アップルがロシアのストアの製品の販売を中止
- 2022年03月02日
無関係ではありえない
ウクライナでロシアによる軍事進攻が起こっている。21世紀とは思えない野蛮な暴力で、市民の生活が脅かされている。
フリック!は常々政治的な主張に触れまいとしているが、人口4000万人を超え、東欧のシリコンバレーとも呼ばれるウクライナでの悲劇は、IT業界にも少なからぬ影響を与えており、触れずにニュースを書くことが難しくなってきた。ウクライナに開発拠点を置くアメリカのシリコンバレー企業の関連会社も多いし、逆にシリコンバレーで働くウクライナ人も少なくない。もちろん、日本のIT企業にとっても同様だ。
また、IT技術によって世界中が状況を注視し、敵味方の現場がコミュニケーションする新しい戦争でもある。
ウクライナ軍事進攻では、ミサイルがマンションに撃ち込まれる動画や、傷ついたロシアの兵隊が語る動画がネットに流れ(捕虜の映像を公開するのはジュネーブ条約に反するはずだが、個人が情報発信の手段を持つ現在、どうやってそれを制限するのだろう?)、ロシア軍の車列の衛星画像が公開されている。あらゆる場面がオンラインに公開される可能性がある。
インターネット空間での争いも激しくなっており、国際ハッカー集団アノニマスがロシアに対してサイバー攻撃をしかけているとの話もあるし(これに関しては称賛する声も多いが、攻撃の意思決定プロセスがオープンでない限り、この攻撃が他の国や、社会インフラに向けられないとも限らず、ある種のテロ行為ではある)、トヨタの関連子会社がサイバー攻撃を受けトヨタの全工場が1日生産を中止し、1万3000台の生産に影響が出たが、これも日本政府のロシアに対する制裁措置に対する報復であったとも言われている。我々の生活も無縁ではあり得ないのだ。
副首相のアップルCEOティム・クックへのメッセージ
そんな中、我々が日々取材するアップルをはじめとしたIT企業も影響を免れなくなってきている。
特に気になる動きをしているのは、ウクライナのミハイロ・フュードロフ副首相兼デジタル変革大臣だ。彼はテスラのイーロン・マスクに、スターリンク衛星の提供を要請し、楽天やPaypalにロシア人のサービスブロックを求め、メタ社やGoogleにもロシアでのサービス停止を呼びかけている。
また、アップルのティム・クックにも以下のようなtweetを送っている。
I’ve contacted @tim_cook, Apple’s CEO, to block the Apple Store for citizens of the Russian Federation, and to support the package of US government sanctions! If you agree to have the president-killer, then you will have to be satisfied with the only available site Russia 24. pic.twitter.com/b5dm78g2vS
— Mykhailo Fedorov (@FedorovMykhailo) February 25, 2022
簡単に訳すと「アップルのティム・クックに、ロシア連邦の市民に対するApple Storeをブロックし、アメリカ政府の制裁パッケージをサポートするように連絡しました! 殺人大統領に同意するならロシア24(ロシアの国営放送とのこと)で満足する他なくなるでしょう」ということで、Apple Storeの停止を要請している。
他にも、「ハーグ司法裁判所にロシアを提訴した!」「Visaとマスターに、ロシアでのサービス停止を要求する」「ザッカーバーグさん、ロシアからのインスタとFacebookへのアクセスを遮断して!」「3000丁のアサルトライフルと、200丁の対戦車グレネードランチャーを送ってくれたベルギーに感謝」「ドイツが、対戦車擲弾筒とスティンガーミサイルを送ってくれた! ありがとう」……と実に多くのメッセージを矢継ぎ早に発信している。
もちろん、不当な軍事進攻を行ったロシアは批判されるべきだが、これまでそれらの国々でサービスを行ってきた一民間企業が(おそらく導入の時には、現地の人と協力しあって苦労したことだろう)、軍事的な『制裁』という踏み込んだ判断を要求されるというのは、難しい時代になったものだと思う。
ミハイロ・フュードロフ副首相はDNS統括団体に、『.ru』、『.рф』、『.su』などのトップドメインを停止し、DNSルートサーバーをシャットダウンして欲しい……とまで言ってる。民間団体が、そこまでの判断を要求されるのだ。ウクライナとしては、少しでもロシアの社会的立場を低下させたいということなのだろうが、ロシアのライフラインを停止させてしまうと、それで命を失う人もいるかもしれないし、たとえばTwitterなどにアクセスできなくなると、ロシア国内の民間で起こりかけてる反戦ムードの火を消してしまい、逆効果になるかもしれない。
また、これらが一民間企業の判断で停止されるなら、今後、世界の国々は他国や私企業の都合で停止されない独立したネットワークを構築せねばならなくなり、『世界がひとつに繋がるインターネット』でさえなくなってしまうかもしれない。原因はロシアではあるが、制裁は断絶した世界を産んでしまう側面がある。
世界を繋ぐインターネットの輪をバラバラにしないで欲しい
現時点ではティム・クックはミハイロ・フュードロフ副首相のTweetに直接返事はしていないが、ロシアのApple Store( https://www.apple.com/ru/ )はご覧のように『Apple Storeは現在閉鎖されています』という表示になっており、ApplePayおよび、その他のサービスは制限され、RTニュース、スプートニクニュースのアプリはApp StoreからダウンロードできなくなっているとBBCなどが報じている。
来週あるのではないかと予想されていたApple Eventの告知がないのは、もしかしたら、この混迷の状況で判断を保留しているのかもしれない。
ロシアの軍事進攻はゆるされるべきではない。これ以上、少しの人命も損なうことなく、この事態を終熄させて欲しい。それと同時に、この紛争の後の世界の連帯と調和のために、冷戦終結以来多くの人々を繋げてきたインターネットという世界の輪を、お互いに壊し尽くしてしまうことのないようにしてほしい。
(村上タクタ)
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。