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荻窪圭のマップアプリ放浪「東京低地を形作った荒川その驚くべき歴史と秘密」

東京にとって荒川が重要なわけ

さて問題です。東京都荒川区は荒川区と足立区の境界を流れる川に因んで名づけられました。その川の名前はなんでしょう?

答え……隅田川。

古くから東京に住んでる人には当たり前のことなんだけど、はじめて知ったときは「荒川ちゃうんかい!」とつっこんだもんですよ。

というわけで地図アプリで知る地形と歴史シリーズ、第3回は荒川である。

大型台風が来たり、豪雨があったりすると必ず話題になる『荒川』。2019年秋の台風でも『荒川』の状況が何度も報じられたのを覚えているはずだ。

それ、東京東部に住んでいる人にとっては自明のことなのだけれども、なぜ『荒川』が大事なのか。これを地図アプリを使って説明してみたい。

東京低地を守るために作られた荒川

まずは東京の地形の基本。

東京側の武蔵野台地(その東の端が江戸城……つまり皇居や上野)と千葉県側の下総台地に挟まれた東京低地があり、そのど真ん中を貫く巨大な川が荒川だ。

スーパー地形による地図に文字を重ねたもの。武蔵野大地と下総台地の間、東京低地のどまんなかを荒川が流れている。西に旧荒川である隅田川、東に江戸川が流れる。
現代の地図を重ねると、皇居や上野が台地の東端であることが分かる。間の広大な平野とどう付き合うかが江戸の歴史。

江戸時代より前は利根川もここに注ぎ込んでたくらいだから、水害も当たり前というなかなかシビアな土地だったのである。

江戸城を本拠にする徳川幕府としてはそれは困る、でもこの広大な平野を制御できれば広大な水田地帯になる。

というわけで幕府が命令し、超大規模な治水事業が行われ、東京湾に注ぎ込んでいた利根川を銚子方面へ流路を変え、利根川の支流だった荒川も上流で流路を変えて入間川に合流させ、今の原形を作った。

それでも当時の土木技術。もともと低くて平らな土地なので、上流に大雨が降ると容易に川は暴れ、何度も大規模な水害を引き起こしていた。

時は流れて明治42年の夏。

歴史に残る大洪水が起きてしまったのである。

荒川上流河川事務所のページには「利根川の洪水と合わせて埼玉県内の平野部全域を浸水させ、東京下町にも甚大な被害をもたらしました。(中略)埼玉県内では、県西部や北部に人的被害が多く、床上浸水被害が県南や東部低地に多かったのが特徴です。交通や通信網も遮断され、鉄道は7~10日間不通。東京では泥海と化したところを舟で行き来し、ようやく水が引いて地面が見えるようになったのは12月を迎える頃だったそうです」とある。これではやばいということで一大プロジェクトがスタートした。

水害を避けるために、約21㎞の巨大な人工の川(放水路)を作ることにしたのである。それが大正2年。水田が多い土地だったとはいえ、小さな集落やいくつかの古社古刹も移転することになり、巨大な放水路が完成したのが昭和5年だった。

左が明治のおわり、右が大正時代。大正時代は、旧流路を変えつつ、新しく直線的な放水路を作っているのがわかる。

荒川区に荒川が流れてないわけ

そしてできたのが『荒川放水路』。放水路ができる過程を『東京時層地図』(日本地図センター)というアプリで見たのがこの下の図だ。

荒川放水路が完成した昭和戦前期(左)と、現代の地図(右)。おおむね、昭和戦前期に位置は決まっていた。
明治時代の終わりと現代の墨田区・葛飾区あたり。何もないところに荒川が出来、合わせて東武伊勢崎線のルートが少し変わったのが分かる。

何もないところに巨大な人工河川を作ったのだから、平らな土地とはいえかなりの大規模工事だ。

これでややこしくなったのが川の名前。

『荒川』と『荒川放水路』ができてしまったのである。

荒川の千住あたりから下流は『隅田川』と呼ばれていたが、川としては『荒川』だ。

そして、1932年、荒川沿いに『荒川区』が誕生した。荒川沿いだったからである。

だがしかし、荒川と荒川放水路では紛らわしいということで1965年に荒川放水路が『荒川』に、今まで荒川だった岩淵水門(現代地図の左上の隅が岩淵水門)から下流は『隅田川』に名称が変更されたのだ。

