銀さん|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #43
高橋広平
- 2024年12月23日
12月中旬に静岡市主催のイベント「南アルプスユネスコエコパーク10周年記念大会」で写真展をさせていただいた。今回はキャッチーな「動画コーナー」に始まり、ライチョウの生きものとしての解像度を上げるために「こがねさんと銀さん」、通年の生活史を表現した「四季を纏う神の鳥」という3つのブースで展開してみたのだが、これが大変好評を博すことになった。来年の企画展にもこの経験を活かし、来場されるみなさまの期待に応えていきたいと思う。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
銀さん
上記イベントにて大活躍した「こがねさんと銀さん」。今回は第15回で紹介した「こがねさん」の連れ合いである「銀さん」を厳冬期に撮影したときの話をしようと思う。
繁殖期の4月〜6月は番いですごすライチョウも、子育て中は別々にすごし、秋にいったんいくつかのファミリーで群れるものの、厳冬期はオスメスそれぞれで群れを成してすごすことが多い(まれに番いで冬を越す個体もいる)。こがねさんと銀さんも、他の多くの個体と同様に厳冬期は離れて暮らしていた。繁殖期後は秋群れのタイミングで近隣の住民(ライチョウ)と一時混然一体となっているはずなので、顔を合わせる機会もあったと思うのだが、ふたりは例外的な選択はしなかったようだ。
銀さんを始めとするオスたちは、群れを成しているといっても一日中いっしょにいるわけではない。私が調べた範疇では朝と夕に集団行動をする傾向にあり、その他の時間帯では無雪期と同様、各個体が独自の生活をしていることが多い。彼らが定期的に集団化するのは日ごろの情報交換と地域間での生存確認のため、というのが私の見立てだが、群れに所属するしないの基準に関しては、彼らに直接聞いてみなければわからない話ではある。ちなみに私のいうところの「群れ」は3羽以上の集団を指していて、2024年現在、厳冬期に出会った群れのなかでは10羽が最大である。
ある日の薄暗いフィールド、荒れ狂う吹雪のなかにたたずむ1羽のオスライチョウを見つけた。懐からカメラを取り出したまではいいが、とてつもない地吹雪でレンズフードの内側にもどんどん雪が張り付いてくる。風に背を向け、体を壁にしてレンズフードの雪を取り除きつつ構図の良きところへ膝ほどの高さの雪を漕いでいく。
体温と外気温の差でじわじわとゴーグルが曇り視界が狭まってくる。曇り止めをしているにもかかわらず2時間もすれば使い物にならなくなる環境といえば想像がつくだろうか。天候が荒れるであろう日に突撃する際には複数個のゴーグルを持っていくのだが、付け替えでミスると瞬く間に雪まみれになって使えなくなる。居るだけでも大変な状況だが、そこにライチョウがいる限りシャッターを切らずには終われないのが雷鳥写真家のサガである。
今回の一枚は、越冬中に独りたたずんでいた銀さんを捉えたものである。
春の再会を約束しつつ、離れて暮らす妻を想っているのか彼の胸中は彼のみぞ知るのだが、撮影したときの大変さも相まってなんともいえずこの一枚が私のなかで印象深い。
今週のアザーカット
この写真は冒頭で紹介した静岡での写真展のようすです
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PROFILE
PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家
高橋広平
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo