アルミの塊から削り出した革命的ボディ「iPhone 5」|iPhone超分解図鑑
flick! 編集部
- 2020年12月25日
アルミの塊から削り出す革命的手法を完成させた傑作
またしても『歴史的傑作』というような表現を使わざるを得ないのだが、iPhone 5ほどその言葉が相応しいデバイスはない。人類が作ったデバイスとして、ここまで理に適った、美しいデザインを実現した設計がなされているデバイスは他にないと思う。
iPhone 5が革命的なのは、本体をアルミの塊から削り出して作るユニボディを採用したことにある。それにより、このアルミの巨大なパーツは、メインフレームと部品の組み付けのためのマウント、外装ボディを兼ねることになり、驚異的に高い剛性と、軽量化、設計のシンプル化を同時に成しえている。まさにユニボディは一石三鳥の設計なのだ。
CNC加工機によるアルミ削り出しといえば、レーシングマシンの強度部品などに使われる手法。高い剛性と正確な工作精度を得られるが、ゆっくりと削っていくため、長い加工時間(=生産コスト)がかかる、いわば高価な製造方法だ。樹脂成型にせよ、アルミのプレスにせよ、成形にはそれほどの時間はかからない。プレスなら数秒、樹脂成形なら数十秒だ。しかし、これだけ複雑なアルミの削り出しとなると相当な時間がかる。公開はされていないが、おそらく1個あたり数時間は必要だ。つまり、常識では、試作品やレース用部品などの単品制作の部材を作るための手法であって、量産製品の、しかも本体を作るような生産方法ではない。
しかし、それを実現するために、アップルは高価なCNC加工機を大量に買い揃え、それらを平行動作させることで、『量産品の本体をアルミ削り出しで作る』という奇跡を成し遂げているのだ。数千万台の生産が見込めるiPhoneだからこその、工業製品生産の常識を覆す製造手法だ。
金属成形で発生するわずかなサイズのばらつきや仕上げの美しさを追求した。金型を不要とする設計変更や修正への柔軟な対応なども考慮している。
ちなみに、この手法はiPhone 5で初めて用いられたわけではなく、これより前からMacBook Airでテストされていたようだ。我々は気がついていなかったが。以来、iPhone、iPad、MacBookシリーズなど、アップル製品のほとんどはこの『ユニボディ』の手法で作られている。
一体フレームとしての高剛性な造り、部品をマウントするネジ穴などの位置の正確さ、外装としての美しさ。すべてが、アルミユニボディの成果なのだ。
ちなみに、本体上下の部分は、塊から一度切断して、樹脂を挟んでから接着し、そこをアンテナとして利用している。このあたりは、4、4sで培われてきたノウハウだ。すき間の部分には薄いガラスパーツがはめ込まれており、これはあらかじめたくさんのパーツを作っておき、製造誤差が少ない部品をカメラによる映像処理で選択して、ピタリと合う部品を組み合わせて生産している。
機能として優れており、結果製品としても美しい。それぞれに革新を続けて来たiPhoneシリーズだが、とりわけiPhone 5は工業製品として、本当に歴史に残る傑作だろう。
大きな変更点はそれだけではない。画面サイズは従来の3.5インチ960×640から、4インチ1,136×640ピクセルに。画面の縦横比は初めて縦長になった。
データ通信ではLTEを採用。飛躍的に高速なデータ通信が可能になった。プロセッサーはアップルA6に。CPUを中心にさまざまなチップを集積して搭載するSoC(System on a Chip)を採用し、集積度を高めている。
iPodから連綿と採用されてきた30ピンのコネクターがついに変更され、方向を気にせずコンパクトでカッチリとハマるLightningコネクターが採用された。
あらゆる意味で、従来モデルの常識を覆し、さまざまな新しい要素を取り入れつつベストセラーとなったモデルとして、iPhone 5は、歴史に残る革命的製品としかいいようがない。
iPhone 5の中身を大公開!その細部に迫る
アンテナの仕切りと肩のダイヤモンドカット
