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アウトドアスタイル・クリエイター四角友里さんの歩く、田辺の魅力【#2】表情の異なる地元の愛され山

山、海、町、食、そして人。南紀白浜空港から、車で30分ほどの立地にある和歌山県田辺市は、旅のきっかけを見つけるには充分すぎるほどの魅力にあふれる場所。この田辺を、山や自然を愛する人が旅をするなら――。そんな目線で、登山靴を履き、バックパックひとつを背負って”田辺時間”をすごした四角友里さん。たくさんの山と町を歩き、心を動かしてきた友里さんが見つけた田辺の魅力を、お届けします。

【#1】ここにしかない山と町の風景
【#3】熊野古道・中辺路
【#4】何度も訪れたいふもとの町
【#5】田辺で暮らす人の思い出が宿るお菓子

ふもとの町を一望する、田辺の「高尾山」

廃校になった小学校の木造校舎を利用した施設「秋津野ガルテン」を訪れたとき、壁に掲げられた校歌の歌詞に見つけた高尾山(たかおやま)の文字。熊野古道の玄関口という印象が大きい田辺だが、町のシンボルである里山にも、ぜひ登ってみたいと思うきっかけを与えてくれた。

奇絶峡からの不動の滝、巨大な一枚岩に刻まれた磨崖三尊大石仏を眺めたら、高尾山(標高606m)への登りがスタート。温暖な海辺の町ならではのシダが茂る道は、「けっこうしんどいよ」と聞いていただけあり、なかなかの急坂。

ちょうど息があがってきたころに、目に入ってきたのは「チョット♡ 一休み♡」というなんともカワイイ看板。オレンジ色の板が緑の針金でくくられていて、これって、みかん配色!? よく見ると手作りのベンチもあって、きっと地元の方が、自分たちの大切な山を訪れる人のために作ってくれたもの。高尾山が、地元の方々に愛されていることが伝わってきて、看板に込められた愛情とやさしさに一気に疲れが吹き飛び、感謝の気持ちとともに、ベンチに座ってみかんを食べた。

そこからは順調に尾根道を進み、視界が開けると、田辺湾が一望でき「海だっ!!」と興奮して声がでる。昼食とおやつタイムはスカイパークで。会津川が町の中を流れ、光を浴びてきらめく海へそそぐようすが見える。

高尾山からの眺望には、ふたつの景色がある。ひとつはスカイパークからの市街地と海の景色。もうひとつは東展望台からの紀伊山地。この東展望台には、突如、砂浜のような砂礫地が広がり、それゆえ、紀伊山地が森の海に見えてくる。奥に奥にと続く山々が、まるでさざ波のように。そう背の高くない山の連なりがぎゅっと詰まっている姿はやはり独特で、熊野古道はこの山深い谷を進んでいくのかと思うと、ロマンがある。

町の魅力を色濃く映し出し、登ることでその土地をまるごと知れるような里山。高尾山は田辺の方たちのホームマウンテンに違いない。ミシュラン三つ星の東京の高尾山もすごいけれど、田辺の高尾山にも、わざわざ東京から訪れるだけの価値がある。

コース(歩行時間/約3時間45分):奇絶峡~(約15分)~摩崖三尊大石仏~(約1時間20分)~高尾山~(約10分)~スカイパーク~(約10分)~東展望~(約1時間20分)~秋津川~(約30分)~奇絶峡

 

自然のチカラを目の当たりにする「ひき岩群」

最初の感想は「まるで屋久島みたい」だった。
密度の濃い森を越えた上にある、不思議な形をした巨石群に、ただただ驚愕するしかない絶景だったのだ。

私が驚いたのには、いくつかの理由がある。
ここが「町から10分」、「登山口から20分」の場所であること、そして「標高100mちょっと」という点だ。市街地近くの丘のような小さな山に、360度を見渡せるこんな景色が待っていると誰が思うだろうか。

この一帯の岩山は、地層が地殻変動によって30度ほど傾き、岩が風化侵食されたことで絶壁が生まれ、遠くから眺めると無数のヒキガエルが天を仰いでいるように見えることから「ひき岩群」と名付けられたそうだ。

第一展望から第二展望所へは、一旦、谷に下りて向かうのだけれど、谷の巨大な岩壁の裾を回り込んで歩くことで、この一帯の複雑な地形を体感できる。乾燥した岩山のように思えたのに、岩陰は鬱蒼とし、湿地や小さな滝のような場所もあり、森が深い。田辺で半生をすごした偉人、博物学者であり生物学者でもあった南方熊楠は、このひき岩群の植生に魅せられ、植物や菌類の観察や採集に明け暮れていたという。

再び一枚岩の展望台に登り、カエルのみならず、川底から這い出したオオサンショウウオや海からやってきたクジラのような巨岩を眺めた。馬の背につけられた爽快な遊歩道を歩きながらこんな不思議な景色を作り出した地球の歴史に想いを馳せた。

