「個人のモノづくり、その第一歩は踏み出しやすくなっている」——藍にいな【Macで、力を解き放つ・インタビュー】
- 2022年03月29日
クリエイティブの世界に飛び込もうとする若者を応援するMacの新CMが17日からオンエアされている。
イラストレーター、作曲家、CGアーティスト、デザイナー、カメラマン……さまざまな若きクリエイターたちが自分の部屋で、Macを使ってクリエイティブに取り組んでいる様子が次々と流れる。
そのCMに登場してしている、アーティストの藍にいなさんに話を聞いた。
若者に人気の多彩な表現力を持つクリエイター
アニメーション、イラスト、漫画など、さまざまなアート表現を手がける藍にいなさん。
大ヒットしたYOASOBIの『夜に駆ける』のアニメーションを描いた方と聞けば、誰もが「ああ! あの!」とヒザを打つに違いない。その他にも、米津玄師の『カナリヤ』、Hey! Say! JUMPの『千夜一夜』、Olivia Rodrigoの『drivers licence』など、数々のミュージックビデオ、プロモーションビデオ、のアニメーションを手がけている。
それだけではない。学生時代に描いたコミックス『セキララマンガ 眠れぬ夜に届け』(祥伝社)は大きな話題になったし、ポスター、広告、装丁などのイラストレーションも数多く手がける。実に多才で、今大人気のマルチアーティストだ。
どの表現手法を採ろうとも、深い心象に迫る絵画表現と、現代の若者、女性としての不安定で緊迫感を表わしたポップ表現の狭間をすくい取り、我々の前に提示してくれる希有な才能の持ち主だ。YOASOBIの『夜に駆ける』は楽曲の素晴らしさもさることながら、ポップでいながらどこか不気味さも漂うあのアニメーションに心をえぐられたという人も多いのではないだろうか?
あのアニメーションはどうやって作るのか?
藍にいなさんのアニメーションは、パラパラ漫画の要領で、ご自身がひとコマひとコマMacを使って描いている。PV1作でなんと1,000〜1,500枚もの絵が必要。それをすべて1〜1.5カ月かけてひとりで描き上げるのだという。
「Macは最新のM1 Max搭載のMacBook Proを使っています。それにWACOMの32インチの液晶タブレットを組み合わせ、Clip Studioで作画します。作画したものをAdobeのAfter Effectsでアニメーションへと構成しています。大きな絵を扱っていても、手を動かすとおりに瞬時のレスポンスの遅れもなく描けるので、デジタルでも違和感なく絵を描くことができます」
「大量のイラストを繋ぎ合わせるアニメーション生成のステップでも、M1 Max搭載のMacBook Proを使うようになって、あっという間に終わるようになりました。以前、私が使っていたMacだと3〜4分の映像を描き出すのに1時間ぐらい掛かっていたのですが……。今は、書き出しに時間がかからないので、仕上がりを見てから『もうちょっとここを変更しよう』というような試行錯誤もしやすいのです」
「Macは操作がすごく身体の感覚と結びついている感じがして、本当に手放せません。After Effectsを使っている時の細かいズームとか、作業している時に身体の感覚通りにレスポンスしてくれるので、これなしには作品を作るのは難しいと思います」
音楽のPVの場合は楽曲の内容を聞いてから映像を作るのだろうか?
「そうですね。曲を聞いてから作りますし、曲調や歌詞などからイメージを膨らませて映像を考えます。あくまで曲が主役だと思っていますので、曲の世界観を大切にしています。私の場合は、わりと『藍さんのイメージで、自由に作って下さい』と言われることが多いので、その段階でまず、だいたいの絵コンテを作ってお渡しして、それを見てもらって修正点を相談して、あとは毎日黙々と絵を描いて完成させます」
イラストも同じくClip Studioを使う?
「MacのClip Studioを使う場合もありますし、最近はiPadを使うこともあります。iPadの場合はProcreateで描きます。iPadは、MacとClip Studioを使う時よりアナログなテイストを出したい時に使います」
アートとポップの狭間で
学生時代からMacを?
「東京藝大だったので、周りはみんなMacでした。今は、コンピュータを使った授業もありますし、必需品です。学校でもMacを使うので、自然とMacを使うようになりましたね。最初のMacは入学してから、たしか大学2年生ぐらいの頃に買いました」
今、まさに新しくMacを買ってクリエイティブに挑戦しようとしている若い人にメッセージを。
「今は、昔と違って自分の作った作品をウェブサイトやSNSで公開できますから、作品として認められないと商業媒体に乗らなかったという時代よりは、『多くの人に見てもらう』という最初の一歩は踏み出しやすくなっていると思います。もちろん、公開しても『誰にも見てもらえない』ということにも自分で直面してしまいますが。たぶん、最初に発表する時には『見られななかったらどうしよう』ということも含めて、すごく緊張すると思います。それでも、敷居は低く、挑戦しやすくなっていると思います」
「学生時代、漫画をTwitterをメインで発表していました。Twitterなので、RTとか『いいね!』が増えると嬉しいのですが、そういう反応ばかりを気にして作ると、自分の作りたい、作るべきものから離れていくこともあって……『RTや『いいね!』の数はもらえるけど、健康的ではないな』と、感じることもあって。それ以来、数字だけじゃなくて、自分の感性、作りたいものも大事にするようにしています」
学生時代から、ヒットを経験され、今や押しも押されぬトレンドの先端を行くクリエイターとなった藍にいなさんだが、アート表現と、多くの人に受け入れられるポップさのバランスには気を遣っていらっしゃる。その感性があるからこそ、多くの人の心に染み入る、まさに時代にフィットしたクリエイティブを産み出し続けられているのだろう。これからも藍にいなさんのクリエイティブから目が話せない。
(村上タクタ)
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。