アップルが村田製作所や恵和など日本企業にも要請する、100%再生エネルギー使用
- 2022年04月30日
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サプライヤーも含めて、100%再生可能エネルギーを使用
アップルは、2018年に自社のすべての活動を100%再生可能エネルギーで行えるようになったと宣言した。それと同時に、自社のみならず、自社が部品を購入する企業にも2030年までに100%再生可能エネルギーでの製造するように要請している。
そんなことが可能なのか? そして、それはどうやって実現しているのか、経済的負担は大きくないのか?
日本国内で、アップル向け製品の100%を再生可能エネルギーで生産している村田製作所と恵和の2社に話を聞いた。
環境問題に関しては例外的に情報が提供される
アップルは自社の製品の部品をどこから購入しているかについては通常は情報を公開しない。
これは、iPhoneならiPhoneという製品それ自体がアップルの製品であり、部分部分がどこで作られているかは問題ではない、またそのことを伝えたくない……という意味もあるだろうし、たとえばひとつの製品でも、部品供給メーカーが複数であったり、途中で切り替えたりする場合もあり、そういう時に同じiPhoneという製品の間で価値の差違が生じてしまうのは望ましくない……ということでもあるのだろう。
たとえば、A社とB社、2社からバッテリーを供給されているとして、A社の方が劣化が速い……というような情報が出た場合に、「B社バッテリーを積んだiPhoneの方が価値が高い」ということが発生してしまう。どれほど品質管理をしても、わずかな差は出てしまうだろうし、その差が気になるのがユーザーというものだ。そんなわけで、部品供給メーカーに関してはあまり情報公開されないし、部品供給メーカーとも非常に厳密な守秘義務契約が交わされる。
ほぼ唯一の例外が、再生可能エネルギー、環境などに対する情報公開だ。今回も、日本の村田製作所と恵和に対する取材が許可された。ただし、どの部品を供給してるかは言及されなかったので、その点は両社の得意とする商品カテゴリーからの推測であることはご了承いただきたい。
アップルの高度な製品を支える村田製作所
村田製作所は京都に本社を置く電子部品メーカー。部品供給メーカーなので、超メジャー企業だとは思われていないが、精密電子部品、特にセラミックスコンデンサー、セラミックフィルター、高周波部品、センサー部品などについて、圧倒的なシェアを持つ。売上高は約1兆6000億円を超える日本有数の企業である。
前述のようにアップル製品のどの部品を生産しているかは公開されていないが、さまざまなiPhone、iPad、Macの中の非常に多くの重要部品を作っているであろうことが推測される。特に5G通信のためのキーパーツである積層セラミックスコンデンサーは村田製作所が非常に優れた技術を持っているので、同社で生産されている可能性が高い。
そんな村田製作所は、製造業だけに電気の需要は大きい。2020年度の電気の使用量は日本国内で1.6TWh、グローバルで2.6TWhとなっている。
これだけの大企業ともなると、アップルの要請がなくとも環境に対する配慮は社会的責任として重視されており、多くの気候変動関係のタスクフォースや、協定、目標設定などの取り組みに参加している。すでに着々と成果は上がっており、CDP Climate(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクトの気候変動)で、8段階評価の最上位であるA評価を得ているほどの企業である。
とはいえ、製造業というエネルギーの大量消費を避けられない企業で温室効果ガスを削減するのは大変なこと。
村田製作所全体としても、2030年までに50%の削減を目標に
村田製作所の中期方針では、2019年を基準として、5年後の2024年には20%削減、11年後の2030%には46%削減が目標となっている。
そして、再生可能エネルギーの導入比率は、2024年には25%、2030年には50%、そして2050年には100%が目標となっている。
当然のことながら、安価なエネルギーを追求するよりコストはかかるが、それでも今後、これらの目標を追求していくことが大切になっていくのだ。
中でも、アップルに供給する製品の多くを作っている福井県の金津村田製作所クリーンエネパークでは、自家消費タイプの『ソーラー+蓄電池+制御』を導入。電力企業から購入する契約電力の再生エネプランに、自社の屋根とカーポートの上に設置したソーラーパネルを組み合わせ、再生エネルギー由来の電力100%を達成した(2021年11月)。
まず、ソーラーパネルはオフィスの屋根(255KW)と駐車場の上(383KW)に設置される(計638KW)。
この電力は、当然のことながら季節要因や、1日の中でも昼に供給が大きく、夜には少ない。発電所の系統電力から見ると、用意しなければならない電力に対して不安定要因が増すことになる。
自社技術であるFORTELIONと制御技術を使用
そこで、村田製作所では自社製品であるFORTELIONというオリビン型リン酸鉄リチウムイオン二次電池を活用。913KWhを蓄電池から供給できるようにした。 オリビン型リン酸鉄リチウムイオン二次電池というのは、正極材にオリビン型リン酸鉄リチウムを使ったバッテリーで、15年以上の期待寿命と高い安全性を持つ。オリビン型リン酸鉄リチウムは結晶構造が熱的に安定しており、過充電、内部ショートなどを起こしにくい。容量の劣化も起こしにくく、長寿命という最新のバッテリーだ。
このバッテリーと、ソーラーパネルを組み合わせ、同社の制御技術で運用することで、翌日の発電量と消費電力を予測し、電池を放電したり充電したりすることで、系統電力への負担を安定させることができる。
村田製作所の工場ほどの規模になると、一概に系統電力への依存を一気にゼロにするよりも、負担を安定化させた方が、経済的にも環境的にも優れた運用が可能とのことだ。
また、この蓄電池と制御技術については、今後他社への販売なども行っていく可能性もあるという。村田製作所の場合、再生可能エネルギーの使用が、あらたなビジネスを産んだともいえる。
これから、iPhoneを使う際には、このiPhoneの中にある小さな小さなコンデンサーたちが、福井県で再生エネルギーを使って生産されているということに思いを馳せていただきたい。
バックライトの光拡散シートは和歌山の山奥で作られている?
恵和は戦後関西で繊維業界に防水紙を供給したことからスタートし、西日本のトップ加工紙メーカーとして成長した企業。現在は、製膜、積層、塗布の優れた技術を持つ高機能フィルムメーカーとして成長している。
アップルには、液晶ディスプレイのバックライトの光を拡散させ、ディスプレイをムラなく均質に光らせる光拡散シートなど、アップルの製品クオリティを支えるさまざまな高機能フィルム製品を供給していると思われる。
恵和は売上高約180億円と中堅規模のメーカーだが、アップル製品の製造に再生可能エネルギーの使用を要請されたことをきっかけに、2030年には2013年実績比で46%以上削減するという目標を立てた。
電力の地産地消を意識して風力を使用
特に、アップルに供給している製品の主要生産拠点である和歌山テクノセンターでは、100%再生可能エネルギーで稼働。和歌山テクノセンターは南紀白浜空港などに近い山中にある。同社では、より環境負荷が少なく、十分な供給能力のある発電所からの購入を……ということで電力の地産地消も意識して同じ紀伊半島の山中にある、三重県の度会ウィンドウファームから購入している。
エネルギーを使うパーツのサプライヤーにとって、再生エネルギーを使うことは、大きなコスト増になる。しかし、現在の社会的要請として必要なことであるし、再生可能エネルギーを使うことで、アップルからの大きな発注があるということで、サプライヤーにとっても十分見合う話になっているという。
再生可能エネルギーの利用についてもいろいろな方法があり、アップルに部品を供給しているサプライヤーもさまざまな工夫をして、これら再生可能エネルギーの積極利用を行っているのである。
(村上タクタ)
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。