130年以上変わらないアルミの作り方まで改革しようとするアップル
FUNQ
- 2018年05月16日
『理想主義者アップル』が追う『アルミの製造革命』
世界一の時価総額を持つ企業であるアップルだが、同時に自然環境に対して非常に配慮する会社でもある(Apple、世界的に自社で消費する100%のエネルギーを再生可能エネルギーで調達 https://www.ei-publishing.co.jp/articles/detail/flick-462678/)。
偽善だと捉える人もいるかもしれないが、ヒッピー文化に根を持つスティーブ・ジョブズは地球温暖化に警鐘を鳴らした『不都合な真実』で知られるアル・ゴア元米副大統領とも親交が深かった(アップルのVPでもあった)し、ジョブズはまるでジョン・レノンのように信じたことは実現できると思っていたと思う。
スティーブ・ジョブズの後を継いだティム・クックも現実主義者と捉えられているが、ジョブズの夢を引き継いで実現しようとしていることは確かだ。LGBTの社会運動をバックアップするために、自身が同性愛者であることを告白している。世界最大の企業のCEOが同性愛者であると告白したことは、世の中から差別を少しでもなくすために大きな効果があった。
誰もが正論のまぶしさに目を逸らしてしまう世の中で、正しいことを正しいと言うからこそ、アップルは世界最大の時価総額を持つ会社に成長したのかもしれない。
そんなアップルの次の一手は『アルミの製造革命』だ。
従来二酸化炭素を排出していた精製過程で、酸素を排出するようになる
ご存じのように、アップルは製品にアルミを多用する。MacBook Pro、MacBook、iPad、iPhone X以外のiPhone、多くのApple Watchはアルミ、もしくはアルミ合金であるジュラルミンで作られている。軽く、加工しやすく、表面にアルマイトという酸化被膜を形成すると非常に硬度が高くなるアルミを、高精度なCNCで削り出すことにより、高精度・軽量・高剛性を実現するアルミユニボディは電化製品の生産に革命を起したともいえる。
しかし、その分、アップル製品は大きくアルミに依存していることになる。
アルミの原材料であるボーキサイトは限られた国でしか産出されず、製錬に大量の電気と炭素材料を必要として、結果として二酸化炭素と一酸化炭素を排出する。
もう少し細かく言うと、ボーキサイトからアルミナ(酸化アルミニウム)を得るためにはアルカリ溶液を加え高温処理を施す。そうやって得られたアルミナから酸素を取り除くため、アルミナを電解炉に入れ、電解炉の陽極、陰極の両方に大量の炭素材料を使う。結果として、アルミを酸化させていた酸素と炭素材料が結びつき、二酸化炭素と一酸化炭素として排出されるのだ。
この製錬方法は、1886年に発明されて以来、連綿と使われている。日本ではボーキサイトは産出されないということを小学校の時に勉強したことをご記憶の方は多いかとは思うが、電気の価格の高い日本ではアルミの精製も国外に頼らざるを得ないのだ。
さて、製品の多くにアルミを使うアップルとしては、よりよい地球を次世代に残すため、このアルミの製錬方法に改革を起す必要があった。
アップルが発表したリリース( https://www.apple.com/jp/newsroom/2018/05/apple-paves-the-way-for-breakthrough-carbon-free-aluminum-smelting-method/ )によると、アップルはアルミニウムメーカーであるアルコア・コーポレーションとリオ・ティント・アルミニウム、そしてカナダ政府、ケベック州政府とパートナーシップを組み、合同で1億4400万ドル(約158億円)を研究開発に投じたとういう。
「Appleは地球にとって良い技術、今後何世代にもわたって地球を保護するのに役立つ技術を前進させることに取り組んでいます。私たちは、この野心的な新プロジェクトの一翼を担うことに誇りを持っており、将来的に温室効果ガスの直接排出を伴わない製法で作られたアルミニウムを私たちの製品の製造に使うことができるようになることを期待しています」と、ティム・クックは言ったという。
アップルのエンジニアが、アルコアで出会った開発中の技術は炭素の代わりに先進的な伝導材料を使い、二酸化炭素ではなく酸素を放出するという。
この環境に対して大きな影響を与える技術革新について、アルコアはパートナーを必要としており、アップルやリオ・ティントが協力することになった。両者はエリシス(Elysis)という名のジョイントベンチャーを設立し、この技術による大規模な生産と商業化を目指し、2024年にはパッケージの販売を開始するという。
彼らは理想家かもしれない。しかし、理想を描くことなくして、よりよい社会はやって来ない。世界最大の企業が、理想家であったことは、我々にとって幸運なことだったと言えるだろう。
(村上タクタ)
- BRAND :
- flick!
SHARE