興奮はさめやらず、続けて岩屋山の新西国三十三番霊場をめぐることに。13番霊場まで登ると、断崖絶壁の稜線上に石仏が祀られ、立ち並んでいる。石仏たちはみな海のほうを向き、田辺の町を見守っているようだ。先程歩いたひき岩群をやや引いた位置から眺められるので、地形の特異さや壮大さを復習できるような場所でもあった。

石仏の目線を追ってみる。すると、空と海の境界が曖昧なほどの美しい青。民家との距離もとても近く、お布団を干しているのが見えそうなくらいだ。振り返れば、段々に削られた山肌のみかん畑という、田辺の山ならではの景色。みかん畑は太陽に向いていて、この旅でいくつ食べたかわからない田辺のみかんのおいしさの秘密がわかった気分。

「ここにしか生まれ得ない景色」を味わいつくし、田辺の山への驚きと感動を噛み締めながらスタート地点へと戻る。時計をみると、お昼休憩をして、ゆっくり回ったのにコースタイムは4時間弱(早い人は2時間半ほどで歩くそう)。まだまだ、これから町でも遊べる。

……すごいぞ、田辺。
なによりの感想は、この一言に尽きる。

コース(歩行時間/約2時間20分):ふるさと自然公園センター~(約20分)~第一展望~(約15分)~第二展望~(約25分)~ひき岩~(約10分)~岩屋観音(周遊約40分)~(約30分)~ふるさと自然公園センター

 

”水の国”を体感しながら進む「百間山渓谷」

標高999mの百間山(ひゃっけんざん)の南西部にある百間山渓谷。全長3キロにわたって、自然が作る天然の渓谷美を味わえる場所だ。

登山口をスタートし、しばらくすると、耳にしていた川のせせらぎが滝の音に変わった。最初に現れる滝、梅太郎渕が百間山渓谷のプロローグ。次に進む道は、巨大な岩と岩の隙間に設けられた階段の先。岩に吸い込まれていくような気分になりながら登っていくと、本格的に、巨岩と水が織りなす滝の世界が始まった。

石という石、木々の樹皮という樹皮を苔や地衣類が覆い、見上げると空までも森に覆い尽くされた圧倒的な緑の空間。苔たちは水滴を蓄えて、みずみずしく発色している。

岩に砕けるように落ちていく滝、一枚岩の上を優雅に流れる滝、岩と岩の間を縫うような細い滝、それぞれの水の流れが繊細だったりダイナミックだったりと表情が違って、おなじものをひとつとして作らない。自然はだからおもしろい。

100mごとくらいに次々に見せ場が現れ、澄んだ水の色にも魅せられて、歩みを止める回数がついつい増えてしまう。

〜滝、〜渕、〜峡、〜釜、〜壺と、水の様相にあわせてつけられた名前や、逸話や昔話が残る名前など、由来を観察しながら歩いた。

今回のゴールは、落差約30ⅿの「犬落ちの滝」。滝の間には岩が挟まり、落ちそうで落ちない。長い歳月をかけて水研ぎされ、岩が輝いていた。

滝の前で、お弁当を広げていると、朝、かすかに感じていた頭痛が消え去っているのに気づく。ここに来てからずっと響いていた滝の音が、洗い流してくれたに違いない。息をすることで取り込んだ百間山渓谷の水が体に満ちていた。

百間山渓谷をめぐると、古くから“木の国”と呼ばれてきた和歌山が、“水の国”でもある理由がよくわかる。

山に降り注いだ雨が、森によって育まれ、川となり海へと注がれる。そして海は雲を作り、再び大地を潤す。田辺では、この水のサイクルがコンパクトで身近だ。

昨夜、舌鼓をうった海の幸は、この森と清らかな水があってこそ。“水の国”を体感する山歩きは、山と海、自然と私をもつないでくれるのだ。

コース(歩行時間/約1時間20分):百間山渓谷駐車場~(約20分)~雨乞いの滝~(約20分)~犬落ちの滝~(約20分)~雨乞いの滝~(約20分)~百間山渓谷駐車場

 

 

 〜旅人 アウトドアスタイル・クリエイター 四角友里〜

「山スカート」を日本に広めた女子登山ブームの火付け役。現在は講演や執筆、アウトドアウエア・ギアの企画開発を通し、メッセージを発信する。海外の山や日本全国の山を旅しながら、土地の食や文化を味わうのがライフワーク。著書に、登山ノウハウが満載の『一歩ずつの山歩き入門』(枻出版社)、山の思い出を綴ったエッセイ『山登り12ヵ月』(山と溪谷社)など。雑誌『ランドネ』にて「にっぽん食名山」を連載中。Instagram@yuri_yosumi

 

【#1】ここにしかない山と町の風景
【#3】熊野古道・中辺路
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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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