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vol.9「価値ある“走り”とは」|天使よ自由であれ!byケルビム今野 真一

スチールバイクの限界に挑む今野製作所「CHERUBIM(ケルビム)」のマスタービルダー、今野真一の手稿。
「ライダーに、価値ある走りを提供する!」をスローガンに今野真一率いるチームが一丸となって作り上げたチタンフレーム「RacerTi」。価値のある走りとは? 自国の自転車に乗る事で見えてくる自転車界の未来とは?

チタンラインアップ!

われわれはチタンフレームを発表した。新たなスタンダードとして加わるモデルだ。スローガンは「ライダーに、価値ある走りを提供する!」。スタッフ一丸となり製作に勤しむ毎日だった。

先日のサイクルモードで発表した「RacerTi」。デダチャイのチタンチューブをメインに構成。シートチューブとフォークにはカーボンを採用し、よりレーシングな乗り味を実現した

チタンフレームの歴史

日本ではオーダーチタンフレームの認知度は低く、最新鋭に映るかもしれない。しかしヨーロッパでの歴史は長く、レーサーでいえばイタリアが発祥で70年代からロードレースで使われてきた。

その後は数々のメーカーが実戦でも取り入れてきたが、メインストリームは長い間スチールで変わることはなかった。それはチタンは硬く割れやすいという自転車フレームとしては大きな欠陥があったのが理由にも思われる。

1987年「BIKE TECH」12月号。この頃からすでにスチール、アルミ、チタンとそれぞれのフレームでどのような違いが出るのか、さまざまな角度からデータ収集と検証が行われている

しかし、1993年ごろからエフゲニー・ベルズィンの登場によって大きく変わった。プロ転向してクラシックレースを制覇し、翌年のジロではマルコ・パンターニやミゲール・インデュラインを抑えジロを制覇してしまった。この頃がチタンフレームの本格的な幕開けだった。

その後時代はアルミ、アルミ&カーボンバック、そして現在のカーボンフレームへと移行していく。チタンは、レースの世界では数ある素材でも最も短命だった素材なのかもしれない。

しかし、その頃からアメリカのホビーレーサーには爆発的な支持を得る。始まりは、多くのチタンフレームビルダーの登場だろう。

聞くところによれば、アメリカの軍事産業の低迷で多くのTIGウェルダー(チタン溶接職人)が職を失っていたという。そんな技術者たちに目を付けたのが自転車製造メーカーだったそうだ。この時期にチタンビルダーが多く出現し、さらに使用するチタン素材にも変化があった。

この以前のチタン素材は64チタンという素材が主流で、チタン=64という図式だった。64チタンは、硬く割れやすく、しなりの無いフレームになるのが課題だった。しかし80年代以降、もう少し柔らかいチタンを積極的に使うように転換したようだ。

さらにはアメリカ人のチタン好きがあるだろう。彼らはメガネからキャンプ用品に工具まで、ありとあらゆるチタン製品が好きな印象だ。そんな国民性も相まってブームとなったのはうなずける。

この時期に出てきたビルダーたちが基盤を作り、走りというより製作技術面では、あっさりとヨーロッパを抜いてしまったように見えたのは私だけだろうか。

チタンとの出会い

ケルビムは、10年以上米国を中心とした世界のショーに出展している。そこで得る世界の事情は私のビルダーとしての知見の幅を広げ、また流行にも気づかせてくれた。近年はチタンが一番多いのではと感じる。

つながりの強いアメリカンビルダーにより、製造方法の情報など入手しやすく、溶接技術や設備面でもかなり改善されたことがブームの理由だろう。

以前はチタン溶接と言えば大きな釜を真空状態にし、釜内をアルゴンガスで充填させ、その中にフレームを入れ手を突っ込んで溶接するという方法が一般的だった。今はフレーム内にアルゴンガスを充填(バックシールド)させ、トーチからもアルゴンガスを吹き掛け溶接部をシールドするという方法が一般的だ。こちらの方が作業性も良く、設備も少なく容易にチタンフレームに着手できるようになった。

DE ROSAのチタニオ。試験的ながらチタンフレームを実践的なレーシングフレームへと昇華させた一台。3月に永眠されたウーゴ・デローザ氏の思いが伝わる

ドリアーノ氏との出会い

アメリカチタンビルダーの腕前は、本当に素晴らしい。きれいで精度の高い高級フレーム。物として申し分ないが、もう一つ私がチタンを始める上で何か足りなさを感じていた。そんなとき、ドリアーノ・デローザと出会った。

その頃彼は、デローザの工房を離れ娘のマルティーナとともにチタンフレームをメインとするBIXXISを立ち上げ、私にもアドバイスを求めてきてくれた。そして、彼とレーサーフレームに求められる性能やフォルムについて多くを語り合った。

今でも交流を続けるドリアーノ・デローザ氏と。このときはイタリアの工房を訪れ、さまざまな情報交換を行なった

ロシアンライダーのベルズィンの製作秘話に始まり、その頃のカンパニョーロとデローザフレームの相性の良さや躍進劇の数々。そしてさかのぼること、エディメルクスフレームの寸法理論や彼のチタンへの思い(メルクスはチタンフレームも販売していた事もうなずける)レーシングフレームにおいてのチタンを語るビルダーに初めて出会えた。本場のレーサーのリアルな設計理論の数々だった。米国人好みの、きれいで高価なチタンフレームも良いが、「クロモリより走るチタンフレームを作りたい」いつしかそう思うようになった。

チタンの乗り味

われわれは、素材の違いが分かればある程度の乗り味の予想がつく。金属系の素材には必ず比重やヤング率という定義が存在しておりその値で分かる。

自転車に使われる比重順に並べれば、カーボン、アルミ、チタン、クロモリ。となるとクロモリとアルミの間という乗り味が予想される。

しかし製作時に素材と徹底的に向き合うと、予想と違うところが多くあった。思っていた以上に柔らかく、加工もしやすく、粘りがある、そんな印象だ。クロモリ系は肉厚などは別として、素材にも繊細な違えはあれども、劇的には変わらないのだが、チタンはグレードやナンバーによって全く異なる性質を持っているのが特筆すべき点だ。

乗り味は、硬さのなかにもある程度のしなやかさを秘めている。単純に「硬い」という印象ではない。私の語彙力では伝わらないことも多いので、ぜひとも機会があれば試乗頂きたい。

価値ある走り

私の工房には多くの新進気鋭若手ビルダーがいる。今回のレーサーチタンを主導したのも彼らだ。本当に頑張ってくれた。この自転車への情熱は日本人のユーザーによって報われるべきと私は思う。

日本人は海外ブランドが好きだが、アメリカやイタリアでは、ローカリズムが強い。コミュニケーションがとりやすいのはもちろんだが、自国の自転車に乗る事により、産業を支え、地元を支え、自転車発展に参加することに価値を見出しているユーザーが多いと感じる。

日本にはケルビムがある! そして自国で世界的に見ても最高水準のフレームを作るビルダーが多くいる。クロモリ、ステンレス、チタン、さまざまなラインアップが用意され、この国であなたをサポートし続ける。

それらに乗ることは間違いなく、オーダー文化や自転車の未来を作ることとなるのはもちろん、何より日本の自転車界を担う若者を育てることとなる。私はケルビムユーザーにそうして育てていただいた。そこに参加できる喜びこそ、本当に価値のある走りではないだろうか。

 

※この記事はBiCYCLE CLUB[2023年7月号 No.450]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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