
サイクリストの聖地8つの島の8つの山をめぐる島山バイクパッキング in しまなみ海道~ゆめしま海道【アラフォー4人の野遊び日記】|PEAKS 2025年8月号

PEAKS 編集部
- 2025年06月20日
INDEX
島山、それは旅情を募らせる響き。
登山道具を詰め込んだバッグを自転車に取り付け、多島美とグルメを堪能した2泊3日の島山旅。
編集◉PEAKS編集部
文◉大堀啓太(ハタケスタジオ)
写真◉宇佐美博之
取材日:2025年5月11~13日
メンバー
毎度珍道中を繰り広げるアラフォー4人。今回は、ヨシザワがケガのため欠席。
・(左)ミヤガミ/小誌編集長。バイクパッキングに適したグラベルバイクを走らせる。
・(中)オオホリ/記録係のライター。スリックタイヤを履かせたMTBで参戦。
・(右)ウサミ/記録係のカメラマン。クロスバイクにまたがりカメラを構える。
旅のルート
8島をめぐる約130kmのバイクパッキング旅のルート。
広島と愛媛にまたがる芸予諸島。合計8島をめぐる約130kmのバイクパッキング旅。
西ヘと向かう車内、男たちは無言だった。助手席のミヤガミは静かな寝息を立て、後部座席ではウサミがパソコンを叩いている。そして、ヨシザワの姿はない。
「手のケガの治療で安静にといわれたので、不参加で」(ヨシザワ)
そう告げられたとき、3人は「お大事に!」と口を揃えた。その瞬間にはもう、次の計画の歯車が回り始めていた。
「島山っていいよね。しまなみ海道とゆめしま街道を自転車でめぐろうよ」(ウサミ)
「各島の最高峰に登るってのは?」とオオホリが加わる。「じゃあ、なるべく多くの島をめぐろう。自転車の機動力を活かしてさ」。ミヤガミも乗ってきた。
こうして3人の島山旅が幕を開けた。舞台は広島と愛媛にまたがる芸予諸島。合計8島をめぐる約130kmのバイクパッキング旅。
各島の最高峰を登るうえ、なんとご飯のおかずは釣って調達というルール付きだ。
鼻歌まじりにペダルを回し、夜は海鮮づくし。そんな夢のような旅が始まると、信じて疑わなかった。まさか「アルプス縦走よりもキツいよ」とウサミが漏らすことになるとは、まだだれも知らない。




1日目
「あれ、登るの?」
旅の初日、1座目の観音山を眺めて思わず声が漏れた。標高472m、海面からそびえるその山容は数字以上の迫力だ。大三島と生口島を結ぶ多々羅大橋を登るように渡りながら、登山とは異なる筋肉の疲労に脚が戸惑う。だが、橋の上からの絶景に気分は上がり、「おぉ、いいねぇ」とミヤガミとウサミも声を揃えている。生口島のレモンの香りを胸いっぱいに吸い込みながら進むと、観音山の登山口へと続く道に差し掛かった。
標高230mほどにある登山口まで、先頭を切ってグングン漕ぎ上がるミヤガミ。いつになく背中が頼もしい。登山口に自転車を置いて、整備された登山道を登り、1座目の山頂にまず立った。
「自転車はきついね。普通に歩いて登ったほうが楽だよ」(ウサミ)
「え、もう足がヤバい。もっとゆる旅かと思ってたわ」(オオホリ)
バイクパッキング旅の洗礼を味わいながら下山していると、ミヤガミが叫んだ。「え?ファミリー専用?まじで!?」。顔を見合わせる男たち。なんと予定していたキャンプ場がファミリー限定だった。初日の行動計画は早くも軌道修正され、キャンプ地も変更。旅にハプニングはつきものだ。

2座目の奥山へは、藪が茂る廃道を登る。こんなのは聞いていない。背後からは情けない声が響く。
「ひざが笑ってるよ……太ももが、つる」(ミヤガミ)
さっきの頼もしさはどこへやら。その声に反するようにウサミの顔には笑みが浮かんでいる。
「自転車のあとにこれ登ると、効くねぇ」(ウサミ)
苦しいけど、楽しい。そんな空気が漂う。やがて稜線に出ると、遊歩道のような整った道が現れた。登るルート、間違えてるじゃん。だが山頂から見えたのは、しまなみのエーゲ海と称される、真っ青な内海と点在する島々。全身がふわっと軽くなるようだ。
「低山ってナメてたね」(ウサミ)
「1日1山で十分かも」(オオホリ)
疲労感を吹き飛ばすように広島名物のお好み焼きでカロリーを補給し、キャンプ場へ。そして始まるおかずチャレンジ。そう海釣りである。経験はほぼゼロ。情報収集もゼロ。期待だけはMAX。しかし、現実は非情だ。釣果ゼロ。晩ご飯は、まさかの素パスタのみとなった。





2日目


2日目は渡船でスタート。地元の人にとっては日常的な海のバスだが、旅人にとっては、風情たっぷりの特別な時間だ。
順調に3座目、4座目、5座目とクリアしていくが、どんどん重くなる足。
「ガチ漕ぎじゃん!」思わず声が漏れる。想像していたゆる旅からは遠く、スタンプラリーのようにこなす山行。
予定していた6座目の積善山に向かう途中、だれからともなく「明日に回そうか?」という空気が流れる。こうして、岩城港でこの旅初のゆったり時間が訪れた。昼寝をする僕の横で、ミヤガミとウサミが釣り竿を出す。やはり釣れない。2日連続のおかずゼロ。
さすがに心が折れ、ルールは自分たちで撤廃。おかずを買い、津波島へと渡してくれる遊漁船を待った。旅には柔軟さも必要だ。


