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港に放置、海に廃棄される漁網をリサイクルし、アウトドアウエアに!

アウトドアウエアに使用される素材は、長く石油由来の化学繊維が中心となってきた。しかし近年は欧米ブランドを中心に、地球環境へのダメージを軽減させた素材、リサイクル素材を採用したウエア開発が行なわれている。

数多くのアウトドアブランドを中心に素材提供しているPERTEX(以下、パーテックス)も、そんな素材メーカーのひとつだ。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」によって目指す開発目標を実現するアクションを実施している。リサクル素材の活用、原料を部分的にバイオベース化することや、糸の生成時に着色することによる大幅な節水、環境に悪影響のあるフッ素由来の撥水剤不使用等が挙げられる。

さらに2024年秋冬アイテムから提供開始で注目されている素材もある。
港に放置されたり、海に廃棄されたりした漁網をリサイクルするナイロン素材、PERTEX NetPlus(以下パーテックスネットプラス)だ。

編集◉PEAKS編集部
文◉ポンチョ Text by PONCHO
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami

 

▲右がブレオ社CTOのケビン・アーハーン氏。左がパーテックス担当。

パーテックス社は、2013年から南米チリを中心に漁網リサイクルを手掛けているアメリカのスタートアップ企業Bureo社(以下ブレオ)と連携。リサイクル素材のパーテックスネットプラスを開発した。

今回、連携するブレオ社の創業メンバーのひとり、CTOのケビン・アーハーン氏に、ネットプラス事業の経緯、そして今後の展開について、話を聞くことができた。
創業メンバーは、いずれもサーフィン仲間。ある日、普段入っていた海のプラスチックによる汚染を体感した。「自分たちで少しでも改善したい」という想いを持っていたという。

 

廃棄すれば環境を壊すゴミ、回収すれば資源となる魚網。

WWFジャパンのサイト(https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4452.html)によれば、海洋に流出しているプラスチック類は、1年間で推定1,100万トンにものぼる。そのうち廃棄、流出した漁具は50万トンから100万トン。それらは海洋プラスチックとなって海を汚すだけでなく、海洋生物が漁網に掛かる悪影響も及ぼすと言われている。

 

「創業者のひとり、ノースイースタン大学でサスティナブルの研究を行なっていたエンジニアのベン・ネッパーズが、ナイロンでできている漁網を回収、リサイクルして再びナイロン素材にすることが可能だと知りました。そこで海が汚される原因を少しでも改善したいと考えた私たちは、チリ政府のスタートアップ向けの助成金を受けられることになり、まずチリで事業を立ち上げました」

 

▲現在では南米を中心に6カ国、50の漁業コミュニティと連携。廃棄される漁網の回収、洗浄、裁断、出荷を行ない、アジアの工場でナイロンの粒子状樹脂のペレットへ、そしてナイロン糸にリサイクルしているという。

廃棄することが長く当たり前だった漁網を、回収、リサイクルすることで再びウエア等の製品になることを漁師に伝え、理解、協力してもらうには時間と根気が必要だったようだ。

「元々、漁網は麻でできていたんです。だから以前は漁網を廃棄しても自然分解されるので問題にはならなかった。それが1980年代ごろからナイロン製に替わり、分解されない素材になった。でも、廃棄することは変わらなかった。しかし実際に回収した漁網からできた製品を確認、副収入も得られることがわかると、次第に協力してくれる漁業コミュニティが増えていきました」

廃棄された漁網が海洋資源に悪影響を及ぼし、漁獲量が減っていることに、恐らく漁師たちも考えるところがあったのだろう。

 

▲ブレオ社による2013年の漁網の回収量は約5トン。それが2022年には1,200トンまで増え、2023年は1,500トンを予定しているという。しかしケビン氏は、まだまだ回収量は少ないと考えている。

「年間1,500トンは、世界で1年間に生産される漁網の量の1%にすぎません。先進国の多くは使わなくなった漁網を埋め立て、それ以外の国では焼却、またはそのまま廃棄しているのが現状です」

「不幸中の幸いだけれども、漁業は世界中で行なわれています。だから漁網は世界中に大量にあります。それらを回収、洗浄、裁断するインフラさえ整えれば、ゴミを資源にすることができるんです」

回収、リサイクルして再びナイロンとして使える漁網は、使えなくなったらゴミなのではない。漁網は資源になるという事実を、海洋環境を守るために世界中の漁業関係者が知ることが必要といえる。

