ASICS/GEL-KAYANO TRAINER(アシックス/ゲルカヤノ トレーナー)1993|ランニングシューズの礎を築いた“名作”たち
RUNNING style 編集部
- 2020年01月17日
安定性とクッション性を高次元で融合してアメリカのランナーたちを魅了
「装甲」をコンセプトにデザインされたトップモデル
1984年に公開された映画「恋におちて」は、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの共演により、日本でも大ヒットしたが、個人的に非常に印象に残ったシーンがある。それは映画後半で、メリル・ストリープ扮するモリーが自動車を運転するシーン。じつはこのときの車種がホンダ シビックであり、日本車がアメリカ映画に登場することに誇りを覚えたのと同時に、そのシビックが日本で見るよりもカッコよく感じたのである。ときは日本の対米黒字が問題となり、日米貿易摩擦の文字が新聞を賑わせた1980年代半ばのことだ。
それから10年ほどが経過した’90年代中期、頻繁にアメリカ各地へと渡航することになっていた筆者は、当地で日本のランニングシューズを頻繁に見かけるようになる。それがアシックスのゲルカヤノ シリーズであった。’90年代初期に「日本人よりも体格の大きな欧米人ランナーのために、クッション性、安定性、サポート性に優れたランニングシューズを開発すること」を目的にプロジェクトがスタート。数々の試行錯誤を重ねながら1993年秋に1足のモデルが誕生する。それがゲルカヤノ トレーナーであった。
「装甲」をコンセプトにデザインされたこのランニングシューズは、当時のランニングカテゴリーのトップモデルであり、それまでで最も大きなゲルを装備することで高い衝撃吸収性能を確保していた。それに加えて、優れた安定性と着地から蹴り出しまでの正しい足の動きを促すサポート性をプラスすることで、欧米市場において大ヒット。
その後シリーズ化されたアシックスのゲルカヤノは、前述のように’90年代半ばには高価格帯ランニングシューズのセールスランキングの上位を占めることに成功したのである。このとき筆者は、リーボックというライバル企業に勤務していたのだが、日本人として日本製品が海外で高い評価を受けるのは本当にうれしかった。
開発担当者の名字からモデル名が命名された!
ちなみにカヤノとは、開発担当者の榧野俊一氏の名字から命名され、榧野氏は13代目モデルまでデザインを担当した。最近ではゲルキンセイやゲルキネティックといったより高価なモデルもリリースされるが、同シリーズの人気の高さは不動。今シーズンは第21弾モデルとなるゲルカヤノ 21がリリースされ、欧米市場だけでなく日本のマーケットでも良好なセールスを記録している。これはゲルカヤノ 19以降、大幅な軽量化に成功しており、このことが日本人ランナーに受け入れられたからであろう。
同シリーズはアメリカのランナーの足元に頻繁に見つけることができるシューズであることはすでに述べたが、これはカジュアルシーンにおいても同様である。アメリカのランナーはランのときに履くシューズをカジュアルシーンでも履くことが珍しくないからであり、日本ではファッション的にNGな行為も、なぜかアメリカだとカッコよく思えてしまうから不思議だ。
初めてロードレースに参加することになった2007年のラスベガスマラソンのエクスポで、「ゲルカヤノを街履きにしている人が多いなあ」と思ってからしばらく経ったが、いまもアメリカのマラソンのエクスポ会場ではゲルカヤノを履いてゼッケンの受け取りに来るランナーが本当に多い。そのたびに映画「恋におちて」でホンダ シビックを見つけたときと同じく、日本人としての誇りを感じるのである。
column
初代モデルのゲルカヤノ トレーナーは、最近ではアシックス タイガーのコレクションから現代風にカラーやマテリアルをアレンジされたバリエーションも登場している。
「ランニングシューズの名作たち」のその他記事はコチラから。
SHARE
PROFILE
RUNNING style 編集部
ランニング初心者から、サブ4を目指す中級者まで楽しめるランニング専門マガジン。トレーニングやアイテムの紹介、トレイルラン、イベントまでさまざまな情報をお届けする。
ランニング初心者から、サブ4を目指す中級者まで楽しめるランニング専門マガジン。トレーニングやアイテムの紹介、トレイルラン、イベントまでさまざまな情報をお届けする。