津波島は、かつて数世帯が暮らしていたというが、いまは無人島。整備されたキャンプ場以外は、野生に帰している。最高峰はたかだか80mと思いきや、濃い藪と野ばらのトゲに何度も行く手を遮られる。なんとかたどり着いた山頂では、三角点が迎えてくれた。
疲労困憊でキャンプ地に戻ると、游漁船が桟橋に停まっている。海の幸を味わってほしいと、50cmほどもあるヤズ(ブリの若魚)を3本も船長が差し入れてくれた。脂がのったプリプリのヤズを刺身、塩焼き、アラ汁で味わい、島で採れたレモンは絞ったお酒で楽しんだ。



*
「ヤズでタンパク質ばっちり補給できたね」ウサミは妙に元気そうだ。こっちは3日目にして、太もももふくらはぎもパンパン。たぶん脚に鉛が詰まっている。
宿題として残しておいた積善山は、山頂直下まで舗装路が続いている。自転車で登頂してやろうと、意地だけでペダルを回す。ウサミも無言のまま漕ぎ続けている。一方、ミヤガミはバイクを降りて押している。「最後にもう1座あるからね」。足をつってしまった初日の反省を生かしているらしい。
自転車でたどり着いた積善山の山頂で、次に向かうべき鷲ヶ頭山の姿を確認。深呼吸ひとつして、大三島に向けて風を切った。



大三島に渡り県道21号で三村峠を越えて、いよいよ最後の1座の鷲ヶ頭山の登山口に立った。
登山道はしっかり整備されている。でも、急登が続き、じりじりと照りつける太陽が、体力も気力も容赦なく奪っていく。
3人とも口をついて出る言葉は「アチィ……」ばかり。それでも、街と海と島々の景色が背中を押してくれる。まさに這う這うの体で、ついに登頂。男たちの顔には、達成感と濃密な疲労感が刻まれていた。
だが、まだ旅は終わらない。三村峠を越え返して車に戻り、そこからは700㎞超えのロングドライブ。家に帰るまでが旅なのだ。



8座の登頂記録
空腹と疲労困憊の中、全8座を完登した記録。
【1座目】生口島・観音山(標高 472m)
本旅の最高峰。登山口から整備された登山道を登ると1時間ほどで山頂に。山頂には観音堂や鐘撞堂がある。



【2座目】因島・奥山(標高 390m)
山麓から山頂にかけて西国三十三所の本尊を模した石仏が安置され観音山とも呼ばれている。



【3座目】弓削島・三山(標高 325m)
かつて整備されていた散策路はいまでは草がボーボーと生い茂っていた。山頂には山名を記した小さな板のみがある。
【4座目】佐島・横峰山(標高 120m)
佐島の中央に位置。登山道はきれいに整備されていて登りやすい。山頂には石のモニュメントが置かれている。
【5座目】生名島・鉢巻山(標高 141m)
多島美を満喫しながら一番気持ちよく登れた山。ザレている足元は滑りやすいため、とくに下山は注意したい。

【6座目】津波島・名もなき山(標高 87m)
間違いなく本旅の最難峰。地形図に山名の記載はない。藪や野ばらが生い茂る人跡のような道なき道を登り、なんとか山頂に立てた。




【7座目】岩城島・積善山(標高 370m)
岩城島の中央に位置して、岩城富士とも呼ばれて親しまれている。山頂の展望台からは、360度の大パノラマが広がる。
【8座目】大三島・鷲ヶ頭山(標高 436m)
山麓の大山祇神社のご神体山でもある。整備された自然研究路が、花崗岩の風化による巨岩奇岩を縫いながら山頂へ続く。


【PICK UP ①】編集長ミヤガミが旅をともにした山シャツ
写真でも着用している、編集長ミヤガミが今回の旅をともにした山シャツは、PEKASオリジナルウエア「ウェイファーラー ショートスリーブ シャツ」。
コットンライクは肌触り、吸汗速乾性&ストレッチ性をを備えているので、登山やハイキング、サイクリングなどのアクティブなシーンでも快適な着心地です。さらにベーシックなシルエットと、シワになりにくい素材は、タウンユースとしても大活躍します!
- カラー:ミルク(オフホワイト)、ブラックベリー(ネイビー)、ピスタチオ(ライトグリーン)
- サイズ:XS、S、M、L、XL (ユニセックス)
- 15,800(税込)
PEAKSオリジナル山シャツ「ウェイファーラー S/S シャツ」
【PICK UP ②】アラフォー4人の裏ちゃんねる
取材の裏話と、山遊びをテーマにしたスポットや道具のフリートークを、アマゾン、スポティファイ、ユーチューブで配信中。漏れなくこちらもチェック!
※この記事はPEAKS[2025年8月号 No.173]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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編集◉PEAKS編集部
文◉大堀啓太(ハタケスタジオ)
写真◉宇佐美博之
取材日:2025年5月11~13日
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。