かくして、荒川区と足立区の境界は隅田川となり、荒川のない荒川区となったのである。

台風で頑張った荒川第一調整池

話を戻そう。

荒川放水路ができてそれで一件落着かといえばそうでもないのである。

今までは水田地帯だったエリアが住宅地や工場になっていったのである。いざ何かあったときの被害が甚大になるのだ。

もうひとつ、東京低地の下流部は水路が多くて水運が発達しており、地下水も得やすく、平らでしかも元が水田だったので広い土地を確保しやすい、ということで、大正から昭和にかけて工場がどんどんでき、地下水をガシガシ汲み上げてたのである。

高度成長期の荒川下流周辺。丸をつけいているのは工場の地図記号がある場所。それ以外にも小さな工場はいっぱいあったはずだ。それらが地下水を汲み上げた。

そして起きたのが地盤沈下だ。最初に確認されたのは大正時代だったが、そのときは原因がわかってなかった。地下水汲み上げのせいだと確定したのが戦後のこと。

もともと低地だったところに地盤沈下が起きたので、標高がマイナスになる海抜ゼロメートル地帯が誕生して問題となった。

スーパー地形で標高を見てみよう。標高パレットをいじり、ゼロメートル地帯が目立つようにしてみた。

荒川下流域の0メートル地帯を濃い青で表示してみた。もともと、低かった上に、地下水汲み上げにより、地盤沈下が起こったものとみられる。
上の地図を東京低地全体で見たもの。荒川下流域両岸の標高が低い。河口域はさらに新しく、開発されたため対策が施されているようだ。

このあたり一帯は特に洪水に弱く、荒川が氾濫したらえらいことになるわけである。もう全域が水没しかねない。

なので、国は荒川が氾濫しないよう対策をほどこしてきた。2019年秋の台風19号で頑張ったのがそのひとつ『荒川第一調整池』だ。

『彩湖』(埼玉県戸田市)を中心とした一帯は、荒川が増水したとき下流へ流れる水を調節するために作られたもの。普段はグラウンドや秋ヶ瀬公園として使われているエリアを水に沈めることで約3900万立方メートルの水を溜めることができる巨大な設備なのだ。あの台風ではなんと約3500立方メートルを貯留。かなりギリギリまで頑張ったのである。

2019年の台風19号の際には荒川第一調節池が約3,500万?を貯留し、荒川下流域の洪水被害防止のために活躍した。普段は運動場などとして利用されているが、出水時(写真下)には、河川敷や荒川調節池まわりは完全に水没している。(資料提供:国土交通省 荒川上流河川事務所)
彩湖周辺の土地条件図。藤色っぽい一帯が『増水時に水没する河川敷』と示されている。ラグビーワールドカップの際に有名になった鶴見川の遊水池と同様、荒川でも同様の仕組みが働いてるのだ。

しかも、隅田川の氾濫を防ぐため、荒川から隅田川へ流す水を調整する岩淵水門も閉めていたのだ。

隅田川を遡る船上から撮った岩淵水門。台風19号時は隅田川の氾濫を防ぐために閉められた。

いやあヤバかった。河川敷がすべて水没し、調整池が仕事をしたおかげだ。

つまり、大雨や台風がくるたびに荒川が話題になるのは、それが東京低地を水害から守る砦であり、荒川が氾濫すると被害を受ける範囲がとても広く深刻だからなのである。対策は色々されているが、想定を超える可能性もゼロではない。

わたしは細かい起伏が多い武蔵野台地上に住んでいるので、たまに東京低地の各区(墨田区や葛飾区や江東区や江戸川区)を歩くと、ほんとに真っ平らで驚く。何しろ、一番高いのが荒川の堤防で一番の坂道が荒川堤防へ上る道というくらいなのだ。

今回紹介した地図アプリは「スーパー地形」

『カシミール3D』を開発したDAN杉本氏が手がけた地図アプリ。地形や各種地図を重ねて見られる他GPSログ機能もある。
「スーパー地形」
販売元:Tomohiko Sugimoto 取材時のバージョン:4.0.6
価格:無料(App内課金、機能制限解除980円)

■App Storeで「スーパー地形」をダウンロード
■Google Playで「スーパー地形」をダウンロード

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(この記事は『flick! 2020年3月』に掲載された「荻窪 圭のマップアプリ放浪」を再編集したものです)

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PROFILE

荻窪圭 

flick! / ライター

荻窪圭 

老舗のIT系ライター、デジカメライターなるも、趣味が高じて『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社知恵の森文庫)など歴史散歩本執筆や新潮社の野外講座『東京古道散歩』講師なども手がける。 https://ogikubokei.blogspot.com/

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