
ふんわりファーをまとった森ガール「ワタスゲ」

成清 陽
- 2025年05月28日
INDEX
登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
足早というよりも、猛ダッシュで春が過ぎゆく、今日このごろ。今春の花は約1週間遅れているな……とタカをくくっていたら、標高1,200mでも汗が止まらぬ蒸し暑さ。ヤマシャクヤクはすでに開花が終わり、新緑アフターの様相です。しかし今回ご紹介するのは、ちょうど今頃、まだ残雪があるはずの湿原を彩る、このお花。みんな大好き、ワタスゲさんです!!
これぞトップアイドル
「うわぁ~!!」。6月上中旬の尾瀬では、めちゃんこ多くの人が、こうした声を上げるハズ。ひねくれものの筆者でさえ、いつもこの群落に出くわすと、大感動。人に聞こえないように「おお~」とカの鳴くような声を出しています(素直じゃないんです)。どれほどの登山者がこのワタスゲを好むかというと、“みんな大好きドラえもん”レベル(推定)。最上級の人気者、あと少しで湿原に降臨いたします!!
Data
ワタスゲ(カヤツリグサ科)
一般的な花期:5月~6月
主な生育場所:亜高山の湿地(高層湿原)
人気が出る前の姿とは
ところで、ところで。すでにご存じの読者も多いかと思いますが、白く高貴なお姿は、“お花”にあらず。デビュー前のスクープ写真(!)が、こちらなんです。尖った試験管ブラシ状の穂に、低身長……これが、白い綿毛をまとう、たった1ヶ月前の姿とは思えませんっ。この姿が見られるのは、早春限定。目を皿のようにして湿原を探すと出会えるかもですが、結構、難易度高めです。レッツトライ!
花が終わると一転、高身長に
そして、短い花期を終えると、鮮やかな「変わり身の術」(花穂→果穂)をするワケなんですが、ここで変わるのは、白い綿毛が出てくるだけではありません。これ、タンポポを代表とする、種を飛ばしたい植物あるあるですが、ワタスゲは約10cm以下→60cmほどまで、超劇的に背を伸ばします。しかも、カヤツリグサならではの頑丈な花茎は、ピーン!と直立。だからこそ、湿原でひときわ目立つようになるんです。
ふわふわファーは脱げません!
そして、この綿毛の大きな特色が、もうひとつ。タンポポみたいに、風に乗ってふわふわ~っと……舞っていかない!! それゆえに、大群落ともなると、綿毛姿で風に揺れる光景は圧巻、池塘の水面に映る姿は、あまりに優雅。映えまくりの湿原を演出します。この風景にたどりつくハードルがひとつあるとするなら、果穂のピークが梅雨時期であること。天候とのマッチングが、ある意味いちばん難しいかも。
それでは皆さん、また来年♡
白い果穂が風に乗って広がる、ワタスゲ。こうなってしまうと探しづらくなりますが、見てみると出し尽くした感満載のお姿に。しっかしこちらもまた、人気の秘訣のような気がしてしまうから、フシギです。そう、花が発見しづらいので、ある日突然、湿原を白銀に染め上げ、そして「さらば」とばかりに、すぅっと消えていく……。この引き際の良さに、「今年も見たい!」とそそられてしまうのでしょう!!

さてさて、今回ご紹介してきた、ワタスゲ。その生態を魅力(アイロニー)たっぷりに紹介する本連載の趣旨(そうなのか?)が浄化されてしまうほど、この植物は魅力的です。この素敵な大湿原を見るなら、やっぱり尾瀬がオススメ。もし山行が7月に食い込んでしまうようなら、熊沢田代(燧ヶ岳の山中)を目指してください。私も、今年こそ学生時代に見かけた、日本随一のワタスゲ畑に、再会したいと思っています!
それでは、また。
皆様のココロに、素敵な花が咲き誇りますように。
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