしたいかを明確に考えているかどうかで、英語の上達度には大きな差が出てきます。「グローバルに仕事がしたい」、「将来は海外に住みたい」など目標がある人のほうが圧倒的に上達は早いもの。「話せるようになりたい」と単純に思うだけでは、一生懸命に英語を勉強しているようで実際はモチベーションがそんなに上がっていないものです。
ゴルフに話を戻しましょう。ツアープロはシード権を獲得したい、賞金王を取りたい、世界で活躍したいなどの明確な目標があります。だからこそ「そのためにどうするか?」という逆算ができるのです。ゴルフが上手くなった先を意識し、目標を設定すると普段の練習から熱が入ってきます。
練習場で一生懸命にボールを打っている自分を褒めよう
ゴルフが上手くなった後の自分はこうありたい、こんなこともしてみたい、などと具体的な目標を立てれば練習も頑張るようになります。コースプレーと同じように、1打1打を大事にする気持ちも生まれます。
ゴルフが上手くなることの本当の喜びが何であるかを考えてみれば、練習をする目的もハッキリとつかめてきます。
練習場で練習する時はナイスショットを打つのが目的ではありませんが、練習していてなかなか調子が上がらないとイライラする時もあるでしょう。しかし、自分が一生懸命に取り組んでいることに対して、結果の良し悪しはあまり追求しないほうが良いと思います。
ナイスショットが出ようとミスショットが出ようと、練習場に足を運んで上手くなろうと努力している自分をまず褒めてください。上手くなろうと頑張っている自分、上手くなるための準備をしている自分を素晴らしいと思えるようになりましょう。
自分を否定的に見るのではなく、すべてにおいて肯定的に見る。コースでラウンドする時はもちろんですが、普段の練習においても、上手なメンタルコントロールのコツは肯定的な思考に立つところにあることを覚えておいてください。
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EVEN 編集部
スタイリッシュでアスリートなゴルファーのためにつくられたマガジン。最旬のゴルフファッション、ギア、レッスン、海外ゴルフトリップまで、独自目線でゴルフの魅力をお届け。
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