秘密主義をやめたアップル。日本で4000人を雇用し、80万の雇用を生み出していることを発表
flick! 編集部
- 2019年03月08日
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アップル社内の写真が公開され、日本法人の社員、取引先社員が登場
ご存じのように、これまでアップルは秘密主義の会社だった。
未発表の新製品に関する情報制御の厳しさについてはもちろんだが、誰かが『アップルの社員』として表舞台に登場することも、ほとんどなかった。会社を代表してメディアに登場するのは、ほぼアメリカ本国のVPや重要なポジションの社員だけだった。
だが、様子が変わってきた。
今回、アップルが公開した『日本における雇用創出』(https://www.apple.com/jp/job-creation/)のサイトでは、数多くの日本のアップル社員が実名で登場し、これまでほとんど公開されたことのない日本の社屋内で働いている様子の写真も使われている。
そればかりか、サプライヤーやサプライヤーで働く人も名前入りでレポートしている。また、アップルの躍進を支えるアプリ開発者も紹介されている。
アップルが大きく変わろうとしていることを感じる。
日本では4000人の社員が働いている
このサイトでアップルは『日本における雇用創出』をアピールしてる。
これまで、日本で何を作っているのか? どのぐらいの人が働いているのか? は、まったく公開されて来なかった。アップルや働いている人や、アップルに部品を供給している企業も、厳しい守秘義務契約(NDA―― Non-Disclosure Agreement)の下にあり、メディアのインタビューに答えることはない(誤解を招かないように言っておくと、アップルだけではなく、たいていのIT企業やメーカーにもNDAはある。ただ、アップルの運用が非常に厳格なのだ)。
しかし、今回はアップル自身のサイトで、どれだけの人が日本で働いているのかを公開し、そのうちの何人かを名前入りで紹介している。驚くべきことだ。
たとえば、冒頭の写真で紹介した人物はアップルのハードウエア・テクノロジー・エンジニアである飯田佳洋さん。検査機器のたくさんある東京のオフィスのフロアで、何かしらの基盤にテスターを当てて、検査されている様子が見られる。椅子はアーロンチェアが使われているようだ。
日本のオフィスの内部で作業をしている様子が公開されるのは極めて珍しい。
このサイトの情報によると、日本のアップルの現在の社員の数は4,000人。そのうち1441人が日本を拠点とした、アップルケアをサポートするアドバイザーとカスタマーサービスの社員の数。
アップルストアは8つある。ひとつのアップルストアで100人前後の人を雇用しているとしたら、合計800人。(ここは推測だが)あとの1800人ほどが、マーケティングや、営業や、製品やアプリケーションの開発、設計……などを行っている人なのだろう。想像以上に多くの人をアップルは雇用しているのである。
(内野礼菜さんはアップル新宿で働いているのだそうだ。そういえば、昨年4月7日のアップル新宿オープンの時にお見かけした気がする(正確に記憶しているわけではないが)。)
アップルの日本の社員は2010年、つまりiPadが発売された年には956人だったそうだ。そこからわずか8年で、4倍以上になり、4000人を超えているという。アップルの急成長と、その人的充実ぶりが表れている。
このアップルのサイトの目的は、アップルが単なる『外資』ではなく、日本に根を張り、日本の産業のひとつであり、日本人を雇用し、iPhoneやMacの内部の部品のいくつかは日本で生産されているということを知らしめることにあるのだと思う。
これまで秘密主義であったために、GAFAとひとまとめにされ、単に日本から収益を吸い上げる外資系企業のひとつとして扱われることも多いが、昔からアップルは数多くの部品を日本で生産し、一部の開発も行っている。ただ、その様子はまったく公開されないので、知られていない。
昨年末に、米アップルはテキサスに新キャンパスを作るほか、全米に多くのオフィスを開設し、アメリカの雇用を増やしてる……というレポートを出した( https://www.ei-publishing.co.jp/articles/detail/flick-477499/ )。これは『雇用を増やせ』と迫るトランプに対するアピールだと思われる。だが、もしかすると、この情報公開を行ったことで良い波及効果があったのかもしれない。その流れで日本についても雇用について独自にアピールする機会が得られるようになったのではないだろうか?
