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筆とまなざし#140「9月公開の『フリーソロ』。試写会に参加してきました」

『フリーソロ』の試写室は、オフィス街の一角の地下にありました。ちょうど入り口は工事中で、細い路地を入った裏口からエレベーターで地下一階へ。たくさんの映画のポスターが貼られたなかに、エルキャピタンを登るアレックス・オノルドの姿がありました。

昨年のクライミング映画の目玉が『ドーン・ウォール』なら、今年は間違いなく『フリーソロ』です。どちらもアメリカでは2018年の公開でしたが、昨年日本で公開されたのは『ドーン・ウォール』のみ。『フリーソロ』は日本では観られないかと思っていたところ、クライミングドキュメンタリー映画にしてアカデミー賞を受賞したことから話題になり、9月6日から全国で公開されることになっています。

主人公のアレックス・オノルドは数々の難ルートをフリーソロ、つまりロープを付けずに登ることで有名なクライマー。ロープを付けないということは、フォール(墜落)はすなわち「死」を意味します。もっともリスクの高いクライミングです。アメリカには昔からフリーソロの伝統があるのですが、現在、オノルドの右に出るものがいません。そして、歴代のフリーソロイストのほとんどはすでに死んでいます。オノルドがフリーソロしたルートで有名なのは、ザイオン国立公園の「ムーンライトバットレス」(5.12d)、ヨセミテはワシントンコラムの「アストロマン」(5.11c)などで、どちらも熟練クライマー憧れのルート(もちろんロープを付けて登る)です。どちらも12ピッチ。マルチピッチとしては十分な長さのあるルートです。しかしヨセミテの象徴でもある高度差1000mのエルキャピタンをロープを付けずに登った者はこれまで一人もいませんでした。そんな前人未到の挑戦を追ったドキュメンタリー映画がこの『フリーソロ』。ちなみにオノルドが選んだルートは「フリーライダー」(5.12d)で、エルキャピタンのフリールート中ではグレードの低いものですが、世界中のクライマーがいつかは挑戦したいと願う高難度ルートです。「フリーライダー」は33ピッチ。ピッチ数だけでも「アストロマン」の3倍近くあります。

さて、映画の詳しい内容は劇場でご覧いただくこととして、印象的だったのはオノルドをめぐる人々の心模様。失敗すればオノルドの死の瞬間を撮影してしまうという状況の撮影クルー、愛する人間が憧れるあまりにも危険な挑戦とどう向き合うかと葛藤する恋人のサンニ、そしてオノルド自身も様々な葛藤の中で、しかし完璧に準備を進めていく。ドキュメンタリーなのだけれど、あまりにも映像が美しく、物語が完成されていて、現実なのかそうでないのかさえわからなくなってきます。それは実際のクライミング映像についても然り。成功することはわかっているのですが心臓の鼓動が激しくなり、しかし一方でこれはフィクションなのではないかとさえ思えてくる、不思議な感覚。あの高さのスラブであのスタンスに乗っているのか・・・あのムーブをロープなしで・・・。ちなみに、核心ピッチのひとつの「テフロンコーナー」は岩がツルツルであまりにも不確定要素が高いためバリエーションを登っています。こちらは通常はダブルダイノがあるようですがそれもリスクが高すぎるためスタティックムーブを解明、トポを見ると5.13aグレーディングされています。

異次元のクライミングをこの目でしっかりと見られる、いわば記録映画としても非常に価値のある作品。公開されたら友人を誘ってもう一度観に行こうと思います。

『フリーソロ』の映画情報はこちら→http://freesolo-jp.com

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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