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iPad mini 第5世代先行詳細レビュー。待ち焦がれた『小さな傑作』

慣れた使用感のまま、速度向上、Apple Pencil対応に

来週、3月30日頃から出荷が開始されるiPad mini 第5世代を、みなさんより10日ばかり早く試用させていただくことができたので、レポートしよう。

この新型の『iPad mini』を待ち焦がれていた方も多いのではないだろうか? なにしろiPad mini 4が発売されたのは2015年秋。そこから3年半の歳月が経っている。iPad mini 4に搭載されていたチップセットは 2コアのA8。最初にiPhone 6/6 Plusに搭載され、長らく使われた傑作CPUではあるが、さすがに古くなり過ぎた。

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(宿泊していたNYのホテルのロビーでポケットから取り出して時代物の小説を読む。そんな使い方にもピッタリのサイズ。)

3年半も新型が出なかったので、もはや新型は出ないのではないかと心配した向きも多いだろう。iPad miniが日本で人気なのは満員電車での移動が多い事情など日本特有の側面があり、欧米では日本ほどの人気ではないというから、生産は終了してしまうだろうと予想していた。

事実アメリカでは、個人が日常で使うというより、店舗スタッフが立ったまま使ってポケットに入れられるとか、カーナビに使うのに便利だとか、そういう使い方がされているようだ。やはり日本人は『小さき物』が好きなのである。

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(店舗のレジや、フォトスタンド、カレンダーなどの表示にも便利に使えるサイズ感だ。)

ともあれ、久々の『小さいiPad』だが、使ってみるとやはり本機ならではの便利さを感じる。

使い慣れた方なら先刻ご承知のことと思うが、コンパクトなiPad miniは、電車の中や、飛行機の中でも気軽に取り出せるし、片手でしっかりホールドできるから街中で気軽に取り出して地図を見るようなシチュエーションでも不安なく使える。今回はニューヨークの街を歩きながら使ってみたが、観光の際に広いエリアの地図が見られるのは、格段の便利さがある。

IMG_405004 (街を歩きながら地図を開く。広いエリアの地図が見られるから、観光時には便利。ちなみに、WTC跡地に出来たショッピングセンターOculusにもアップルストアがある。)

iPad miniのディスプレイは7.9インチだから、iPhone XS Maxの6.5インチなどがサイズ表記的には肉薄してきているが、ほぼ1対2を超えた比率で細長い最新のiPhone Xシリーズのディスプレイに対して、初代iPadから伝統の4対3の比率のディスプレイは、やはり使い勝手が格段にいい。

もちろん、最新のA12 Bionicチップセットが搭載されているから、3Dゲームや、大きなサイズの動画の編集、AR表現などを行っても、まったく動作が引っ掛かることがなく、快適だ。

実際、このiPad mini 第5世代を数日使ってみると、僕らの手帳サイズiPadが帰ってきた……そんな感慨を持たずにはいられない。

片手で本体を持って、Apple Pencilを使えるのは新体験

今回のiPad mini 第5世代の最大の特徴はApple Pencil対応になったことだといえる。

対応するのは第一世代のApple Pencil。

iPad Proと連携する第二世代のApple Pencilはペアリングや充電がずいぶん便利になっているが、非接触充電とそれと連携したペアリングシステムが必要になるので、旧モデルの筐体を有効活用するiPad mini 第5世代やiPad Air 10.5インチには使えなかったようだ。筐体設計を含めて、全面新設計を必要とするから、低価格もコンセプトのひとつである本機に使えないのは止むを得ないところ。

とはいえ、使い勝手をのぞけば表現能力、性能はまったく同じなので、心配する必要はない。

書き味は、iPad Proの方が自然な紙に近いざらつき感がある。本機の方が、硬質感のある書き味だ。微妙な話だが、iPad Proの方が表面のガラスが薄く、たわんで引っ掛かりが生じ、ザラザラした感じを感じるようだ。このあたり、やはりProの方がデリケートな表現力では勝る。

また、これは物理的なことで仕方がないが、絵はやはり大きな画面で描いた方が描きやすい。小さい画面で描くには小器用に手を動かさなくてはならないし、デリケートな表現を行うために、ピンチイン/アウトを繰り返さねばならないから面倒だ。

