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海洋プラスチック問題の解決に向けて活動 WWFのゴーストギア調査とは 

アウトドアを楽しむ人にとって、自然環境の保護は言うまでもなく重要なテーマです。アクティビティを通して多くの自然に触れる人たちに環境のことをもっと知ってほしい。FUNQではサステイナビリティに焦点を当てた記事を配信していきます。

近年、海洋汚染の一因として注目される「ゴーストギア」について、WWF(世界自然保護基金)ジャパンが調査活動を行っています。

調査を行うWWFジャパンの浅井総一郎さんに活動の現状と、海洋汚染の問題を解決するためのヒントについて話を聞きました。

海洋汚染の一因 ゴーストギアとは

聞き馴染みのない「ゴーストギア」という言葉、具体的には何を指しているのでしょうか。

ゴーストギアとは、漁具や漁網などの漁業用資材が意図せずに海洋に流出したものを指します。正式な呼称は「ALDFG(Abandoned, Lost, Discard Fishing Gear)= 放棄、逸失、もしくは投棄された漁具」です。

ゴーストギアが発生する原因は様々で、漁業者が廃棄したケースもありますが、事故や天候などによる流出も多いんです。例えば、大型船が漁網や養殖筏に接触して流出させてしまったり、夜間の天候や潮の急変で漁具が流されたりしてしまうこともあります。(浅井さん)

WWFジャパン 浅井総一郎さん

影響は世界中で深刻化しています。

年間64万~115万トンもの漁具が、海洋に流出していると推定されていて、そのほとんどがプラスチックでできているとされています。

プラスチックが自然に分解しない、その丈夫さゆえに、いつまでも海を漂いながら、魚や海鳥などをはじめとするさまざまな生物が絡まり、その多くは死に至ります。さらにはこうして死亡した生物にほかの捕食生物が集まるという連鎖が起こり、海洋生態系に影響を及ぼす大きな原因になっています。

 

影響は漁業にも及ぶ

影響は漁業者にも及びます。

ゴーストギアが放置されると、水産物や海洋生物への被害が生じます。ゴーストギアに引っかかって死んでしまう魚の数は年間70万~180万匹(かご漁具の場合、鹿児島県北部エリアの推計)に上るとの試算もあります。本来、漁業者の水揚げになるものが失われるだけでなく、漂流するロープなどがスクリューに絡まる等の被害も発生しています。このため、漁具が海に流されないようにする予防対策に加え、流出してしまったゴーストギアの回収対策にも力を入れる必要があリます。(浅井さん)

始まったWWFジャパンによる実態調査

日本では、環境保全団体のWWFジャパンが去年(2023年)から静岡県伊東市と西伊豆町で実態調査を開始しました。2026年9月までに7カ所で調査を行う計画です。

2023年9月の西伊豆での第1回調査時 (写真提供:WWFジャパン)

調査は、日本安全潜水教育協会の協力を得て、ダイバーによる実地調査で行われます。調査には危険が伴うため、ベテランダイバーが担当します。釣り糸などに引っかかると本当に危険度が高く、絡まるとパニックになってしまいます。なので、ベテランでないとなかなか難しい調査になります。(浅井さん)

調査地の選定では、海岸漂着ごみの多い場所や漁業が活発な場所、釣りスポットなど、場所ごとの特性を考慮しているということです。

調査には漁業者の理解が求められる

調査には地元の漁業者の理解が必要です。

「流出した漁具を調査する」と言うとどうしても漁業者に誤解をされてしまうというのが、大きな課題の一つ。

自治体や漁協の了解が必要なため、事前に調整を重ねていますが、漁業者は『自分たちを犯人扱いするのか』と身構える可能性があり、丁寧な説明が求められます。

ゴーストギアの問題は単純な漁業者の責任というわけではありません。大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システム全体が要因となっており、プラスチック製造業者や消費者など、さまざまなステークホルダーが関係しています。私たちは今、スーパーで簡単に魚の切り身を買えますよね。消費者に大量販売するために、流通は大量に魚を仕入れ、漁業者は大量に魚を獲るために効率的なプラスチック漁具を使う。大量生産、大量消費の仕組みから逃れられない構造になっているんです。(浅井さん)

漁具が流出する原因についても、大型船が漁船の魚網を引っかけて切断してしまうなど事故や天候などによる流出も多く漁業者自身も被害者の立場にあり、必ずしも故意に流出させているわけではないそうです。

フィリピン・パラワン島のスールー海トゥバタハ岩礁で、サンゴ礁を破壊するゴーストギアを取り除くダイバー © Jürgen Freund WWF
海底で見つかったゴーストギアに甲殻類などが絡まっている様子 © Fredrik Myhre _ WWF Norway

サプライチェーン全体での取り組みが必要

では、対策はどうしていけばいいのでしょうか。

現在の漁具は素材が複雑に組み合わさっているため、リサイクルが困難になっています。例えば、漁具の素材メーカーが、リサイクルしやすい素材の開発に注力していかないといけませんし、今度は漁具のメーカーは、リサイクルをする前提で漁具を設計しなきゃいけない。それを使った漁業者さんは、分別などに協力していかなきゃいけないし、さらに、産廃事業者さんだとか、リサイクル事業者さんが協力していかなきゃいけないっていうところです。要はサプライチェーン全体で解決していかないといけない問題ということです。既に、大手魚網メーカー3社が連携してリサイクルの仕組み作りに動き出しているなど、対策が始まりつつあります。(浅井さん)

浅井総一郎さん(WWFジャパン 自然保護室海洋水産グループ 海洋プラスチックごみ担当オフィサー)

想像は難しい それでも知っておきたい

ゴーストギアの問題は単純化できない複雑な課題で、多くのステークホルダーが関与していることがわかっていただけたかと思います。その問題は、漁業者だけでなく、消費者一人ひとりの行動が影響を及ぼすということです。

回収対策に加えて、予防対策として、サステナブルな設計や消費行動の見直しなど、幅広い取り組みが必要不可欠です。

私たちの日々の行動が、どう海洋汚染につながっていくか、なかなか想像するのは難しいことかもしれません。だからこそアウトドアを愛する私たちも知っておきたい話です。

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