筆とまなざし#111「小さな岩のなかに詰まった、限りない冒険性」
PEAKS 編集部
- 2018年12月10日
小さな冒険
二週間弱、カリフォルニアへ取材旅行に行ってきました。ザ・ノース・フェイスのカタログ冊子の取材で、ぼくはふたりのクライマーにインタビューするために同行しました。詳しくは、来春の発行をお楽しみにしていただくことにして、今回はその取材旅行で思ったことを少し。
クライミングがテーマの冊子のため、目的地はジョシュアツリーとヨセミテ。いわずと知れた世界的なクライミングエリアです。1970年代、アメリカでフリークライミングが興隆した時代の中心地です。ジョシュアツリー滞在中は連日好転で、乾燥しすぎて喉がやられるほどのクライミング日和(ヨセミテは雨でしたが……)。撮影の合間に少しだけクライミングを楽しませてもらいました。茶褐色の花崗岩が無数に点在し、サボテンのような特徴的な「ジョシュアツリー」が生えている、なんだか異世界のような場所です。
ここで有名なのはトラッドクライミングですが、岩はそれほど大きくなく、そのような岩は格好のボルダーとして昔から登られていました。とはいえ、ルートにしては低い、けれどボルダーにしては高い、つまりハイボルダーが多いのがジョシュアツリーの特徴でもあります。そして、めぼしいハイボルダーの多くが1970年代80年代に初登されたクラシック課題。当然、いまのようなクラッシュパッドはありません。そんなハイボルダーの初登者名を見ると、多くがあるレジェンドであることがわかります。「ジョン・バーカー」。日本では、彼が登る「Midnight Lightning」の写真によってフリークライミングの波が押し寄せたといわれるほど、世界的にも有名なクライマーです。フリーソロの名手としても知られていました。
今回登ったなかで印象に残ってる「So High V5」も彼が初登したものでした。ジョシュアを代表する課題のひとつ。日本のグレードでいえば1級くらいで決して高難度ではありませんが、名前のごとく、高さは25フィート(8m弱)。上部で落ちたら大怪我は免れません。そこで思いを巡らせます。仮に、このルートにボルトが打たれていたらどうなっていたか?(一応クラックっぽい溝があるのでトラッドか?)。おそらくボルト数は3本、グレードはせいぜい5.11+くらいでしょう。ジョン・バーカーは同じくらいの高さの岩にもボルトルートを作っており、上部がスラブでなかったらボルトルートになっていたかもしれません。しかし、もしそうなっていたらきっと「わりとおもしろい5.11」でしかなかったでしょう。安易に取り付くことのできる、それなりのルートに成り下がっていたはずです。ボルダリング課題として残されたことによって、このラインは冒険性を失うことがなく、崇高な3つ星課題として愛されているのだろうと思います。あるいは、クラッシュパッドのない時代、ボルダリングとフリーソロの違いはいまよりも曖昧だったのかもしれません。そこに、アドベンチャーとしてのフリークライミングの姿が垣間見られるのです。
帰国後早々、ホームエリアの笠置山へ向かいました。山を歩いて見つけた、6mほどのボルダー。前傾した壁の中間部から美しいフィンガークラックが左上し、リップまで繋がっています。こんな小さな岩にも、限りない冒険性が詰まっています。
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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