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(街角でちょっとスケッチ。そんな使い方にもピッタリだ。)

ただ、片手でホールドできるので、簡単なメモや、小品を描くのには向いている。絵はがきを描いている感じだ。これはこれで、便利と感じる人も多いだろう。日常生活でふと思いついた時に、手書きでメモをする。会議のメモを手書きで取る。街角でちょっと立ったままスケッチと洒落込む……というようなシチュエーションでは非常に使い勝手がいい。

iPad mini 第5世代ならではの便利さがここにある。

小型機でのApple Pencil利用に、フルラミネーションディスプレイが活きる

ディスプレイが良くなっていることにも注目しておきたい。

もともと、iPad mini 4のディスプレイは、小さいながらもフルラミネーションディスプレイ(液晶ディスプレイ、タッチパネル、保護ガラスと一体化し、間の空気面を除く技術)をおごっていたので、廉価なiPad 9.7インチ(第6世代)などよりガラス表面と液晶面の距離が近く感じられたはずだ。

小さな画面で、Apple Pencilを使うことになったiPad mini 第5世代では、このフルラミネーションディスプレイの性能がより有効に感じられる。

指やスタイラスで表現するより、Apple Pencilは小さな点を指定することができる。この時、iPad 9.7インチのように若干ガラスの厚さを感じる仕様であれば、(9.7インチのサイズがあればさほど気にならないにしても)iPad miniでは画面が小さいだけに、それが気になったはずである。

また、フルラミネーションディスプレイは、画面の反射が少ないので屋外でも見やすいというメリットもある。

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(来週リリース予定のFlow from Moleskineを使ってみた。無限に横にスクロールしながらメモを取ることが出来る。Moleskine純正らしく、メモの書き味は極上)

また、iPad mini 4のディスプレイと比べると、高色域ディスプレイ(P3)、True Toneに対応しており、より豊かで正確な映像表現が可能となっている。

スタンダードモデルに位置づけられたiPad 9.7インチ(第6世代)より、今回同時に発売されたiPad Air 10.5インチ(つまり、1世代前のiPad Pro)に準じた高級な仕様になっているということである。小さいながら満足感が高い。

高性能な最新A12 Bionicを搭載

最近のiPhone、iPadに搭載されているAシリーズのチップセットは、Appleが自社で専用品として開発しているもので、iOSでの動作に特化してチューニングされており、ベンチマークテストにかけても非常に高い数値をマークする。

また、機械学習を重視する最新のiOSの進化に合わせて、CPU、GPUだけでなく、機械学習に特化したニューラルエンジンを搭載しており、画像認識、音声認識などでも高い性能を発揮する。これは、ハードウエアとソフトウエアを一緒に開発できるアップル製品ならではのアドバンテージである。

iPad Proが使う高性能版のA12X Bionicに至っては、ベンチマークで一部のMacBook Proの性能を上回ってしまうほどだ。性能が高過ぎて日常使用ではあまり感じることがないが、A10 Fusionを搭載するiPad 9.7インチに対して、A12X Bionicを搭載するiPad Pro 11インチ/12.9インチは、3倍もの数値をマークする。

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(4月上旬にリリース予定のPixelmator Photoを使って見た。自動制御で生成される写真の加工は、マシンラーニングを使うので、A12 Bionicのニューラルエンジンがフル活用されている。)

預かりものである本機はまだベンチマークテストにはかけていないが、同じA12 Bionicを搭載するiPhone Xsなどの性能から推測するに、iPad mini 第5世代は、iPad 9.7インチの2倍ほどの処理能力を持っていそうだ。

最新のiOS 12が、iPhone 5sやiPad Air初代/mini 2などにも対応していることから分かるように、iOSは数年前のiPhoneやiPadでもまったく不満なく使い続け得られるようになっているが、最新型のアドバンテージは、瞬時の動作の俊敏さ、スムーズさとして確実に活きているし、認証などの速度も速い。iPad miniで行うような作業であれば、数年間はまったく不満なく使い続けられることだろう。

まさに『実を取る』進化

細かい部分を見て行こう。本体サイズ、画面サイズなどは従来のiPad mini 4とは変わらない。そういう意味では新鮮さはない。重さは感じるほどでないが2.5gほど重くなっており、300gをわずかに超えた。もちろん、iPadの現行ラインナップの中では群を抜いて軽い。

