ニコン新型カメラ、Z 6、Z 7のインパクトの凄さを10分で解説!
FUNQ
- 2018年08月26日
INDEX
ニコンがミラーレス用新マウントを出す、この意味の重さ
ニコンの新型カメラZ 6、Z 7が発表されて、カメラ業界は大騒ぎである。カメラに詳しくない人にとっては、何をそんなに大騒ぎするのか? と思うかもしれないが、発表されてみると、これはカメラ好きにとってはもちろん、技術的にも、経済的にも大きなターニングポイントになる製品であることが判明した。分かりやすく解説しよう。
カメラというのは、もはや数少ない、日本が世界一だと断言出来る商品である。
ほんの、20〜30年前には、パソコンであれ、テレビであれ、家電であれ、携帯電話であれ、日本が世界一の技術と経済規模を持っていると断言できたものだが、もはや中国や台湾、韓国の方が優れた製品を作っており、技術でも市場占有率で日本が優位に立ってる業界は極めて少ない。
その中でカメラだけが、今でもキヤノン、ニコン、ソニー、パナソニック、オリンパスなどの日本メーカーがトップクラスの製品を作っており、他国企業の製品とは本当の意味で一線を画すレベルのクオリティを維持している。
集積度の高い電子部品を、大量に高精度で組み合わせ量産すれば低価格で提供できる……という他の電子機器と異なり、カメラだけはレンズなど光学部品の製造、組み立て、調整に独自の深い技術が必要とされるからだと言われてる。
しかし、カメラ業界とて、激しい競争にされされていることは言うまでもない。
たとえば、スマホのカメラはレンズのクオリティとは違うデジタルな処理で望遠性能を高めたり、ボケ味を付け足したり、さまざまな加工と共有機能で写真の意味を変えようとしている。
ゆえに、いわゆるコンデジ市場は急速にシュリンクし、各メーカーとも大きく市場を落としている。
しかし、好調なのが、プロ向け、ハイアマチュア向けのレンズ交換式高級カメラだ。
この市場は、キヤノンとニコンのトップツーが長らく他社を近づけないレベルの製品を作り、寡占の状態にあった。
そこに登場したのが従来の一眼レフより、デジタル技術の介在度合いを増した『ミラーレス一眼』と言われる製品だ。
簡単にいえば、ミラーとペンタプリズム、光学ファインダーという、光学的な部品の一部を省くことで、カメラをよりコンパクトにできる。
しかし、光学ファインダーの代わりにEVF(電子的な小型のモニターを使ったファインダー)を設ける必要があり、当初は解像度の低さや反応の遅さが問題になった。しかし、技術の進歩で、その問題が解決するにつれ、ミラーレス一眼の性能は、一眼レフに近づいていった。
ニコンが35mmフルサイズ対応の大径『Zマウント』を用意
ミラーレス一眼に非常に積極的だったのは、当初、オリンパス、パナソニックなどのマイクロフォーサーズ勢だった。そして、巨大で高性能なCMOSを自社で作れるソニーがその戦列に加わった。
対して、ニコンとキヤノンは、自社内のフラッグシップを自社製品で食いつぶすようなプロダクトには大きく力を入れることはできなかった。
結果、キヤノンのミラーレスであるEOS Mの進化はどうしても、EOSシリーズを凌駕することはできない……という縛りを感じる。EOS M5やEOS Kiss Mの登場で、ようやくかなり使えるようになってきたが、オリンパスやパナソニック、ソニーのように、『一眼レフを越える』というような気迫は感じない。ニコンのNikon 1シリーズにいたってはどうやら撤退は決定しているようである。
オリンパスとパナソニックはマイクルフォーサーズという小さなセンサー(17.3×13mm)を使って、フルサイズに近い性能を求め、結果的に非常にコンパクトかつ高性能なシステムを構築している。
対して、ソニーはEマウントというかなり小さいサイズのマウントにフルサイズ(36×24mm)という大きなセンサーを押込み、コンパクトさと高性能を実現している。
ちなみに、キヤノンが採用しているEF MマウントはAPS-C(23.6×15.8mm)サイズと、その中間サイズのセンサーを使用している。
最後尾から、他を一気に圧倒する設計を提示
そんな状況の中、カメラメーカーの中で一番保守王道を来たニコンが、この中で新たに『Zマウント』という新しいマウントを発表し、フルサイズセンサーを使ったミラーレスを発表したというのはかなり大きなトピックだ。
レンズ交換式カメラは、マウントの規格によって仕様が限定される。つまり、今回の発表はZ 6、Z 7の発表というより、Zマウントの発表なのだ。
ニコンのZマウントの設計をひも解くと、もう自社のFマウント一眼レフを打倒する覚悟で新しいミラーレスカメラを作る気になったことが分かる。
Zマウントは、フルサイズセンサーを十分な余裕を持ってクリアする。つまりミラーレスカメラとしては、一番高性能を実現できる可能性が高いマウントなのである。