リサイクル素材の課題を克服、バージンナイロン同等に。

▲パーテックスクァンタムを使用した商品に付くハングタグと、ネットプラス採用品番に付く織ネーム。

先に書いたとおり、パーテックスネットプラスのナイロン製品は、2024年の秋冬から販売が始まる。世界的に高まっている「いかに地球資源を効率化するか」への答えのひとつである、ブレオ社のネットプラス活動にパーテックスは深く共鳴。そして、ユーザー・環境・企業ともにメリットを享受できるこの活動を、広く展開するために両者はタッグを組んだ。

「2014年から支援を受けているパタゴニアでは、主にキャップのツバやバギーズショーツにネットプラスのリサイクルナイロンが使用されてきました。2022年からはマイクロパフシリーズなどの高機能ウエアにもネットプラスが使われています」

ケビン氏はあっさりと、そう教えてくれたが、この違いはじつは大きい。キャップのツバやバギーズショーツに使用されたリサイクルナイロンは、品質や強度がバージンナイロンほどではなかった。これは、メカニカルリサイクルと呼ばれる方法を用いたナイロンで、高温で解かし再利用できる形にしているが、不純物や汚染物質を完璧に取り除くことができていない素材だった。

 

▲回収された漁網は洗浄工程を経て、バージンナイロンの原料と同等のものまで分解されていく。そしてその原料は、サプライチェーンを100%追跡可能なものになるという。

そこでさらに高品質なリサイクル素材とするため、リサイクル前の漁網をしっかりと洗浄。不純物や汚染物質をしっかり取り除いて、さらにケミカ・リサイクルという手法を採用。漁網を化学的に分子レベルまで戻し、樹脂原料へと作り直すことで、石油由来のバージンナイロン同等の品質、機能を備えたものになった。

リサイクル素材は、バージン素材と比べて品質が劣ることが、アパレルブランドの多くがそれを採用しないことの理由のひとつだった。しかし、ケミカルリサイクルのナイロンは、その課題は克服したものなのだ。

パーテックスネットプラスは、製造時にも環境負荷が低い。

「ケミカルリサクルした素材パーテックスネットプラスは、バージンナイロン製造と比較して、使用する石油、電気、水を約70%減、温室効果ガスの排出量も20%削減しています」

さらに驚いたのが、そのリサイクル率、85%という数値だ。パーテックスネットプラスに使用されるリサイクルナイロンは、1kgの漁網から850gも生産できているという。15%分は不純物で、染料や塩分、砂など。漁網に使われるナイロン自体は、ほぼリサイクルできるという。

バージンナイロンを製造するよりも資源をムダにせず、回収した漁網をほぼ高品質なナイロンへと戻せる。

パーテックス社は、高品質でムダのないリサイクル素材に、これからの時代に活用されるべき可能性を感じ、ブレオ社と連携を決めた。

バージンナイロンを製造するよりも資源をムダにせず、回収した漁網をほぼ高品質なナイロンへと戻せる。
ネットプラスのこのリサイクルナイロンを多くのブランドが使えば、海に廃棄される漁網は減り、海はきれいになる。よいことしか、ない!

ユーザーは求めるモノを変える。そして・・・・・・

▲漁網回収に協力してくれる漁業コミュニティへは、生活の質を向上できるよう非営利団体を通じて還元している。それらの寄付は、学校へのソーラーパネル設置や生活水の浄水などに使われている。

残る課題は販売価格のみ。バージンナイロンに比べて、リサイクルナイロンは割高なのが現状。機能が同じであれば、価格の安いほうを選ぶのが賢い消費者という考え方が根強い。

これは私たちユーザーの課題といえる。とくに、山という自然の豊かさを享受している登山者、ハイカーが選ぶべきは、明白だ。

しかしこの循環の波は、すでに大きな波になってきている。

 

▲2020〜2021年はコロナ禍の影響で活動が滞っていたが、今後5年で漁網の年間回収量5,000トンを目指すとケビン氏は語る。

バーテックスは、2024年から極薄、軽量で防風性にすぐれるQUANTUM(クァンタム)に、このパーテックスネットプラスを採用する。その製品は、多くの有名アウトドアブランドから発売されるという。

また順次、他カテゴリーの素材をパーテックスネットプラスに変更していく予定だ。

ところでネットプラス事業を手掛けるブレオ社の社名は、チリの先住民の言葉で「波」を意味する。その名のとおり、パーテックス社とブレオ社が手を組んだパーテックスネットプラスは、これからの地球環境、海洋環境を守るために大きな波となって広がっていくだろう。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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