絶縁のためのプラスチックパーツは、一度挟み込んでから、外側を切削加工で成形するという手の込んだ手法で成形。肩の部分はダイヤモンドでカットして磨いている。そのための加工工具を専用で用意した。
iPhone 5シリーズはこうやって作っている
樹脂を流し込んでひとつの部品に成型してから最終仕上加工を施すという大変手間がかかる製造方法を採用している。この後現在では一般的な製造手法になった。
縦長になったRetinaディスプレイ
グリップ感を損なわない縦長の画面。現行SEも同じサイズだから、もう6年も使われている傑作サイズということになる。
薄く大容量なバッテリーとロジックボード
本体がユニボディでシンプルになっているだけに、内蔵されているバッテリーとロジックボードもシンプルに配置される。
コネクター、スピーカーヘッドフォンジャックも
コネクターを30ピンからLightningに変更し、下部にスペースができ、ヘッドフォンジャックを下部に。回路を集積。
シンプルで美しくかつ高剛性な本体
iPhone 5の大成功は、このボディの生産方法の改革に拠るところが大きい。こうやって見ているだけでため息が出る。
斜めのネジ穴など、部品の3次元配置も可能
部品のマウントステー自体を削り出しで作れるので、内部構造に応じて、ネジ穴の位置も配置できる。金型を作らないため、不具合修正のための設計変更も、いつでも行える。
内部には一部アルマイトのない部分も
外に出ている部分はすべてアルマイト処理が施されているが、内部には一部アルマイトの施されていない部分がある。ボディアースなど、通電性を確保するためではないかと思われる。
ディスプレイ固定のステー
ディスプレイ側のパーツを受け止めるためのステーもネジ留めされる。CNC加工機で生産されているので、斜め向きのネジ穴なども自在に作れ特徴的な設計になっている。
ネジにネジを重ねることも
iPhone内部の限られたスペースを有効に使うために、ネジにネジを重ねるような組み付けを行う部分も多い。ネジ位置が同じなので、組立性が向上するということもありそうだ。
信号線の同軸ケーブルまで専用設計
大量に生産するので、専用部品を作ってもコスト増にならないのだろうか?この細長い部品は特殊なフラットタイプの同軸ケーブル。
ホームボタンはディスプレイ側に
4、4sの時代からトラブルが多かったのがホームボタン。5では従来と異なってディスプレイ側にボタンを設けて、さらに強度を向上させた。
カメラは800万画素に
iPhone 5にいたってカメラは800万画素となり、コンデジの性能に肉薄した。さらに、同じ形状のボディを使うSEには1,200万画素のカメラが搭載された。
スピーカーはより大型化
直径3.5mmのヘッドフォンジャックは本体上部から、下部に移動。ノイズ元であるアナログ回路を集約したいという意味もあったのだろう(左/iPhone 5、右/iPhone 4s)。
バイブレーターはさらに小型化
スペースの有無によって、大きくなったり、小さくなったりするバイブレーター。振動が他の部品に影響を及ぼす可能性があるので配置は慎重。
バッテリーはわずかに容量増
4sの1,430mAhに対して5は1,440mAhとわずかに増量。5sは1,560mAh、SEは1,624mAhと容量は増していっている(左/iPhone 5、右/iPhone 4s)。
iPhone 5 スペック
ポイント
1.アルミの塊から削り出し
2.LTE対応、800万画素カメラ
3.Lightningコネクター対応
スペック
・アルミ削り出し
・LTE
・1,136×640ピクセルディスプレイ
・16、32、64GBストレージ
・800万画素背面カメラ
・120万画素前面カメラ
・112g
・123.8×58.6×7.6mm
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- CREDIT :
-
TEXT:霜田憲一、村上タクタ、安井克至/PHOTO:アラタジュン、樋口勇一郎、渕本智信、木村真一
SPECIAL THANKS:霜田憲一
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