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高齢者の方こそ、Apple Watchをつけてほしい

(この記事は『flick! 20219月号』に掲載された記事を再編集したものです)

血中酸度ウェルネスの計測、心電図機能の追加、睡眠時間の計測など、AppleWatchは、ここ数年、次々とヘルスケア機能を増強している。

そこで詳しい方にお話をうかがうことにした。『Heart Study AW』というアプリを開発し、AppleWatch Heart Studyという臨床研究に役立てている、慶應義塾大学医学部 循環器内科の木村雄弘先生である。

木村先生は臨床医として、慶応義塾大学の大学病院で診察、治療にあたるとともに、医学部で生徒達に授業も行っている。

スポーツ用とは違うスマートウォッチに心拍計が搭載される意味

木村先生は、2015年の初代からAppleWatchを使い続けている。「もちろん、最初は自分用としても使っていましたが、『学術的な研究にも使えるだろうか』と考えて触っていた部分もあります。スポーツ用の計測デバイスではなくて、『スマートウォッチに脈拍計が付いてくるんだ!』というところが驚きでした」と木村先生。

たしかに、当時のPebbleにはヘルスケア的なセンサーは付いていなかったし、Jawbone Upなどのアクティビティロガーなどにも心拍計は付いていなかった。「まずは、ヘルスケアデバイスと医療機器のデータの比較などを評価するところからスタートしました」

脳梗塞で亡くなる人を予防医療で助けられる

多くの人は、年齢を重ねると同時に、運動不足や、脂質、糖質などの多い食生活が続くと、高血圧、肥満、高血糖、高脂血症などにより血流が悪くなり、内壁にLDLコレステロールがたまり、血管が狭くなる。

「動脈硬化が原因の脳梗塞や心筋梗塞はそうやって起こります。でも、脳梗塞も動脈硬化だけで起こるわけではない。心房細動という不整脈で起こる脳梗塞もあります。不整脈で心房が震えるように動くと、血液が澱んで、白血球の塊ができて、それが詰まる。心臓の疾患というのは、今日は大丈夫でも、明日は分からないのが怖いところです」と、木村先生。

「明日はわかない」という心臓系の疾患が致命的なトラブルになる直前の予兆は、心電図を見ることで知ることができる。しかし、その心電図も、発作が起きている時、つまり血流が詰まっている時、止まりそうな時に計測しなければならない。健康診断で測定する心電図は、1年のうちの一回、30秒ほどの心電図でしかないわけだ。そこで致命的なトラブルの予兆を発見するのは難しい。

「AppleWatchの心電図計測機能によって、医療に補助的に役立つ情報をいつでもだれでも記録できるようになりました。また、無意識のうちに記録をしてくれているので、症状のない不整脈を検出する可能性が生まれました」

「我々、医療従事者は『症状があるときと、通知を受けたときにAppleWatchで心電図を取って、それを見せて下さい』と言えるわけです」

「従来だと、脳梗塞で倒れて、手当てが間に合わなくて亡くなっていたかもしれない人を、一歩先に予防医療で救う事ができます。最新OSでは不整脈の通知が来ますから、通知が来たら心電図アプリを立ち上げて心電図を計測すればいいわけです(デジタルクラウンを触らなければならないので、自動的には計測できない)」

AppleWatchの心電図機能は、心電図アプリを立ち上げ、安静状態でデジタルクラウンを30秒、触り続けることで計測する。

高齢者の方にこそAppleWatchを

『AppleWatchは高齢者の方には難しい』という意見もありますが、臨床研究で高齢者の方に使っていただいた経験では『毎日充電して、腕に巻いて寝て下さい』っていうと、ちゃんとみなさんやって下さいますよ」

「次の診察に来てもらうと『先生、時計が『立て』って言うから一時間に一度立つようにしてるんだよ』とおっしゃる方もいらっしゃいました」

「次にアクティビティの消費カロリーの設定をしてあげて、『赤いリングが一周するように身体を動かして下さいね』とお願いすると、次にお会いしたら『リングが一周しないと気が済まなくなってきた』と言って、体を動かすようになったとおっしゃっていました」

「その方は運転手付きの会社の役員さんでタワーマンションに住んでらっしゃるんですけど、『リングを閉じるために、自分のフロアまで階段を登るようになった』っておっしゃるんですよ」

「これって本当の行動変容ですよね! 私は高齢者の方にこそAppleWatchを使って欲しいと思っています」

ちなみに、先生の利用されているアップル製品は、AppleWatchはもちろんSeries 6。iPhoneは12 Pro。iPadはProの11インチを愛用されている(2021年7月の取材当時)。

予兆を感知できる機能が増えている

「心電図もそうですし、転倒通知や、歩行非対称性もそうです。短期間での評価は難しいですが、急にバランスが崩れてきた場合は、脳梗塞の予兆である場合もあるし、足腰に障害が起こり始めてる可能性があるわけです。転倒しやすさもそうです。整形外科的問題なのか、頭の問題なのか? すぐに分からなくても、それをきっかけに病院に来てもらえば判別できます」

「新しいwatch OS 8ではトレンドと共有がフォーカスされていますから、さらに評価しやすい指標となって便利になるはずです。watch OS 8からは、iPhoneを持ってない高齢者や子供のAppleWatchを、iPhoneを持っている家族が管理できるようになります。秋発売のApple Watch Series 7で、どんな機能が追加されるのかも楽しみですね」

木村先生のように、AppleWatchの機能を引き出してくれる病院がもっと増えて欲しいものだ。

『Heart Study AW』は、いつ心電図を取ればいいのか? を調査するためのアプリ

 

木村先生が協力して開発したHeart Study AWは臨床研究のためのアプリ。目的は「いつ心電図を取るべきか判断するための調査」。

https://apps.apple.com/jp/app/heart-study-aw/id1545085347

夜にApple Watchを装着して寝て、朝起きた時に、いくつか身体の状態や睡眠に関する質問に答える。

睡眠時の心拍状態が解説され、アドバイスを受けられる。調査の7日間が終わってもこの機能は使えるので、ご自分の睡眠時の心拍状態が気になる人は、ぜひ利用してみて欲しい。

 

(フリック!編集部)

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