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モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#05 もみじのてがみ

季節の移ろいを教えてくれる
山のなかの赤い色

9月。味わい切れなかった夏山をまだ楽しむつもりで山に出かけると、少し上のほうではすでに秋が始まっていて、毎年のように慌てます。そんな季節の移り変わりを教えてくれるのはいつだって、赤い色。

たとえば、ナナカマドの黄味がかった赤の葉。槍ヶ岳を目指す表銀座縦走で、中房温泉から歩き始めてすぐ出迎えてくれたのが、紅葉の始まったナナカマドでした。もう夏は終わるんだ……そう思うと、待ち受ける挑戦を成し遂げたい気持ちが、静かに高ぶったのを覚えています。これ以上ないくらいの快晴に万年雪が涼しげに輝く鳥海山で、風に揺れていたのはワレモコウの深い赤。秋が来ているんだな、と澄み切った空気を改めて胸に吸い込んで、その気配を感じました。

山に秋の赤があふれるころにはもう、冬の足音が聞こえてきます。10月の八甲田山、ツルリンドウの赤紫の実が飾る登山道をたどって目指した山頂には、数日前の初雪がそっと輝いていました。紅葉を楽しむつもりで訪れた11月のくじゅう連山は、ひと晩で雪景色に。霧氷に包まれ戸惑ったようなコケモモの赤い実が、真っ白な景色のなかで小さく震えているのを、あっけに取られて見つめるしかありませんでした。

八甲田にある蔦七沼のひとつ、赤沼。色づく山が神秘的な透明度の水に映される。残りの六つから離れているのでひと気はなく、移りゆく季節に静かにじっくり浸れる。ちなみにこれはカエデ!

 

絵本『もみじのてがみ』でも、赤いモミジを見た山の動物たちは口々にこう言います。「あ! もみじの てがみ ゆき ふるの?」。秋を彩るモミジは、すぐそこに冬がきていることを教えてくれているのです。

絵本で動物たちが見つけ出す山の赤はさまざま。きのこ、ツバキ、ガマズミの実……。「あそこ あそこ あかいよ」とくり返されるページは、山歩きの最中にパッと赤色が目に飛び込んでくるあの瞬間をはっきりと思い出させ、作家であるきくちちきさんの、自由で大胆でありながらリアルに自然を写し取る確かな画力に、惚れ惚れします。

真っ赤に染まった山を眺め、「もみじの てがみ ありがとう おしえてくれて ありがとう」と、雪支度に入る動物たちにとって、冬はどんな季節なのでしょう。寒く、厳しく、けれど再び芽吹くために、なくてはならない冬。その訪れを告げる赤い色を、どんな気持ちで見ているのでしょうか。私のように山に訪れる者と、山に住まう者とでは、きっと秋の赤の意味は違うのだろうなと思います。

 

 

 

もみじのてがみ
(きくちちき・著/小峰書店)
大きな窓から山々が見えるアトリエで作品を生み出す、きくちちきさん。北海道出身で動植物に囲まれて育ったそう。冬の訪れを描く「ゆき」も併せて読んでほしい

 

モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの11年目。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。新著『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』(小社刊)が発売!

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PROFILE

仲川 希良

ランドネ / モデル/フィールドナビゲーター

仲川 希良

テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの14年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

仲川 希良の記事一覧

テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの14年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』

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