イラストエッセイスト・松鳥むうの「山のふもとのゲストハウス案内」#8 ゲストハウスたみ(鳥取県湯梨浜町)
ランドネ 編集部
- 2022年05月07日
その土地の暮らしに寄り添いながら、訪れた旅人を優しく迎え入れてくれる宿、ゲストハウス。全国各地に点在するゲストハウスを100軒以上訪ねてきた、イラストエッセイストの松鳥むうさんが、山歩きの拠点にもおすすめのゲストハウスを紹介する連載。8軒目は、鳥取県湯梨浜町の静かで懐かしい温泉街にたたずむ「ゲストハウスたみ」です。
ネット社会に現れない「秘境」
「今はネットでなんでも見れるから、世界から秘境がなくなっちゃったよね」
まだ、デジカメがなかった時代から世界中を旅してきた友人のひとことにハッとした。
世界中の多くの人々が、日々、スマホを持ち歩き、ネットに気軽に写真をupするコトで、世界の隅々までが見えてしまう現在。さらに、ドローンが登場し、人が分け入らない場所ですらもネット上で知るコトが可能になってしまった。
そんな時代において、いまだ「秘境」の場所がある。
鳥取県湯梨浜町の静かでレトロな温泉街の片隅にたたずむ「ゲストハウスたみ」だ。
JR山陰本線松崎駅から徒歩約3分。1階はゲストハウスとカフェスペース。2階はシェアハウスになっており、宿のヘルパーさんや大学生たちが住んでいる。宿というよりレトロな寮みたいな外観とエントランスだと思ったら、その昔、鉄道会社の社員寮だった建物らしい。
▲「たみ」がある町は、懐かしい雰囲気満載の温泉の町
「たみ」には、大切なお約束事がひとつある。
それは「館内の写真撮影禁止」というコト。
インスタ映えがもてはやされるこの時代に?もしかして、小難しい宿主なんだろうか?そんな思いが過るかもしれない。が、「撮影禁止」には「たみ」のこんな想いが詰まっている。
「旅や移動の間くらいは、ネットやカメラではなく、人間の身体を存分に使って、写真意外の方法でたみでの思い出を心に残してほしい」
▲シンプルだけど、とても印象に残る「たみ」のShopカード。奥の「Y Pub&Hostel」」は鳥取市内にある「たみ」の姉妹宿。コチラは館内撮影OK
実際、私が過ごした「たみ」での一夜は、やたらと鮮明に今でも思い出せるのだ。
鯨好きのほわほわとした文学少女風でゲストハウス泊は初めてという女性と、常連さんで自然薯が大好き過ぎるお兄さんと、併設のカフェのカウンターでカフェオリジナルのスパイスカレーを食べながら話したな~。店内はリノベーションされていて、肌触りのいい木のテーブルとカウンター、オレンジ色の優しい照明が、静かでレトロな町の雰囲気と相まって、穏やかな空気が流れていたな。カフェが24時で閉まった後も、キッチンの共有スペースに場所を移して、「自然薯を広めるためには!」談義も何故かしたな~とか(笑)。まるで、自分の脳内に映写機が搭載されているかのようだ。
もちろん、彼らとの写真は1枚も残っていない。けれど、写真を撮るという行為に気もちとパワーを割かない分、お互いの話を耳で聴き、話しぶりや室内の景色を視覚に記憶し、少し灯りをおとした室内の空気を肌で感じるコトに自分の感覚が集まっていたのだと、年月を経るごとにより一層感じ入る。
犬のおとうさん
そうそう。キッチンで話していた時、身体をすっぽりストールで包んでいたら、背後からググッとストールを強く引っ張られた。ストールの先の暗闇には、大きな白い毛むくじゃらの生物が……!物音ひとつしなかったので、全然気が付かなかったけれど、そこは、「たみ」の看板犬「おとうさん」の定位置だったのだ。
その後も、一言も鳴き声を発せず、しかし、ストールは喜んでグイグイ引っ張るおとうさん(遊んでほしいらしい)。寒いのでストールを返してほしい私。おとうさんをなだめてストールを奪還しようとしてくれる自然薯LOVE兄さん。そんなたわいない真夜中の攻防戦も、鮮明な映像として私の中にある。
▲宿からすぐの銭湯「寿湯」。通って良いのか迷うほどの細い路地を抜けたところにある。看板もない。が、源泉かけ流しの温泉で、秘湯マニアには有名だとか!
携帯電話がない時代を知っている人には、その昔、自分が自然と行っていた五感の使い方を思い出す時間になるかもしれない。
物心ついた時には、すでにスマホがあった世代の人にとっては、新しい感覚の世界を知る場所になるかもしれない。
写真という画像には残らない。でも、記憶という映像には、不思議と残る。そんな思い出の作り方を、一夜でいいからしてみませんか?
ゲストハウスたみ
宿泊料金:ドミトリー(素泊まり)3,100円、個室(素泊まり)4,300円/1名、8,000円/2名、10,800円/3名、14,000円/4名、17,500円/5名、21,000円/6名
TEL:0858-41-2026(平日/7:00~10:00、17:00~22:00、土日/7:00~22:00)
カフェラウンジ:宿泊者以外も利用可
平日/7:00~10:00、18:00~22:00
土日(祝日は含まず)/7:00~22:00
定休日:月、火、水曜日
たみを拠点に歩きたい、大山
大山の主峰・弥山は標高1,709mで、中国地方最高峰。明治時代まで山岳仏教の霊場として入山が禁止されていたため、いまも手つかずの大自然が残る。天気に恵まれた日には、日本海や弓ケ浜半島、中海などを望むことができ、壮大な景観を満喫できる。上級者向けコースと初級者向けコースがあるので、レベルに合った計画を立てよう。
松鳥むう(まつとり むう)
イラストエッセイスト。離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。訪れた日本の島は113島。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)、『初めてのひとり旅』(エイ出版社)等。Podcast&Radiotalk はじめました。
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Radiotalk→https://radiotalk.jp/program/65843
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PROFILE
ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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