(アップル京都で法人営業を担当する三柳明寛さん。2018年8月25日のオープン取材の時にもお会いした)
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現在でも多くの部品が日本で作られている
アップルがアピールしているのは4000人の社員を雇用しているということだけではない。
アップルは日本を拠点としている企業において、22万人の雇用を生み出しているという。
写真入りで紹介されているのは、iPhoneの通信モジュール、コネクタ、コンデンサなどの部品を提供しているの京都の村田製作所の端山美帆さん、水白雅章さん、薄型LEDバックライトや、iPhoneのカメラ用部品、スイッチ、MacBookシリーズ用センサーなどを生産するミネビアミツミの橋本亜弥さん、米アップル本社のカフェテリアなどで使われているアームチェア『HIROSHIMA』を作っているマルニ工房の竹次学さん、iPhoneのプリント配線板の絶縁材であるソルダーレジストを作っている太陽インキ製造に電力を供給している太陽グリーンエナジーの山田敏継さんなど。
(村田製作所の水白雅章さん。村田製作所は古くは京都の伝統的な陶芸製品の会社として創業したが、セラミックスコンデンサなどで随一のシェアを誇る世界的な電子部品メーカー。)
設計はカリフォルニア、生産は台湾や中国で行われているiPhoneだが、今でも日本企業から多くのパーツが供給されている。
それらの活動によって、日本で22万人の雇用を生んでいるということだ。アップルが提携している日本のサプライヤーの数は905に及ぶという。
製造、科学および技術サービス、卸売りおよび小売業、情報とコミュニケーション、金融や流通など、数多くの人が日本でのアップルのビジネスに協力している。
個人でアプリビジネスを立ち上げる道を開いたApp Store
アップルが構築したエコシステムのひとつにApp Storeがある。
昔はソフトウェアといえば、CD-ROMなどに焼かれ、ハッケージ製品として流通していたものだ。
その後、ダウンロード販売が行われるようになったが、決済の方法がバラバラで払いにくかったり、小さなアプリの多くは無料で流通していて有償化が困難で、ビジネスとしては成立しにくかった。
決済方法をiTunesと統一化し、アプリの権利自体をアップル側で管理する(ユーザーは開発者と個別に契約する必要がない)カタチのApp Storeをローンチしたのはアップルの功績だ。開発者側もデベロッパー登録さえすれば誰でもアプリを開発し、販売することができるようになった。開発者になる敷居は大きく下がったのだ。
アプリの審査が厳しいとか、アップル側の管理が厳しいとかいろいろ言われているが、小額であろうが高額であろうが安心して決済でき、当分の間アプリを使う権利が担保される上に、ウイルスなど致命的な欠陥を含むアプリでないことが保証されるという意味で、非常に優れたシステムだ。
その後、各社から携帯や、ゲーム機向けのアプリストアが構築されたが、その基本構造を確立したのはアップルのApp Storeだ。
(80歳を超えるアプリ開発者として有名になった、若宮正子さん。iPhoneアプリを開発しており、2017年にはWWDC(カリフォルニアで開催されるアップルの世界開発社会議)にも参加された。)
(元エルゴソフトで、日本語ワープロソフトの傑作、EGWORDを開発していた廣瀬則仁さん。当時の仲間と『物書堂』を作り、iOS、Mac用のアプリを開発する。)
『大辞林』『精選版 日本国語大辞典』『ウィズダム英和・和英辞典』などの辞書アプリを開発するの廣瀬則仁さんは『物書堂』で、これまで50以上のアプリ、100万本以上を販売している。わずか4人のチームで、それぞれ自宅など働きやすいスペースで仕事をしつつ、年間約2億5000万円から3億5000万円の収益を挙げているという。
こういう新しいスタイルのビジネスの成功があるのも、開発者がクリエイティブに集中できるApp Storeがあるからだろう。
日本法人も36年の歴史を持つ、老舗企業
アップルも、GAFA(Google、Amazon、Facebook、アップルを指す)などと呼ばれるシリコンバレー企業の一角として扱われている。たしかに、実態が見えづらく、これら4社とも富をシリコンバレーに集める覇権主義的なインターネット企業とイメージしている人も多いと思う。
しかし、アップルは36年も前から日本法人を置いており、今や新興企業とは言い難いし、ネットバブルから生まれたIT企業群と違って、日本の多くの企業との関わりがあり、日本でも多くの人が働いている。
今回の記事でアップルは『iPhoneやiPad、Macなどを作るモノづくり企業でもあり、世界に、日本に根ざし、そこに住む人を雇用する血肉のある企業である』そんなメッセージを打ちだそうとしているようだ。
そのために、アップルは従来の秘密主義から大きく舵を切った。変わりゆくアップルからのメッセージを感じるサイトだ。
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(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年3月号 Vol.89』)
(村上タクタ)
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