電子的な機能で性能をカバーしつつ小型化が容易なオリンパス、パナソニックのマイクロフォーサーズ。フルサイズのCMOSを搭載可能で高画質、高感度性能で突出したソニーのEマウント。両者の中間的な位置づけのEF-Mマウント。そんな中で、ニコンZマウントは、ソニーのEマウントよりも振り切った位置づけの設計になっている。
ソニーのEマウントは元々APS-Cとして始まったこともあって、マウント径は46mmと35mmフルサイズのCMOSが使えるのが不思議なほどのギリギリのサイズ。対して、ニコンZは55mmとかなり大径な設計だ。これはキヤノンEFマウントの54mmを越える。
マウント径が大きいと、レンズ設計的に周辺光量の低下を防ぎやすいし、明るいレンズを作りやすい。また、剛性も高く作りやすいので大きな重いレンズを付けても問題が起こりにくい。
また、フランジバックは16mmと極めて小さいので、ボディをコンパクトに作れるし、広角レンズを設計しやすい。
十分なサイズのマウントに、35mmフルサイズのCMOS。一眼レフではなくミラーレスがフラッグシップである時代の扉を、もっとも保守的なメーカーであろうと思われていたニコンが押し開いたという意味は極めて大きい。
4,575万画素のZ 7と、2,350万画素のZ 6
というわけで、前置きが長くなってしまったが、ひとつの時代を終わらせ、新しい時代を開く鍵を持ったZマウントの登場こそが、今回の新製品の角であるのだから、マウントの話をせざると得なかった。
登場する2モデルは、このZマウントの性能を十分に引き出すために作られたモデルであるとしか思えない。
Z 7がフラッグシップ。4,575万画素、常用ISO感度 64〜25600と、35mmフルサイズならではの解像度を実現しており、店頭予想価格は40万円(税別)前後。
Z 6はもう少し手に取りやすいモデルで、2,350万画素、27万円(税別)前後。画素が大きい分Z 6の方は少し高感度性能が高く常用ISO感度は100〜 51200。
基本性能がガッチリ高いのはZ 7だが、もう少し手軽に撮りたい、リーズナブルにZマウントを体験したい……と考えるならZ 6を選択するのもアリだろう。
どちらも当然ならがら高性能な像面位相差AF。Z 7は493点、Z 6は273点のフォーカスポイントを持つ。
プロスペックなカメラがミラーレスになるとすれば一番気になるのがEVF性能だが、EVFは約369万ドットという非常に高精細なものを採用。ニコンならではの高品位な光学系で歪みがなくクリアで自然な見えを実現しているという。
ちょっと、賛否両論ありそうなのが、記憶媒体としてSDカードではなく、XQDカードを使うというところ。しかし、高速なデータのやりとりとなると、最新の規格の方が有利ではある。高画素なRAW画像などをやりとりするには『スピードこそが正義』。新規格への移行が英断となるかもしれない。
明るくワイドなレンズを作りやすいZマウントのメリットを引き出すラインナップ
そうはいっても一眼レフD850も品薄になるほど人気で、さらに最高性能のミラーレスとなるかもしれないカメラを最も保守寄りと思われてきたニコンが出してきたというのが非常に興味深い。
ニコンファンにとっては待望のニューモデル。
ミラーレスならではの特異な性能より、まずは基本性能を執拗に磨き込んできた感はあるが、スペックは遅れて登場しただけのことはある。
レンズが揃うまで、当分の間はレンズ不足に悩むとは思うが、とりあえずマウントアダプター経由でFマウントレンズを使うことはできる。
最初のスタンダードな3本として、用意されるのは24 -70mm F4のスタンダードなレンズと、35mmと50mmのF1.8単焦点レンズ。加えて来年には58mmで、F0.95というスペシャルなレンズが用意される。24 -70mm F4は王道標準レンズだからともかくとして、あとは明るい短い側の単焦点レンズ、つまりZマウントのメリットが大きく出る側からラインナップされている。
その後のレンズリリースのロードマップはご覧の通り。当分はレンズ不足に悩むことにはなりそうだが、予定の本数からいっても、ニコンの本気度合いがうかがえる。
まぁ、長い方はマウントアダプター経由でFマウントレンズを使ったっていいのだから、大口径マウントのメリットが出るワイドな単焦点レンズを出してくるというのは正しい。
従来口径が狭くて長年苦労したFマウントレンズの鬱屈を一気に晴らすようなラインナップである。
Z 6、Z 7の真価は、使ってみないとわからないところではあるが、マウントの設計としては希望が持てると思う。あとは、レンズのラインナップなどが順調に揃って行くかどうか? だが、現在の計画を見る限りでは、非常に楽しみだ。
(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2018年9月号 Vol.83』)
(村上タクタ)
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