3つのサブスクと、Apple社の脱皮……5分で分かるアップル発表会
FUNQ
- 2019年03月26日
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サブスクリプションの時代に完全対応
先週のうちにiPadなどのハードウエアの発表を終え、サービスの発表に終始したアップルの発表会だった。
最初、アップルはハードウエアの会社だった。そして、ソフトウェアの会社でもあった。今は、さらにサービスの会社であろうとしている。Apple Cardと、3つのサブスクリプションサービスの発表が伝えるのは、アップルが恐ろしい速度で次のステージに駆け上がろうとしているということだ。お金を押えて、サービスを押える。どこまで成長するつもりなんだろう?
ここでは、3つのサブスクリプションサービスの発表についてお伝えしよう。
Apple Cardについてはこちら
https://www.ei-publishing.co.jp/articles/detail/flick-482364/
その前に、まずサブスクリプションサービスが世の中を席捲しようとしていることを理解しておこう。Apple Musicはもちろんだが、Amazon PrimeやVideo、Musicもサブスクリプションだ。そしてさらに、HuluやNetflixも。日本にいると感じにくいが、特にNetflixの勢いは凄まじく、先日NYのタイムズスクエアに行った時に、世界の広告の中心地であるタイムズスクエアのビルボードの主だったスペースはNetflixが買い占めていることに驚かされた。
日本にいると感じにくいが、すでにNetflixは、独自の映画、番組も製作しており、当るかどうか? を気にしなければならない映画会社や、視聴率を気にしなければならないテレビ会社より、安定した映像コンテンツ制作プラットフォームとして機能しはじめている。そういえば、Ingress PrimeのアニメーションもNetflixが制作してたことをご記憶の方も多いだろう。
また、世界的な優良企業であるAdobeもサブスクリプションで成功している企業だ。
そんな、現状を見据えて、アップルは3つのサブスクリプションを打ち出してきた。
雑誌と地方紙の救世主になるかもしれないサブスク
ひとつは、Apple Newsに、雑誌と新聞を加えたサブスクリプション、Apple News+。
まず、Apple News自体に力を入れると。
PVを得るための炎上マーケティング、フェイクニュースなどの氾濫や、記事を装った広告であるステルスマーケティングの横行は、つまりは広告重視のコンテンツ制作の限界を示している。アップルは正しいニュース、記事が提供されるように、製作者にキチンとお金が渡るような環境を構築しようとしている。
そのApple Newsをさらに、iPhoneやiPadで見やすいカタチに再編集された電子的な雑誌と新聞のサブスクリプションサービスとして拡張したのがApple News+だ。
USでは300ものメディアを統合しておこなわれ、アメリカでは今日からサービス提供。9ドル99セントで読み放題。アメリカとカナダからスタートし、秋にはイギリスとオーストラリアにも提供される。
残念ながら、現在のところ、日本では提供されない。縦書きの問題とか、出版社と個別に契約しなければならないとか、動画などを含むコンテンツ制作力の問題とか、いろいろあるだろうが、もし日本でも実現すれば、取材費用を捻出することさえ困難になっている我々雑誌メディアや、地方新聞に大きな福音になると思われる。
我々フリック!だって、声をかけてもらえばすぐに参加するのだが……。
ゲームもサブスク。この秋から
続いて、ゲームのサブスクリプションサービスであるApple Arcade(アップルアーケード)。
今、ゲームはフリーミアムとして、広告が入るか、もしくは大変不自由な条件で無料で遊べるゲームと、有料のゲームに分かれている。それをサブスクリプションを支払うことで、いくらでも遊べるようにするのがApple Arcadeだ。
150の独自のゲームが含まれて、この秋からサービスがローンチされる。
スピルバーグが登場して、Apple TV+で映像産業参入をアピール
一番大きな時間をかけて紹介されたのが、TVに関する話だ。
まず、Apple TVのコンテンツはApple TVや、iPhone、iPadだけでなく、Samsung、LG、ソニーなどのスマートテレビや、fire TVなどでも楽しめるようになった。つまり、ハードを売ろうとするのではなく、サービスを提供する側に回るということだ。
さらに、ケーブルTV(アメリカには無数のケーブルTVチャンネルがある)、huluなどのネットTV、をいつでも広告なしで楽しめるコンテンツとして、Apple tv channelsとして提供する。これまで10カ国で提供されてきたが、今後100カ国以上で提供するという。
さらに、今回の一番の肝いりの発表として公開されたのがApple TV+だ。
スティーブン・スピルバーグをはじめ、錚々たる映画監督や、テレビ出演者、俳優などが登壇して、このApple TV+を紹介した。アメリカ国内の有名人も多かったので、ちょっと日本人には分かりにくかったが、かなりものすごいメンバーだったようだ。
そして、Appleのために映画や、番組を作っていくという。
Netflixがやってきたことではあるが、ずっとクリエイティブを支えるハードウエア、ソフトウェアを作ってきたアップルとしては、Netflixがそこで大きな収益を挙げてきたのを横目で見て、忸怩たるところはあったのだろう。
アメリカの話だから、ちょっと分かりにくいが、日本に置き換えて言えば、東映や東宝、日テレやテレビ朝日、ヨシモトや、ジャニーズの役割を、アップルが果たそうというワケだ。コンピュータを、電話を作っていた会社がそこに乗り出して行く、これが非常な驚きをもって迎え入れられたわけだ。
サービスの会社へ、広告からサブスクの世界へ
iPhoneやiPad、Macという製品の発表より、この発表の意味が大きいのは、これが明らかなパラダイムシフトを示しているからだ。
アップルはハードウエアや、ソフトウェアの会社から、さらにサービスの会社へと進化する。
記事や、音楽、映像は、1本1本を購入する時代から、サブスクリプションとしてまとめてお金を支払う時代になる。広告と、PVに翻弄され、炎上マーケティングやフェイクニュースに惑わされる時代から、一定金額を払って、押し売り広告のない、真実の優れたコンテンツを手に入れられるようになる。
100以上の国で、この秋からサービスを開始するという。100以上なら、おそらく日本でもサービスされることだろう。最初は日本語化されるかどうかは分からないが。
いずれのサービスもサブスクリプションを中心として、簡単に使えて、広告はなく、個人情報が売却されず、エキスパート(つまり人間)によってキュレーションされ、ファミリーシェアリングされる……ということがアピールされていた(細部はサービスによって違ったが)。
それがアップルが今回の発表で指し示した未来だ。
(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年4月号 Vol.90』)
(村上タクタ)
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