背面カメラはiPad mini 4同様の800万画素でF2.4。1,200万画素にならなかったのは残念だが、1,200万画素になって背面から出っ張るよりは、800万画素のままフラットなデザインを維持してくれた方がありがたい。フロントカメラの画素数は120万画素から700万画素のF2.2と大幅に向上している。セルフィのニーズの増加に応えたものだろう。

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(今後ARを使うような状況も増えてくるが、空間認識、AR表現の描画などに高い性能が必要とされる。A12 Bionicを搭載しているiPad mini 第5世代なら、そんな状況でも快適に使える。)

ヘッドフォンジャックは搭載されているが、スピーカーは2スピーカーのまま。最新のiPad Proのオーディオ性能の向上ぶりを考えると貧弱には感じるが、音響性能を向上させようとするとスペースが必要になるので、しょうがないところだろう。

細かいところだが、セルラーモデルのアンテナ部分は大きなプラスチック製のものではなく、アルミ製で接合面だけをプラスチックでシールしたものとなっている。iPad mini 4と比べてひと目で分かる変更点はここだけだ。

本体色は従来同様シルバー、ゴールド、スペースグレーの3色だが、スペースグレーはより暗色に、ゴールドはより彩度が高く赤味が増したローズゴールドっぽい色に変わっている。製品サイズやトレンドの変化に合わせて、微妙に色調整をしてくるあたり、流石アップル。

まさに『実を取る』進化。最廉価モデルはiPad mini 4と同価格

ここ半年ほどのアップルは『ニーズはあるけれど、天の邪鬼なアップルが製品化するわけがない』とユーザーが諦め気味になっている製品を次々にリリースしている。MacBook Airや、Mac miniもそうだし、本機iPad miniもそんな製品のひとつだ。

最新のFace ID、全画面ディスプレイ、Apple Pencil 2などに対応しないところは残念といえば、残念だ。そうした新世代テクノロジーを搭載したiPad miniを期待した人もいることだろう。

しかし、今回のiPad mini 第5世代はそういった新アーキテクチャを採用せずに、従来モデルと同じボディ、パーツ、基盤などを使って、A12 Bionicという最新の(しかし、iPhone XR/XS/XS Maxで大量生産してコストの下がっている)エンジンを搭載した構成とっている。

簡単にいえば、新アーキテクチャを使わず、性能は最新にしたことで、低価格を実現しているのである。見栄を張るより『実を取った』といえる。

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(帰国前、JFK空港のラウンジでビールを飲みながら電子雑誌のフリック!を読む。このコンパクトなサイズ感が最高だ。)

これにより、高性能なA12 Bionicチップを搭載し、Apple Pencilに対応したにも関わらず、最廉価モデルはiPad mini 4と同じ4万5800円(税別)を維持している。ただし、これには仕掛けがあって、最廉価モデルのストレージ容量は128GBから64GBに下がっている。iCloudを活用して、端末のストレージをあまり使わない利用法ならそれでもあまり困らないと思うのだが、不安なら1万7000円を追加して256GBモデルにしおこう。また、セルラーモデルはさらに1万5000の追加が必要だ。

高価なiPad Proには惜しげもなく高品位なアーキテクチャを注ぎ込むが、iPad mini 第5世代のように見栄を取らず、実質的な高性能が必要とされるモデルは、旧モデルのアーキテクチャを上手に活かし、コストセーブする。これにより本体や各種部品はもとより、パッケージや展示用の什器に至るまで従来モデルと同じものを利用することができ価格を抑えることができる。これはティム・クックが言うように地球に優しい製品作りでもある。副次的な要素かもしれないが、ケースや周辺機器類も従来モデルと同じものが利用でき、アフターマーケットメーカーやユーザーにとってもコスト負荷が低い。

戦いは兵站が決するわけで、ロジスティックの神、ティム・クックの面目躍如というべきだろう。

iPad miniを待ち焦がれた人には間違いなくお勧めできる製品だし、本体を片手で持ってApple Pencilでメモやスケッチができるというのは新しい体験だ。それが低価格で実現されている。買わない理由はない傑作モデルの登場だ。

(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年4月号 Vol.90』

(村上タクタ)

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