
マッシュルームカットな貴婦人「ヤマシャクヤク」│植物ライター・成清 陽のヤマノハナ手帖 #47

成清 陽
- 2025年06月28日
INDEX
登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
「梅雨っていってもこの蒸し暑さ、異常気象だよね~」。つい異常って言葉を使ってしまいますが、毎年聞くなら、“通常”。もはやこれがフツーになっちゃいそうで、コワイ今日このごろです(マジ汗)。さてそんな梅雨真っ盛りですが、すなわち花盛りなう。うっかり尾瀬や八ヶ岳に思いを馳せれば、口角からヨダレがたらり、もう放心状態です(※筆者特有の症状です)。さて、そんな今回は、そんな垂涎も引っ込む、素敵な貴婦人をご紹介させていただきましょう!
あのことわざは、正しいのか
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」。昔の日本人は、理想的な女性の姿をお花にたとえたといいます。そして私、小さな頃から母に姿勢を正されるたびに、この教えを囁かれていました(♂ですケド)。ちなみに、芍薬も牡丹もボタン科ボタン属ですが、芍薬は「すっと伸びる樹木」、対して牡丹は「枝分かれする植物」。ですので、ヤマシャクヤクさんは樹木だよね…と思ったら、なぜか草(草本。いわゆる樹木以外の植物のこと)。誰やねん命名者ぁ(怒)!
Data
ヤマシャクヤク(ボタン科)
一般的な花期:5月~6月
主な生育場所:山地の林内
アフロヘアー?マッシュルームカット!?
なお、同ことわざの真意は「気が立っている女性に芍薬をもちいる」、「座ってばかりいて血流が滞っている人には牡丹の根茎をもちいる」という、漢方の知恵。姿勢のことばかり言うの誰?うちの母親か!…と梅雨特有のイライラは尽きませんが、とにかく人気があるヤマシャクヤクさん。その最たる魅力は、ふんわりまんまる、マッシュルームカットのようなお花。まあるくって、真っ白。その愛嬌には、人気モノ要素が詰まっていますね。
心配される絶滅。そのワケは……
丸くて可愛らしい花やツボミ、そして彫りが深いながらもどこか端正な葉っぱ。ある意味、とっても模範的な姿かたちをしている彼らは、準絶滅危惧種。で、理由を調べてみると出てくるキーワードは、森林開発と採取圧。「ねえ、こんな森もういらないから、街にしちゃお」みたいな会話に対し、「オカネと見栄ばかり追い求めるニンゲン、恥を知るざます!」っていうヤマシャクヤク婦人のお叱りが聞こえてきそう。
どんな美人にも等しく来たる終焉
ほれ、開発やら盗掘やらに勤しむニンゲンが多いから、なんかお下品な姿になっちゃったじゃん!…と批難されそうな写真ですが、これは「ただの花終盤」。どんな花も、ピークを過ぎると老化の色がハッキリ。開くの、開かないの?ああもうどっち!?とじれったくなるほど奥ゆかしかったヤマシャクヤクも、気高きおばあちゃまへ。いやこの写真だともう少し前(旦那の悪口で盛り上がる、昼ドラ大好きおばちゃんくらい)かも?
花と似つかわしくない、果実の姿
こちらは、ヤマシャクヤクさんのお花が終わって、間もないころ。良く見ると、お花の中心にあった雌しべだけ残って、ふくらんだのがわかります。が、突然見たら何の実だかわからないハズ。さらにこちら、赤くザクロのように熟していくという、気になる情報もあるのです!もしご興味を持てたなら⋯⋯貴婦人咲く山をリサーチして、真夏に訪問してあげてくださいね~。きっと、その生育地は素敵な豪邸(素晴らしい森)ですから!
さてさて、今回ご紹介してきた、ヤマシャクヤク。美しい花はだいたい希少というのが植物界の常識?ですが、その分布域は広く、北海道から九州の山地に生育するという、驚きの間口の広さも特徴のひとつ。そして、何より群生地が意外と多い!関東や四国、山陰まであるようですので、ぜひぜひ探してみてください。
それでは、また。
皆様のココロに、素敵な花が咲き誇りますように。
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